【ミッションカリオスト】 カリオストの獅子王
ミッション決行まで7時間38分…。
空気の流れの変化が、2人の瞼を自然と開かせる。
外の警備兵とは他に、何者かの気配が近づいてくるのを感知したからだ。
「いよいよお出ましか、結構待たされたな」
ティアとシルーセルは開かれようとしている扉に今か今かと待つ。
ゴゴゴゴ。
重い扉が引き摺られるように開かれた。
そこにいたのはカール副隊長1人だけだった。
「待たせたな、尋問の時間だ」
予想通りの台詞。
2人は嘆息を付きたい気分だった。
カールは2人の前までくると、飾り気の無いナイフを取り出した。
何度も念入りに磨がれているのか、柄のわりに刃が短い。
実用性だけを追求して、そして丁寧に整備された一品だった。
「ここでかよ」
「うん?
あぁ、勘違いするな」
シルーセルの問い返しながら、カールは手首を縛っていたロープを切ってしまう。
「お、おいっ、何してんだよ!」
「たく、静かにせんか。
それ、これを着ろ」
2人のロープを断ち切ると、緑色のチェニックと寄越す。
何がなんだか判らないで、シルーセルは服を受け取ると、そのチェニックを見て固まる。
「これって」
胸の雄雄しき馬の刺繍。
これは草原の騎士のみが着用を許される証。
「カリオストに住んでいたなら知っていよう。
いいから、サッサと着替えんか」
シルーセルは混乱してきた。
行き成り束縛を解き、しかも着るものとして草原の騎士の証を渡された。
1度は袖を通してみたかった代物だが、こんな牢獄で叶う羽目になろうとは夢にも思わなかった。
「ついてこい」
無防備にも後ろを向け、カールはそのまま牢獄を出て行ってしまう。
「オ、オッサン、何考えてんだ!」
「ワシに訊くな」
カールの苦悩で深くなった眉間の立て皴が、深みを増す。
それからは沈黙して、何1つ喋ろうとはしなかった。
地下に設置された牢獄を抜けると、クネクネとした内城に出る。
造りが迷路状になっていて、城まで攻め込まれた際に時間が稼げる機能を持つ建物らしい。
初めて訪れた者の殆どが道に迷うと街で噂されていたが、真実みたいだ。
15回ぐらい角を曲がると、調度品の立ち並ぶ通路に到着する。
(まさか、この先って)
シルーセルは厭な予感がした。
それを肯定するかのように、気苦労の塊のような大きなため息をカールはついていた。
その通路を登っていくと、先には見事な扉が存在していた。
そのサイドを緑のチェニックに身を包んだ兵士が警備していた。
カールはその警備兵に目配りをすると、騎士は両開きの扉を開いていく。
「ハーゲン様、新人の騎士2名を連れて参りました!」
カールはそう告げると、中へと踏み込んでいく。
「ちょっ、ちょい待て!
今なんて!」
慌ててカールに追って、玉座に座る者を眼にした途端、シルーセルは硬直してしまう。
「御苦労、副長殿。
ようこそ、新たなる草原の騎士諸君」
黄金の髪を携えた男が、玉座から歓迎の言葉を述べる。
疑った。
影武者の類だと想った。
だが、身の纏う雰囲気が本物だと告げている。
人を食った顔をしながら、獅子王は血塗られた鉾の殺し屋たちの目の前に姿を晒していた。
警備兵はたったの4人のみ。
その気は無いが、殺してくれと言っているようなものだった。
ティアは兎も角、シルーセルは憧れの王を目の前にして、緊張で身を硬直させてしまっていた。
カールはハーゲンの横まで行くと、指定の位置に佇む。
扉が閉められ、室内は密室となる。
「さて、混乱の極みに達している様子でなによりだ。
一興打った甲斐があるというものだ」
「…シルーセルよ。
俺の思い違いでなければ、あそこで状況を最も楽しんでいるのは、この国の王じゃないのか?」
「…ああ」
ティアの問いに、シルーセルは呆然と答える。
そんな中、突如ハーゲンは語り始める。
「6日遡る。
私の元に一通の書状が届いた。
内容はこうだ。
血塗られた鉾の殺し屋を雇った。
1週間後にお前の命を頂く、それまで恐怖に打ち震えていろ、とだ。
差出人は隣国、メリュッテンスの王、プシヌ コイラ」
「…情報を洩らしたは、今回の雇い主かよ」
