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蒼刻の彼方に  作者: ドグウサン
1章 胎動する者達
31/166

【ミッションカリオスト】 2ヶ月の成果

【ミッションカリオスト】


6月3日、午前11時26分。

グランドの中央に陣取った軍団が、不可解な競技を繰り広げていた。

半径20メートルの円陣の中に、3人の男達が銃撃戦を繰り広げているのだ。

装填された弾はペイント弾。

だが、円陣で撃ち合っている男達の表情は真剣そのもの。

当たれば死に直結しているといわんばかりに、本気が入っていた。

(あなが)ち間違いではないのだが…。


「常に動きなさい!

シルーセルへばってる場合じゃないわよ!

戦場で泣き言でもほざくつもりなの!

ティアッ、単発で撃たないっ!

牽制し、動きを制限させて詰みなさい!

カイルも、理詰めは得意分野でしょ!

もっと頭使いなさい!」


檄が飛び交う。

と言っても一方的な通告でしかない。

一風変わった訓練。

銃撃戦なのに、遮蔽物が一つも見当たらないグランドで、その撃ち合いが決行されていた。

フィールドは半径20メートル円の中。

ルールは狙撃し、円陣内の敵の殲滅。

但し、5メートル以内へ接近しての銃撃は許されていない。

それは銃口の向きと、発砲のタイミングさえ見抜ければ楽々躱せる距離。

情報管理送還装置(ライブラ)でフィールド内を観察されているので、ルールを破ったものは直ぐに発覚する。

それと相手に触れることも禁止されている。

勿論、場外も反則負けとなる。

ルール違反には、敗者+αのペナルティーが用意されている。

だから、距離を情報管理送還装置(ライブラ)で正確に測りつつ、敵を殲滅する算段を組まなければならない。

カイルはルールを逆手に取り、シルーセルが発砲しそうになると、5メートルを切り、間合いに踏み込む。

これだと逆に発砲した方が負けになってしまう。


「卑怯者っ!」


寸前で引き金を思い留まるシルーセル。

放ったが最後、地獄の罰ゲームの餌食になる。


「策と言って貰いたいですね」


カイルは瞬間で間合いから離れ、銃弾を打ち込む。

単発で放たれた弾をシルーセルは易々と躱し、斜めから疾走してくる相手を警戒する。


(厄介なっ!

こう移動されたら、いつ間合いに踏み込まれるかわかったもんじゃねぇ!)


縦横無尽に走るティア。

5メートルなんて短距離は卑怯だと罵りたくなるぐらいに、ティアの動きは敏捷で、機敏な方向転換を誇っていた。

40メートルという空間を完全に把握して、敵の行動を考慮にいれ、先読みし戦略を立てなければならない。

凛が毎度行わせる奇抜な訓練。

今回の題目は瞬間思考と判断力。

ルールが牽き、その中で思考と能力を駆使して敵を迎撃する。

よりフレキシブルな思考と咄嗟の判断力が勝敗を決める。

簡単なルールながら、突き詰めていけば敵を効率よく追い詰められる。

ティアがカイルとシルーセルの中間で、どうぞ撃って下さいと立ち止まってみせる。

明らかに罠だ。

2人共に5メートル以内に入っている為に、撃つことは出来ない。

間合いから外れて、速攻で攻撃をしかければティアの恐るべき反射速度で間合いに入られる恐れがある。

だが手を拱いている訳にはいかない。

この訓練には時間制限が用意されており、時間切れは纏めて罰を受ける事となる。


「残り5分!」

無常なる宣告。

今フィールドを制しているのはティア。

自分のスペックを生かし、2人に圧力を与えている。

シルーセルは目配りをし、カイルに自分と逆方向に移動することを指示する。

顎を少し下げ短期間の共闘を承諾する。

同時に移動を開始する。

ティアはカイルに的を絞り、離れていくシルーセルを尻目にカイルに接近していく。


(間合いが取れないっ!)


基本スペックの違いで、ティアはカイルの眼前まで迫る。

触れられないルールに縛られているので手は出してこないが、プレッシャーがヒシヒシと伝わってくる。

サイドに振り、フェイントをかけてティアの横を抜けようとするが、アッサリと前方を塞がれ、後退を余儀なくされる。

このままでは場外に追いやられてしまう恐れがある。

度胸の据わった駆け引きをするようになったティアに、カイルは感嘆する。

だが、駆け引きの定義はティアにも当てはまる。

触られれば、両者負け。

ならば、カイルが当たるのを覚悟で進めばティアは後退するしかなくなる。

カイルは前方に手を伸ばし、ティアを掴みにいく。

それが脅しではなく、本気だと筋肉の動きで読み取ると、スウェーバックでこれを躱す。

それだけで後退しない。


(体ごとぶつける気でなければ、まともに当てられないか)


パンッ!

