表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蒼刻の彼方に  作者: ドグウサン
1章 胎動する者達
33/166

【ミッションカリオスト】 セプト ゴノス

鳴り止まぬ耳障りな轟音。


(今更これにストレスを感じる程繊細な神経をしていないが、だからといって、不愉快に思わない日はないな。

まぁ、破滅への葬送曲だからな。

日に日に響きの嵩が増えやがって。

合唱(コーラス)なんか奏でてやがる。

不安と恐怖だけ駆り立て、轟音を耳にしなくなった瞬間、鎮魂歌として響き続けるのかね)


無機物に囲まれた部屋。

飾り気のない暗い部屋に影があった。

2メートルを越す巨体が闇の中で静かに息を潜め、ギシギシと鳴り響く音に耳を傾ける。

その耳は先端が尖っており、人ものより1回りも大きかった。


(このまま朽ち果てるのも一興だが、俺様としては戦士として生涯を終えたいね。

まぁ、待つのも戦いだから、ここも戦場とも言えるか…)


完全に防音されている筈の部屋に響く、音、音、音。

圧壊寸前の潜水艦を彷彿とさせる軋みが、自分の立場を再認識させてくれる。

だから音が遮断されず、偽りでない世界を認識させてくれるこの場所に好んで足を運んだ。

この場所以外は大音量で音楽が流され、誤魔化された仮初の空間となっている。

その音楽こそが、破滅に近づいている証拠だというのに。


(女子供に強くあれと説くよりは効果あるわな。

ストレスの積み重ねで発狂するよりか、最良の処置だろうよ。

でも、それも何処まで持つか。

流石に、あの音量はどんなマヌケだろうと気が付くだろうよ。

押し迫っている現実に。

こうも情報の隠蔽が多いと、誰も信用してくれてはいないだろう)


影はノッソリと身を起こすと、部屋のロックを外し、金庫の扉を想わせる大きなドアを開いて通路へと出る。

光に晒される姿。

縦に細長い瞳、それは爬虫類のそれだった。

顎まで避けた口に、鰐のように鋭利な牙が生え揃っている。

皮膚はゴツゴツとして、灰色がかっている。

皮膚というよりは岩というべきかもしれない。

そして最大の特徴は額に生えた角と、開口した扉を閉じる為に使用している尻尾だった。

器用にもノブの絡みつくと、重そうなドアを押し閉め、尻尾の先端でパネルの暗証番号を打ち込んで、ロックしてしまう。

尻尾も岩肌で、大の大人のウエストよりも太い。

そのわりにしなやかで、意外に器用なことをやってのけていた。

服らしいものは装着しておらず、腰布だけが下半身を覆っていた。

それらを総合して感想を述べると、恐竜。

人の形態を模した恐竜と言えるだろう。

ファンタジーの世界観であげるなら、リザードマンというのがしっくりくるだろうか。


「六総長、こんな場所にいましたか」


通路に出るなり、大音量の音楽に乗ってリザードマンに話しかけてくる男がいた。

そちらは人の形態をした者だった。


「六総長?

そんな大層な肩書き、俺には似合わねぇよ。

セプト様と呼びな」

「又そのようなことを」


男は慣れているのか、苦笑してしまう。


「ではセプト様。

召集です」

「会議なんてしても無駄だって、あの頭デッカチ達は分からんのかね。

娘からの連絡を待つしか、今はすることねぇっていうのになぁ」


困る問いをされ、男は返答に窮する。


「まあ、仕方ありません。

…でも、その連絡が来たと言ったら?」


いつも遣り込められるので、男は少し仕返しがてらに逡巡した後に種明かしをした。


「…来たのか。

アザリアから」


普段は陽気な親父ノリなセプトの顔が刹那、戦士の表情に変わる。

一変して、軽やかな雰囲気は吹き飛び、重いものへと替わる。

だが、只単に重いのとは違い、締め付けるのではない。

引き締め、周りのものをその気のさせる、活力を与える、統率的な重さ。

カリスマだった。

英雄の気質と言っても過言ではなかろう。

男はその雰囲気を受け、自然と口の端が引き上がっていくのだった。

久しく忘れていた、セプト ゴノスと呼ばれる戦士を感じた。


「それと」


一度口籠り、男はその気質に押され、話す。


「ノエルの解析が終わりました」

「…機が熟したのかもしれないな。

で、期限ぐらいは聞き及んでいるんだろ?」

「…持って、後3年だそうです」


周りに人がいないのを確認してから、男はセプトに告げる。


「480の刻か。

ジンクス類は信じない性質なんだが、どうも胡散臭い…」

「ジンクスですか?」

「聞いたことはないか?

