【ミッションカリオスト】 帰るべき場所
※2016/3/5に後半部分を追加しました。
(時間がねぇ!
こう破壊されていたら通路が!)
道らしい道はなく、まともに走れる場所がない。
下手に建物が残っているため、障害物の山となっていて、行く手を阻む。
事象戦略盤で周囲を確認すると、シルーセルは跳ね上がる。
2、3とジャンプを繰り返して、建物の上に立つ。
そこから状況を確認する。
建物が障害物になっているお蔭か、何とか破壊の爪は孤児院まで届いていない様子だった。
屋根の上には障害物が存在しなかった。
シルーセルは己の身体能力をフルに使い、屋根の上を駆け跳ねていく。
(っ!)
又も最悪な事態到来だった。
孤児院の前を四十代半ばの女性が仁王立ちし、通せんぼしていた。
そしてその眼前には災厄の主、フォーリジャーがいた。
「ここは壊させないよ!」
そう啖呵を切り、女は正面からフォーリジャーと向かい合っていた。
(っ、バカが!)
フォーリジャーはその声に反応した。
女の啖呵は注意を引いただけにすぎない。
中年の女性を助けようと、シルーセルと同い年ぐらいの青年が引っ張っていこうとするが、ヒステリー気味にそれを払い除けて、女性は孤児院の前に居座り続けた。
さっき程よりも絶望的な距離。
シルーセルは辺りの情報を刹那でチェックし、最良の作戦を立てる。
「伏せろ、バチェット、お義母っ!」
シルーセルは有らん限りの声で警告した。
それに反応したのは女性の方で、共にいた青年の頭を掴み一緒に伏せる。
フォーリジャーの注意が少しこちらに逸れ、僅かな時間が生まれる。
その微かな時に、シルーセルは建物から跳び降り、急いである位置を目指す。
シルーセルの射撃の射線がフォーリジャーの横手になるように。
僅かに生まれたリミットはもう無い。
シルーセルは又もヘッドダイブをして、何とかその位置に滑り込み、宙に浮いた状態で門を開口する。
(転べっ!)
手加減して失敗するわけには行かない。
銃身自体に歪曲を起こし、発砲する。
圧縮砲だ。
シルーセルは反動をモロに食らった。
空中という身を固定されていない状態で放たれた威力の三十分の一ぐらいの反動衝撃に襲われる。
銃口は跳ね上がり、身体がブーメランのように回転しながら後方に飛ばされていく。
幸いにも後ろは街路だった為に、衝突する物体は無かった。
そのまま30メートルに及び地面と摩擦を起こしながら転がっていく。
シルーセルはワザと転がりながら威力を和らげつつ、その指向力で立ち上げる。
シルーセルがそんな状態に陥りながら放った弾丸は、音の壁を破りフィーリジャーの横っ腹に命中する。
パーンッ!
鉄板に穴を空けた時のような音をさせて、弾は強固な鱗を突き破った。
銃弾をものともしない筈の皮膚を簡単に突破した。
だが、圧縮砲の恐ろしさはこの後だった。
音速を超えた弾丸の後を追って、大気の群れがフォーリジャーに激突した。
所謂ソニックブームと言われるものだ。
10トンクラスの自重を誇るフォーリジャーが地面から引き剥がされ、そのまま横倒しに転がっていく。
街路を破壊しながら、20回転もしたあたりで巨体は回転力を失って止まる。
人の身で受けていれば、原型など存在しないだろう。
シルーセルは伏せていた2人の安否を確認する。
2人の横手にフォーリジャーが踏み潰して瓦礫と化していた山が、跡形も無く吹き飛んでいた。
シルーセルの計算上その山が壁となり、2人が飛ばされないことになっていた。
小さな瓦礫を被っていたが2人は起き上がり、無事な姿を見せる。
怪我らしい怪我も見受けられない。
胸に溜まっていたものを吐き出し、束の間の安堵に浸る。
シルーセル自身は対処し切れなかった為に、肩を強打していた。
衣服と皮膚が裂けて、痛々しい傷が外気に晒されていた。
動かしてみて、出血のわりに深いものではないようだった。
袖口を引きちぎり、器用にも片手で肩に巻きつけ直接圧迫法で止血をしておく。
十秒程度でそれを終わらせ、気がかりな2人の元に駆け出す。
「たっく、何をやってるんだアンタはっ!」
シルーセルはあんな馬鹿なことをした孤児院の経営者に激怒した。
「おや、どこのどちら様ですか?」
「こんな時に皮肉かっ!」
シルーセルは子供みたいにヒネたことをいう義母に、心底腹が立ってきた。
だが、次に発せられた言葉で反撃を食ってしまう。
「他人には分からんよ!
ここしか私達に家は無いんだよ!
あの子達の帰る場所を失くす訳にはいかないんだよ!」
シルーセルは気づいてしまう。
院長から発せられたあの子達の中に、間違いなくシルーセルも含まれていることに。
他人と蔑みつつも、勘当したシルーセルの帰る場所を失くさないように必死に此処に立ち尽くしていたことに。
「っ馬鹿が!
