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蒼刻の彼方に  作者: ドグウサン
1章 胎動する者達
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【国を背負いし者達】 刹那の攻防

【国を背負いし者達】


鬱積の日々だった。

誹られ、蔑まれ、酷烈なる言葉と仕打ちで埋め尽くされた日々だった。

それは芽生えるべくして芽生えた。

矜持など適わぬほどに。

出来損ない、それが覚えている父親の最初の言葉だった。

確かに自分でも傑出した人物ではないと認識していた。

只、同じ時、同じ土地に生まれ落ちたが不運。

獅子王ハーゲン。

それが対照だった。

隣国の王子と言うだけで比較対照とされ、親からそして国民から蔑まれた。

出来損ないと。

メリュッテンスの国民すらカリオストの王子を褒め称え、そして代わりの自国の王子を蔑ろにした。

外に出れば陰口が聞こえなかったことはない。

冷遇を強いられた。

悪辣なる声が耳のこびりつくまで。

それでも、父の命じるままに努力をした。

だが、失敗するごとに叩きつけられる罵りが心を削り、そして国王が吐く言葉がそのまま国民に刻み込まれ、そして私を追い込んでいった。

この国は私の敵だった。

そして私は父を手にかけた。

何だと想った。

こんな酒に溺れ、ヨレヨレな男がこの私を蔑む権利があったのだろうかと。

私の心は晴れなかった。

それどころか、苛烈に憤怒が増すばかりだった。

そう、あの男がいる限り、私の鬱積した怨嗟が晴れることはない。


(もう直ぐ、もう直ぐだ。

お前の叫びが私の心を沈め、寂寞(じゅくまく)にしてくれる)


世襲制により王になった男の復讐劇がここに開幕しようとしていた。




月が群雲に覆われ、辺りは闇に閉ざされた。

風が靡き、肌寒い空気を空から運んでくる。

身を潜めていた男は、その寒さの身震いしながら、パートナーの帰りを待っていた。


(ちっ、後4時間まで迫ってるって言うのによ、本部との連絡は取れないとは。

どうしちまったんだ)


昼前から電波が乱れているのか、全く連絡が取れないでいた。

通信機はジーとか、ビッビッとかしか返答してくれない。

その上にあの噂だ。


第2学年(ランデベヴェ)の誰かが捕まったってのは本当だろうか?

未熟な生徒なんて、こんな大それた作戦に参戦させるから、想わぬ事態を招くんだ。

上もなに考えてんだか。

ちっ、ジャンケンに負けなければ、俺が得点稼げたのによ)


今ミッションに携わっている破壊工作員(バルディッシュ)の内一人は、噂が嘘か真かを調べ、そして真ならマヌケな第2学年(ランデベヴェ)の始末と、情報管理送還装置(ライブラ)及び、後ろ首に埋め込まれた魔晶石(デモノデバイス)を回収しなければならない。

寒空の下で待つよりは、よっぽど有意義な時間を過ごせたと舌打ちする。

本部と連絡が取れない今、機密の回収だけでも実行しておかなければ、戻った際に減給されるかもしれない。

暇なので敷地内から遠ざかり、無線機を耳にしてみる。

やはり雑音しか奏でなかった。


「どうなってんだ」

「気にする必要ない。

アナタはここで永遠に眠るんだから」


突如、耳元で囁かれる物騒な言葉。

気配はない。

声だけがその場から発せられたかのような感じがした。

エッと声のする右手の方に首を振る。

横手には女がいた。

その女は横になり、そのまま流れていく。

手足に信号を送り、動こうとするがまるで反応がない。

何故なら、信号を送る脳とそれを受ける肉体は先程斬り離され、脳を収めた頭はこの瞬間にも重力に引かれて落ちているのだから。

男は自分に何が起きているのか理解できないまま、ブラックアウトしていく。

女が送った台詞通り、永遠の眠りに堕ちていく。




迷路のような通路がグネグネと続いていた。

前日に叩き込んだ城の見取り図がなければ、1時間は迷っていたかもしれない。

それに情報がリークされてしまっているのか、この城の人間は戦の準備に明け暮れていて、城内を駆けずり回っている。

見つからずに牢獄までの道程を進むのは骨が折れた。


(確か、この先に)


