【ミッションカリオスト】 本隊の結論
前の話の後ろに話を追加しております(2016/3/5更新)。
予想外の事態が展開していた。
手柄を焦って、このミッションを推薦した以上、失敗は許されない。
こと崩壊の兆しが関わっているいのだ。
あの方に知れれば、文字通りにこの首が飛んでしまうだろう。
「どうなっているっ!」
冷静さを欠いた、怒声が司令室に響き渡る。
司令官として有るまじき行為だと分かっていても、それを止める自制が働かない。
「…空間歪曲率50まで回復。
ですが、これ以上は下がりません」
他の崩壊の兆しではこんな事態は報告されていない。
子羊たる模型を接近させただけで、崩壊の予兆のライン近くまで空間が歪んでしまう等、想定していなかった。
私は詳しい状況を把握するために、通信機を手にする。
酷いノイズだ。
まともな会話が成立しない。
向こう側も支持を仰ごうとしているようだが、雑音にしか聞こえない。
「くそっ、本隊に繋げ!」
こちらはウンともスンとも言わない。
(なにが起こっているというんだ!)
このミッションに関わっている者で連絡がついたのは、護衛として隣国にいる特殊社員の2名のみ。
カリオスト領内にいる者とは、通信の類はまるで通じない。
(独断で推し進めたこの作戦、失敗する訳にはいかない!)
刻々と秒針が焦りを表すように、妙に速く過ぎていく。
ミッション決行まで10時間を切っていた。
※
身体を支配していた殆どの成分は抜けた。
何時間も地面を転がっていた所為で体の節々が痛みを発するが、概ね支障はない。
凛は身を起こし、衣服についた泥を払う。
カイルとビィーナも似たようなことをしながら、伐の悪そうな表情をしている。
グルッと視線を彷徨わせると、憤怒の形相をした女王様がいた。
「サカキよ、この失態、どう責任を取るつもりだ」
「申し訳ありません。
私の不注意でした」
凛は素直に頭を下げる。
「過ぎた事を言っても仕方ないな。
ちっ、あれでは乗せていた荷物もオシャカか」
文句を飛ばすよりも、切り替え、状況判断しようとするところは流石と言えた。
「何か使えるものがないか、調べておけ。
トイアムト、お前は周囲を調べてこい」
ビィーナはそれに従い、カイルと凛は残骸と化した4WDの元へと向かう。
殆ど灰塵と化してしまった荷物にしゃがみ込み、使えそうなものを探すフリをする。
一目で探すのが無駄だと分かる有様だった。
「凛、申し訳ありません」
「出し抜かれたのは私達よ。
謝る必要はないわ。
それよりも大したものだわ。
幾ら手を抜いたと言っても、ここまで遣るなんてね」
「シルーセル トルセ、食えない男です。
普段の態度から想像も出来ないほどの策士ぶり」
「まさか、普段が芸だとでも想ってるの?」
「違うのですか?」
「自よ。
私達が偏見していただけ。
ここに来るまで、いろいろと探りを入れて見たけど、本当は不審な発言を一度も行わなかった。
完璧よ。
それが不審だった。
だから離反すると踏んだの。
あれは培ったものじゃないわね。
…初めから備わっているもの」
「後天ではなく、先天だと?」
「そう。
本人も知らない感じね。
この世界そのものに似ているわ。
話したかしら、神の創生期ってやつ」
「歴史学者が揃って馬鹿にしたという、あれですか?
貴女曰く、この世界は過程を得ていない。
進化を遂げずに与えられ、そして保たれていると。
詳細な歴史、その裏側には厚みがなく、400という年月しか身をつけていない。
それ以前は紛い物だと」
「セナード、カリオスト、アリテス、レネム。
どれもが文化を与えられ、忽然とその場に現われている。
この話をして興味を抱いてくれたのは、貴方のお兄さんだけね。
後は嘲笑して、耳も貸さなかったわ。
…どうもね、シルーセルもそんな与えられ創られた世界に似ている。
まぁ、喩えが大げさだけど」
進化論を根本から否定してしまう凛。
歴史的観点から、異色的な角度から世界を傍観した者の意見だった。
そんな異色的なメガネは、シルーセルのも当て嵌められていた。
確かにあの勝負度胸や策略。
どれも、これまでのシルーセルが培っていたものとは考えにくい。
「土地の特色を生かした策。
カリオストの住人しか発想できないものでした」
「セパレイヤでしょう。
麻酔効果の高い」
カイルは胸中で驚愕した。
凛は霧の正体に気がついていたのだ。
ワザと敵の策にかかり、様子を窺っていたということになる。
「言ったでしょう、手を抜いたと。
…ティアの姿が見えないところを見ると、シルーセルについたわね。
やはりゲシュタルトの件を漏らしたのが、きっかけになったようね」
凛は、ティアが初めからシルーセルに付く事を確信していたのだ。
カイルは改めて知る。
凛と言う少女の底知れなさを。
駒がどう動くかを想定し、会話の端々に伏線が敷かれていたのだと
「2人の離反ですか…。
どちらも発展途上。
しかも、並の才ではない、惜しいですね」
「それは、私を押してくれているのかしら?」
「さあ、どうでしょう。
貴女は<酷い人>ですから」
それを聞いた凛はクスッと微笑する。
見惚れてしまいそうな程、凛々しき微笑みで。
凛は残骸の中から、形が残っているものを手にするとソイネの元に戻っていく。
「どうした?
何か使えるものは見つかったのか」
「はい、これを」
凛は手にしたものを差し出した。
ソイネの視線はそれに向けられた。
それは黒く焦げ落ちたシートの断片だった。
「こ、っ!」
ソイネは前方膨れ上がった殺気に反応して、間合いをとった。
先程いた地点を薙刀が薙ぐ。
「残念、ビィーナみたいに上手く隠し切れなかったわね」
刹那で組み立てた、折りたたみ式の薙刀を振い、凛はそう告げた。
「貴様、どういうつもりだ!」
不意打ちが不発に終わり、間合いを完全に開かれた凛は、追い討ちをかけずにその問いに軽く逡巡してから答える。
「小生意気な上司が気に食わなかった、というのはどうでしょう?」
シレっと嘯いてみせる。
「察していたな、 トルセの裏切りを!」
「人を信用しないで、自分の価値観でしか謀が出来ないから遅れをとる。
敗因があるとすれば、私をクレバーな存在だと勘違いしたことでしょうね。
自分の位置しか興味のない者には理解できないでしょうけど。
…私は自分の命すら糧なのよ」
ソイネはそれを聞いて、背筋の悪寒が走った。
(私は間違ってない、この女はクレバーなタイプだ!
だが、もっと深い、下半身を業火に浸しながら歩いている、狂った小賢しさだ!)
自分と同じタイプだと想っていた女の正体に気がついて、ソイネはその価値観に恐怖した。
余りに冷たく、そして綱渡りのような生き方に。
「シナリオ上、貴女にはここで舞台を降りて貰うことになっているわ」
凛は薙刀を構え直した。
そしてカイルもまた後ろから、こちらに動向を窺っていた。
「フッ、ヒヨッコが舐めた口を利く。
未完成の第2学年の貴様らが、完成形である私を相手に勝てると想っているのか?」
「勝算のない戦程、馬鹿げた話は無いわ。
でしょう?」
「最もだな。
なら、自覚するが良い!
実力の差というものを!」