ティアは呆れてしまった。
過去一国すら滅ぼした経歴のある血塗られた鉾を出せば、大概の者は恐怖することだろう。
そして刻一刻と迫る期限に心をすり減らしていく。
だが、その思惑は欠片も果たされることは無かった。
この王、胆力が並でないのか、それとも奇異なのか。
どちらにしろ、書状は血塗られた鉾の計画を大きく妨げるだけの代物と化してしまっただけだった。
「情報提供は嬉しいんだが、内容がな。
早馬を走らせたら、メリュッテンスは進軍の準備をしてると。
只の脅しでないことはこれで分かった。
だが、暗殺という項目から、この脅しはメリュッテンスの独断ではないかと踏んでな、書状の事は今朝まで皆には秘密にしておいた。
血塗られた鉾にこちらが知っていると気付かせない為に。
お蔭で、今朝から大忙しで戦の準備に明け暮れているよ。
こちらの事情はこんなものだ」
獅子王は簡単に内情を話した。
そんなことより、ティアはこの状況が気になっていた。
「…アンタは何を考えてんだ」
「何とは?」
肘掛に肘を置き、頬杖しながら獅子王は口元を緩めてそう問うた。
「情報が漏れているならば、その暗殺者の前に姿を晒すなんてどうかしてないか。
悪いが、素手でもここに居る者を皆殺しにするぐらい、訳ない」
一歩ティアは玉座に向かい踏み出す。
それに反応した騎士達は腰に吊るしている得物に手をかける。
「良い、捨て置け」
一言で獅子王はそれを制してしまう。
「それも又事実だろう。
血塗られた鉾の者は、超越した身体能力を備えているというからな」
と、アッサリと認めてしまう。
「だが、それをしないと確信している」
「何を根拠に」
「隠密厳守の暗殺者が何故に表舞台に立ち、民衆を助ける。
何故に抵抗もせずに捕まる」
「味方に見せかけ、相手を油断させる。
この状況を生み出す伏線」
ティアは又一歩前に踏み出す。
「面白いなそれは。
君の言葉が真実なら、私はまんまと騙された訳だ」
未だ頬杖を解かず、見透かしたような視線だけを投げかけている。
「ちっ、嫌な王だな、アンタ。
仕える者は気が休まらないだろう」
緊迫感が霧散し、ティアは両手を挙げて降参の意を示す。
「焼いても煮ても食えないとよく言われる。
その仕える者にな」
獅子王がそう言うと、伐が悪そうにカールが顔を背ける。
「で、シルーセル トルセよ。
帰郷ご苦労。
そして、よく駆けつけてくれた」
「…勿体無いお言葉です」
膝を床のつき、シルーセルは頭を垂れる。
「さて、悪いが刻は我らの停滞を許してくれない。
説明を願えるかな」
ティアは自分の出る幕ではないと下がり、代わりにシルーセルが前方に出る。
緊張から喉が渇きを訴えてくる。
だが、ここで慎重に動けなければ、この後の展開に大きな影を落としてしまう。
思索し、謁見の間を観察する。
そして誰も隠れていないことを、未だ持続している事象戦略盤で確認する。
「…ここに居る者は、信用に値する者達だけですか?」
草原の騎士に対して、これは暴言だった。
獅子王に選ばれし先鋭たち。
それを知りながらも、シルーセルはこの言葉を吐いた。
カール以外の者はそれを聞いて憤慨した。
「き、きさまぁ!」
「値する!
これで満足か?」
獅子王は、騎士の怒りの声を通る一言で収めてしまう。
それを受けた騎士は怒りを忘れ、誇らしく言葉を噛み締めていた。
(役者が違うな。
なるほど、カリオストが一枚岩と言われる訳だ。
この王、そして仕える者の忠義心。
シルーセルが憧れる訳だ)
「ありがとう御座います。
では…」
シルーセルが語るのは経緯と、そして…。
「獅子身中の虫か。
それで良いのだな」
「はい」
「俺は構わない」
シルーセルとティアはそう答えた。
(この逆境がシルーセルを急成長させてる。
力の象徴相手だ。
不足分は策略で補うしかないしな。
さて、どこまで通じるか)
ティアは頼もしそうに、毅然としたシルーセルの横顔を見る。
「ハーゲン様の期待に応えよ、散開」
カールの号令で、この場にいた騎士は己が成すべきこと成す為に謁見の間を出、後にする。
ミッション開始まで、後7時間を切ったところだった。