情報管理送還装置(ライブラ)により刻んだ情報を検索し、地図が脳裡に展開される。

地図の通り、その先には地下へと続く階段が存在した。

警備兵と思わしき気配は、地下からしてこなかった。

もしかしたら準備に忙しくて、ここの警備は放置されているのかもしれない。

とりあえず、確認の為に物音を立てずに下っていく。


(警備の者はやはりいないな。

んっ?)


奥の厳重そうな牢屋があった。

そこから空気の流れを感じる。

恐らく、そこに人がいるのだろう。

足音を殺し、サッとその牢屋の前までいく。

強固な鉄作りの扉。

唯一覗ける開閉窓を開け、中を覗いて見る。


(!?)


そこには誰も居なかった。

確かに何かが存在する気配に似たものをを感じたのだが。

突然下ってきた階段の方から凄まじい音がしてくる。

急いで引き返し、階段の上部を見ると、そこには壁を破壊し、この通路を塞ごうとする者の姿があった。

そこで先程、脳裡に展開していた地図が事態の緊急さを告げてくる。

この階段以外に地下に下る場所がないのだ。

つまり、この階段を塞がれたら地上への道を失ってしまうことになる。

素手で階段途中の壁を撃ち抜き、ガラガラと残骸を下方に落としてくる。

そして悟った。

敵は裏切り者だと。

あの身体能力が良い証拠だった。

銃器を抜こうとして直ぐに止める。

こんな場所で撃てば、跳弾する。

そして自分の(ゲート)指向(エペソ)など乗せてしまえば、それこそ生き埋めになってしまう。

急いで階段を駆け上がりながら、コンバットナイフを抜き放つ。

そこへ、残骸から掌サイズの石を掴んだ敵が、それを投球してくる。

壁を撃ち抜く者の膂力。

当たれば間違いなく、致命傷に至る。

それを狭い空間で必死に避けたが、次に飛来してきたものは避ける術が無かった。

敵は再び掌サイズの石を掴むと、それを握り潰し投げつけてきたのだ。

放たれたものは粉。

先行してきた石を避けるので、粉まで対応できなかった。

それは目という情報収集ツールを奪い、そして痛みという反射反応を示してしまう。

眼球が訴える痛みが、咄嗟に手を目元に持っていってしまう。

そこに風が走る。

敵が接近してきたのだ。

急いで情報管理送還装置(ライブラ)を展開させた。

情報管理送還装置(ライブラ)の送ってくる敵の距離は絶望的だった。

完全に懐に飛び込まれていた。

コンバットナイフを振るい最後の抵抗を試みるが、それよりも先に胸元に風穴が空いていた。

防弾チョッキなんて意味を成さない。

圧倒的な威力が胸元を貫き、コンバットナイフは手から零れ落ちていた。


(ハッ、ハッ、上層部も節穴だな。

こんな・やつ・がそだ・・ってる・じゃ・・ないかよ)


最近不作だと、トピックしていた上層部を呪いたくなった。

完全にシナリオに乗らされた。

噂事態が罠だったのだ。

それを調べにくると踏まれていのだ。

そして地下に降りたところで壁を砕く。

破壊工作員として派遣された者だから、この城を熟知している筈だと読んでいたのだろう。

地上への道を閉ざされると焦らせ、冷静な判断力を奪った。

狭い通路で行動を制限したのも流石と言えよう。

明らかに自分の得意な接近戦闘になるように仕向けられていた。

この場所に誘い込まれた地点で、勝敗は決していたのかもしれない。


「じ・ごくで・・まってるぞ」


男は息絶えた。

この先に待つ顛末は抗いようのないもの。

それを知っているからこそ、この男は待ってると言葉を残して逝ったのだった。

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