家が何だよ!
お義母に何かあったら、それこそが帰る家を失うことなるんだよ!
どうしてそれが分からないんだ!」
真摯的な眼差しで、シルーセルの訴えは続く。
「それにな、お義母が逃げないと、その子供達が逃げられないんだよ」
建物の影から懐かしい顔ぶれがこちらを覗いていた。
最年少のケニー、オシャマなサイローニ、活発な壊し屋コウエ、家事全般を請け負うネオン、小悪魔のヒルダ、そして最年長にして義母を助けるために飛び出した正義感溢れるバチェット。
ここに居ないジルとアンリを除いて、全員が逃げ出さないでこの場に留まっていた。
トルセ婦人は息を呑んだ。
逃げるように言っておいたのに、誰一人として義母を置いていくことが無かったのだ。
「…分かったよ」
後に「済まない」とかすれた声がした。
ガラガラガラっ!
荒々しい物音と共に、あの巨体が起き上がってくる。
(なっ!
圧縮砲をまともに喰らって起き上がるなんて!)
異臭を漂わす口元からボタボタと血を吐き出しながらも、フォーリジャーは立ち上がった。
足元はしっかりとしており、致命傷まで至っていない様子だった。
(頑丈過ぎるぞ!)
「バチェット、お義母を頼む!」
フォーリジャーと2人の間に立ち塞がり、シルーセルは銃口を向ける。
もう一度圧縮砲を放とうとして、事象戦略盤が砲身の歪みを伝えてくる。
(ちっ、迂闊だったか)
手持ちは後一丁。
もう使えない銃をポシェットに仕舞い込み、石を拾い上げる。
(こいつでなんとか)
その時、雄雄しき嘶きが木霊する。
瓦礫と化した街路を難なく疾走してくる黒茶の影。
豆のように小さな影は一瞬でその全貌を現す。
5メートルもある黒茶の巨躯に、白銀の鬣。
この国において、この馬を知らぬ者いない。
名を黒牙。
そしてその馬が唯一背を許すのは、草原の獅子王ハーゲン。
獅子王の名に相応しい黄金の髪が白銀の鬣と共に流れる。
フォーリジャーの眼前まで駆けてくると、黒牙は前足を地面に突き立て身を反転させて後ろ足でフォーリジャーの顎を打ち抜く。
ここまで加速された速度を全て殺すことなく、後ろ足に集約した一撃は、10トンものフォーリジャーの上半身を浮かし、そのまま仰向けに倒してしまう。
とても馬でやった芸当とは想えない。
裏返ったフォーリジャーはその凶悪な一撃で急所に打ち抜かれ、意識を断たれてしまっていた。
圧縮砲を受けても立ち上げって来た怪物を、意図も簡単に伸してしまったのだ。
嘶きが殖え、ハーゲン王の下に草原の騎士達が集う。
その光景や、吟遊詩人が語る英雄象そのものだった。
「カールここは任せた。
ハーシア、コード、ニースは従え。
残りの者は続け!」
そして10数人の草原の騎士を引き連れて、獅子王は新たな戦場に駆けていく。
シルーセルはことの成り行きを終始眺めていた。
そして要らなくなった石を放り投げる。
そこへ、先程カールと呼ばれていた巨漢の初老の男が馬から下り、こちらに近づいてくる。
貫禄のある深みのある顔立ちに、ガッチリとした躯つき。
この場を任されただけあって、役者が一味違っていた。
草原の騎士内1人は、気絶しているフォーリジャーに止めを刺しに、2人は馬に乗ったままシルーセルを包囲していた。
「お主が血塗られた鉾の使いか」
「!」
カールはハッキリと告げた。
(情報がリークしていた、どうして!)
「驚いているところを見るに、やはり独断か。
抵抗するなよ、シルーセル トルセよ」
「お、オレの名を知っているのか!」
ミッション内容が漏れているのは兎も角、実行者の名まで漏れていることにシルーセルは血塗られた鉾の怠慢に呆れた。
だが、それは思い違いだった。
「国民の名ぐらい知っていて当たり前だろう」
カールという男は言ってのけた。
(この男、まさか国民全員把握しているのか!?)
シルーセルはカールという男を思い出した。
草原の騎士の副隊長、そしてハーゲンの右腕。
カリオストの基盤と呼ばれし男を。
シルーセルは腰のポシェットを外し、カールの前に落とす。
そして仕込んでいた武器を同じように外して抛り、抵抗はしない行動で示す。
「バチェット!
広場付近にジルが怪我している、迎えにいってやってくれ!」
シルーセルは離れていたバチェットに向かって、大声で伝える。
それを受け、バチェットはトルセ婦人を他の皆に預けると、頷き駆け出していく。
医師を志している年長者に任せておけば大丈夫だと、シルーセルは安心しておく。
「ま、待って!」
草原の騎士の1人が、そのバチェットに制止をかける。
「止せ!」
カールは一喝して、部下を引き止める。
そして、行くようにバチェットを促す。
「ですが、この男の仲間かも」
「この国で多くの孤児を引き取り育てているトルセ婦人、その子供を疑うのか?
