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蒼刻の彼方に  作者: ドグウサン
1章 胎動する者達
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【ミッションカリオスト】 手品の仕掛け

異変に反応した皆々は、直ぐに身を起こし、状況把握に廻りを見回す。

凛とカイルはシルーセルの動向を、ビィーナとソイネは伏兵がいないか、ティアは1人迫りくる煙を睨んでいた。

肝心のシルーセルはというと、ティアと同じくその煙を観察していた。

凛とカイルは判断を付けかねていた。

シルーセルが仕掛けたものと考えていたのだが、まるで行動を起こす気配が見受けられないからだ。

状況下から、この煙はシルーセルとは無関係だと思われた。


(情報が漏れている?)


余りに的確な時間の奇襲。

休息の、緩んでいると統計される後半の怠慢な時間を狙ってだ。

もし、この煙がシルーセルの行ったものでなければ、カリオストに暗殺の件及びその詳細までもが漏洩している可能性がある。

カイルは、シルーセルがこの煙を上げられる要素を見出せなかった。

此処に辿り着いてから、殆どの行動を共にし、監視していたのだ。

イコール、これが襲撃であるという方向に思考が傾いていた。

全ての者が判断をつけかねていた。

この煙が煙幕なら、燻りだしということになる。

迂闊に動いてしまえば、罠に陥ってしまうだろう。

そんな中、1人セオリーを無視し、ティアが煙を避けるようにその場から退避する。


(っ!)


誰もが、その場違いな行動に戸惑う。

凛とカイル、そしてソイネは逡巡の末、シルーセルの判断を見定めることにした。

結局シルーセルは動かず、その場で煙幕の奥に敵が存在するかのように、ジッと見据えているだけだった。

そして風が吹き抜け、一気に煙が加速して暗殺部隊を包み込んだ。

全ての者が薄目にして、口と鼻を掌で覆い、伏せる。

煙は基本的に上昇していく。

それに伴い有毒性の気体も運んでいく為、身を低くするのがセオリー。

だが、シルーセルは伏せず、唯、その煙を真正面から受ける。

そして凛とカイルは驚愕した。

情報管理送還装置(ライブラ)の起動音もせずに、大気がシルーセルの廻りを渦巻き、煙を遮断しているのだった。

明らかに(ゲート)を使用している。

情報管理送還装置(ライブラ)を使用せずに、(ゲート)を行使していたのだ。

それが如何に危険で無謀な試みかは、(ゲート)の使用者なら誰もが知っていることだった。

情報が分からない状況で(ゲート)を使えば、噛み合わなかった分のエネルギーが逆流して、発狂する程のフィードバックに脳が襲われる。

情報管理送還装置(ライブラ)の始動音がすれば、凛もカイルも煙がシルーセルの仕掛けた罠だと気が付いただろう。


(そんなっ!)


カイルは直ぐに気持ちを立て直すと、早く煙から出ようとする。

だが、身を起こそうと立てた腕から力が失せ、顎から地面に落ちてしまう。

うつ伏せになった体がまるで動かない。

脳から発する信号に答えない躯。

全身に麻酔でもかけられたかのように。


(これはセパレイヤかっ!)


カイルは全貌に気が付いた。

セパレイヤと呼ばれる植物の麻酔液は気化しやすい成分だったのだ。

少しの熱で全体の体液を気化し、大量の煙となって風下に下りてくる。

セパレイヤの説明をシルーセルがしたのは、認識させることで無警戒とし、盲点にする為だったのだ。

だが、カイルにはどうしても分からないことが3点あった。

どうやって気化させる熱をあの群生地に起こすことができたのか?

群生地は散歩の時風下だった。

どうやって風の流れを掴んだのか?

最後に、どうやって情報管理送還装置(ライブラ)を使わずに(ゲート)を行使したのか?