12の倍数なるもののジンクス。

復活の破滅の輪廻(ロンド)

まぁ、若い世代には知らないかもしれんがな」

「はぁ?」


男は曖昧に相槌を打つ。


(裏で誰かの意図を感じる?

それとも運命と称するのか)


「戯言だ、気にするな。

さて、頭デッカチどもの無謀で勝ち目の薄い計画でも、嘲笑しに行くか。

後で笑い話を聞かせてやるよ」

「はい。

いえっ、そんなことは!」


うっかり返事をしてしまい、男は焦る。

それを見たセプトは高らかに笑いながら、通路を進んでいく。

暫くすると、笑いを顰め、真顔に戻る。


(3年か。

計算上では持つかもしれんが、その前に人の心が崩壊するな。

どんなに見積もっても2年が限界だろう。

あのバカ共では、そこら辺の考慮が足りない。

あいつらの考えは頂点ではなく、科学者のそれだ。

暴動が起きないのが不思議でならねぇな。

もし、あの計画が実行されるなら、先に一手打っとく必要があるかもしれん)


巨体には狭い通路を進んでいくと、前方から5歳くらいの子供が駆けてくる。


「あっ、セプトさまだ!」

「お、クソガキ。

この先は立ち入り禁止だぞ」


セプトの足に嬉しそうにまとわり付く。


「ガキじゃないやい!

すぐに大きくなって、セプトさまみたいにじんしんをしょうあくするんだ!」


ニシシッと笑いながら、どうだとガキは胸を張った。


「何処で覚えた、そんな言葉。

まるで悪党だな、俺様は」

「あくとうじゃない!

おかぁが、いってた!

しんじられるのはセプトさまだけだって!」

「期待されたものだな。

流石、俺様」


(子供にまで伝染してやがるのか…。

想ったよりも根が深いかもしれんな、不信は。

たっく、異形の俺が一番信頼を得てるってどうなってるんだか…)


「だから、セプトさまみたいになるんだ!

そくちょうだっけ?」

「族長だ。

残念ながら、セプト族しか成れないんだ、これは」

「えー、なんで!

おれがんばるぞ!」


種族の違いを指摘しても、噛み付いてくるのは目に見えている。

はぐらかすのは簡単だが、セプトは屈み、目線の高さを同じにして語る。


「なら、守りたい者はいるか」

「いるぞ!

おかぁだ!」

「俺様と約束しろ。

次に俺様と会うまで守り抜くと」

「いわれなくても、まもるぞ!」

「なら、お前は俺様より強くなれる。

族長なんて(しがらみ)に押さえつけられた俺様よりも、高き戦士にな」

「セプトさまより、つよくなれるのか?」

「ああ、その気持ちを忘れなければな。

いいな、キーナ」


セプトは名前を呼び、少年を一人の男として扱う。

それを何と無く感じ取ったのか、キーナ少年はセプトの瞳を直視する。

爬虫類の瞳。

だが冷血な感じは更々なく、あるのは親密なる者が見せる、暖かさのみ。

キーナはそんな相貌を正面から受け止め、頷く。

セプトはゴツゴツした手でキーナの頭を撫でる。


「いっ、いたいよ!

セプトさま!」

「痛くていいんだよ。

新たな戦士の誕生を祝ってるんだから」

「わかんないよ!

てっ、いたいって!」


(生を望むものいる限り、絶望に縋る訳にはいかねぇな。

最善を尽す、ゴノスの名に賭けて。

勇を翳し、勇を成す者だからな)


広大なる絶望の中に咲いた、一輪の幼き勇。

それを摘み取らせないと誓い、セプトはやっと与えられた己を待つ戦場へと立ち上がるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