国民の顔もろくに覚えられんのか!」
(それはアンタだけだと想うぞ)
シルーセルの素直な感想だった。
「…申し訳ございません」
「この男を引っ立てろ」
ロープで躯、腕、手首を縛られ、シルーセルは身動きを取れなくなる。
「この転覆者めっ!」
激怒した騎士がシルーセルの腹部に拳を突き立てる。
だが、シルーセルには大した痛みは感じなかった。
(あの地獄の特訓に比べればな)
耐久性の訓練と称してティアの拳を毎度受けていた日々が、鋼鉄のような腹筋を作り上げていた。
どちらかというと騎士の拳の方が痛いのではないかと想えた。
それを見ていた孤児院の皆が表情を曇らせていた。
助けたいが、騎士相手に何も出来ない悔しさの現われだった。
「止めておけ莫迦者がっ!
騎士を貶める気かっ!」
カールは若い衆の感情任せの行動に叱咤し、引き上げるように支持する。
孤児院の面々は心配そうにシルーセルが引っ立てられるのを見守るしか出来なかった。
そんな中、シルーセルはそちらを向いて、大丈夫だと示す為に二カッと笑っておく。
「サッサと歩け!」
(短気だね。
…人の事は言えんか)
等と、シルーセルは意外と穏やかに状況を受け入れていた。
これからどうなるとも分からぬ中、ひとまずは皆の無事を確認できたことに安堵しながら、牢獄への道のりを歩くのだった。
※
「よう」
上半身裸にされたティアは、放り込まれた先にはシルーセルが両手首を縛られたまま同じく裸にされて放り込まれていた。
正直、この土地で裸でいるのは気温的に辛い。
まだ6月だというのが救いだった。
ティアは「おう」と応え、シルーセルの隣に座る。
所々に蒼タンがあり、手荒い歓迎を受けてきた様子だった。
(抵抗しなかったんだな)
ティアに実力なら、草原の騎士から逃げ遂せた筈だった。
ここにティアを放り込んだ騎士の態度から、抵抗がなく歯応えのないという雰囲気があった。
ティアが守る対象を傷つけないように、配慮してくれたのが窺えた。
「済まないな」
「別に」
そのやり取りだけで、互いに察して気持ちを氷解させる。
2人が出会ってから2ヶ月。
濃厚なる時間を共にしてきた所為か、簡素なやり取りで互いに言いたいことが理解できた。
シルーセルは、ティアの今しがた出来た内出血よりも胸元にある陥没した酷い火傷の跡の方に眼が引かれた。
興味はあったが、訊いていいものには想えず、気にしないフリをしておく。
「この後拷問かね。
そんな事、しなくても喋るんだけどな」
「そうだな。
…情報が漏れていたな」
「あぁ。
この計画、機密性が全然ないよな。
変だな。
オレらが囮にされたんだろうか。
それにしては、別働隊の動きが無かった。
…それに、あんな数のフォーリジャー見たことない。
ということは、崩壊の兆しがもう弄られた後ってことか?」
「…いや、崩壊の予兆が起これば、吐き出される怪物はあんな数じゃすまない。
地上を埋め尽くす、…あれは悪夢だ」
「…オルトか。
生き残りなんだったんだな、その惨劇の」
「お前に協力しようと想ったのは、それが一番の理由だ。
あの煉獄を再現しようとしている。
知ってるか?
あの惨劇で生き残ったのは、俺を含め10数人だけらしい。
…誰も知らない、その地獄の只中を。
それを熟知しない者たちが、軽々しく作戦に使用しようとした。
正直、腸が煮え返りそうな気分だ」
ティアが語りながら拳を強く握りこむ。
その指の間からポタポタと赤い雫が滴る。
「別にこの国の行く末なんて俺には興味はない。
俺の今を創り上げた惨劇、見過ごす訳にはいかなかっただけだ」
「そうか、…安心した。
一方的に巻き込んだ気がして、罪悪感があったんだ」
「生憎と他人に判断を任せきる程、可愛げのある性格じゃないんだよ」
(だからかもな。
オマエが協力すると言った時、その手を取ったのは)
自分自身が決めたことだからこそ、あんなにも真っ直ぐな瞳を向けていたのだと。
「ミッションの繰り上げでなければ、この状況はいったい。
オレらの預かりを知らない内に、事情が変化してしまっているのか?」
「さぁな。
まぁ、囚われの身の俺らは、休養するしかないだろう。
情報を引き出す為に、誰かが拷問に来るまでな」
「そうなるか。
…緊張の連続で、流石に疲れたぜ。
一眠りでもするか」
そう告げると、シルーセルは直ぐに寝息をたて始める。
昨日から針のムシロに座らされている状態だった。
凛とカイルの監視を掻い潜るのは、精神的にもかなりまいっていた。
トドメに早馬になったかのような長距離ランニングと、息もつかぬ間に戦闘。
肉体的にも精神的に、ピークを迎えていた。
ティアもすることもないので、休憩することにする。
暫くすると、牢獄に相応しくない2人の寝息だけが響くのだった。