思考が巡る中で、皮膚から浸透した麻酔霧は4人の行動力を完全に奪い去っていた。




マジシャンは意識を違う場所に逸らすことで、次なる手を颯爽と用意する。

堂々として、目の前で行うからこそ観客の視界が狭まり、その盲点が生まれる。

マジシャンは威風堂々とした最高のペテン師なのだ。

シルーセルはカイルが散歩についてくるのを承諾したのは、2点の利点を生み出す為だった。

疑いに揺さぶりをかけ、判断力を鈍らすこと。

情報を簡単にリークし、疑心の隙間に疑念を差し挟ませる。

これは敵対者である、凛、ソイネに対しての判断力を鈍らせる効力もあった。

凛はシルーセルの監視をしているカイルを、ソイネは判別を任せている凛を見てから判断を下すからだ。

因みに、凛がシルーセルの離反についてビィーナとティアに対して漏らしてないのは、昨日の内に探りをいれて確認していた。

リークしなかったのは不信感を抱かせない為か、もしくは漏らせない理由があったのか。

凛に限って手柄の分配を少なくするなどと、矮小な考えに至ったとはシルーセルには想えないからだ。

もう1つはマジシャンの理屈だ。

つまり、種を目の前で仕込んでいたのだ。

カイルという観客の視界を狭くし、慎重に堂々と仕掛けをあの群生地に置いてきていたのだ。

置いてきたのは発火装置。

材料はプレハブの隅に山済みになったシルーセルの備品、銃のジャンク品から激鉄とバネを利用したもの。

後はトイレに行くフリをして駐車中の車からちょろまかしてきたガソリン。

時限式にする為に、腕時計の部品を使った。

今、シルーセルがしている腕時計は動いていない、飾り物に過ぎない。

これらを組み合わせて直径10cm程の発火装置を昨日の内に製作しておいたのだ。

カイルにセパレイヤの説明をした時、一瞬だけ隙を見せた。

その刹那に発火装置を左袖から落とし、足の甲でキャッチする。

そして帰るかと告げ、シルーセルに注意が向いたところでセパレイヤ群生地に発火装置を放り込む。

会話は微かにした異音を打ち消す効果があった。

カリオストは北の地方にあり、基本的に寒い地方にあたる。

夏でも常温20度を越えることはない。

そして空気が乾燥している。

何故にセパレイヤがカリオストの特産物なのかは、その点による。

セパレイヤは燃えやすく、その上気化しやすい性質を持っていた。

下手に暑い地方や、湿度の高い場所で生息していれば、このセパレイヤは恐ろしい毒草として扱われていることだろう。

つまり、僅かな火元さえあれば、簡単に燃え移り大量の霧を生み出す。

非常に軽く、見た目では煙と判別できない。

カリオストの住人なら常識的な知識だった。

何よりこの作戦を成功に導いた要は、事象戦略盤フェノメノンタクティクスワールドにあった。

事象戦略盤フェノメノンタクティクスワールドとシルーセルが呼んでいる能力。

全ての事象を三次元の情報として捉え、情報管理送還装置(ライブラ)よりも明確に脳裏へと展開させる。

微量なる風の変化、気圧の上下。

有効範囲も広大。

三次元で投影される戦略盤は、情報管理送還装置(ライブラ)を凌ぐ情報収集能力だった。

今日は朝からスイッチが入っており、シルーセルは自分の幸運に歓喜した。

意識が一度途絶えると失せてしまうことが多いので、眠らずに機会を待った。

時限式の発火装置が起動する時間が来た。

実は風は止み、無風状態だった。

計画を中断する訳にもいかず、(ゲート)を遣い風をこちらに向けさせることにした。

事象戦略盤フェノメノンタクティクスワールド(ゲート)を行使するのは初めてな上、此処まで遠距離で遣うのも、又初めてだった。

結果は予想以上だった。

一片のフィードバックもなく、寧ろ事象戦略盤フェノメノンタクティクスワールドの方が的確に情報を運んできた。

後は自分という囮を罠の中に置き、4/5の戦力を削いだのだった。

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