耳に覚えのある音が、ティアの後方からしてくる。

ティアがカイルの視界を奪っている為に、ティアの後ろで何が起こっているか確認できない。


(狙いはこっちですかっ!)


咄嗟に情報管理送還装置(ライブラ)を前方十メートルまで展開させると、銃弾がティアの心臓目掛けて飛来してきていた。

ティアが、シルーセルが撃ってくることを計算して、カイルの視界にシルーセルが入らないように超接近戦を仕掛けたのだと悟る。

わかっていれば後方から迫る銃弾ですら難なく躱せる。


(追い込まれたっ!)


ティアは身動き1つせずに、カイルの動向を窺っている。

それはコンマ何秒の駆け引き。

ティアがどうでるか想像が浮かばない。

下がると追撃を食らい、逃げ場を大半失ってしまう。

横に避けるのが無難だ。

ティアも邪魔をすれば触れてしまい、ゲームオーバーになってしまう。

だから妨害は無いものと思惟するものだが、何かを見落としているとカイルの脳内に警告が鳴り響く。

時は、刻々と零コンマの単位が流れていく。

その中でも銃弾は突き進む。

時間にして0.08秒。

逡巡後に、カイルはサイドに身を躱そうとする。

その行き道を防ぐべく、ティアが横から腕を振るう。


(馬鹿なっ、失格になりたいのか!)


躊躇無く触れてこようとするティアに、カイルに驚きが発生してしまう。

そして気が付いた。

銃が砲身を握り、殴りかかってこようとしているのに。

銃を鈍器として扱うときの持ち方。

ルールが脳裡を過ぎる。

触れてはいけない。

触れるとは何か。

素手で。

道具は可能?

裏のルールが存在していたのではないか?

あらゆる検討がカイルの判断を鈍らせる。

結局、銃を振りかざしたティアの攻撃は寸前で停止し、その場から退避していた。

カイルはティアかの攻撃を避けようとその場に留まった為、ティアの影から姿を見せた銃弾を避け切れずに肩に被弾してしまう。


(…ヤラました。

完全に上を行かれましたね、今回は)


衝撃で痛む肩に手を置き、そこを濡らすペイントで手も染まってしまう。

正直、2ヶ月前は相手にならないと想っていた。

だがこの2ヶ月、ティアは凛達の期待に応え、結果を出して見せた。

精神的に吹っ切れた感があり、脇目も降らず成長の一途を辿った。


(本人は否定するかもしれませんが、天才ですね。

努力した分、それを全て才能に開花できる人間がいるとは思いませんでしたよ)


アベル リオネスは初めから何でも出来てしまうタイプの天才だが、ティア 榊は克服すべき欠点を努力し、モノにしてしまう。

人は努力の20パーセントもモノに出来ない。

だが、ティアは80パーセントという数字を叩きだせるほど、努力を能力に変えて見せた。


「カイル、失格っ!

終わるまでグランドでも走って、反省していなさいっ!」


足りなかった能力を補いながら頭を整理して来いと、凛は乱暴な言葉でカイルに言い渡す。


「シルーセルくんの射撃って神業だよね。

銃弾が届く距離なら、どこでも当てられるんじゃないのかな?」


審判と勤めながら、暇潰しにビィーナは口を動かす。


「そうね。

あそこまでの精密射撃、見たこと無いわ。

あまりに凄いんで、訊ねてみたことがあるわ」

「なんて答えたの?」


射撃は得意な部類でないビィーナには、極意が聴けると眼を輝かせた。

凛は憮然とした顔で…


「…フィーリング。

なんとなく、ですって」

「参考の欠片にもならないね」


なんとなくに、情報管理送還装置(ライブラ)を駆使し、寸分のズレしか伴ってない自分の射撃が負けているかと想うと、凛は不満になったのは言うまでもない。


「どの分野のも才覚を持つものがいるものね。

腹立たしいけど」

「ねっ、ね~、何であたしをニラむの?」

「貴女も同じ解答をしてくれたからよ」


言った記憶がある。

確か察知能力について。

…なんとなくとしか答えられなかった気がする。


「リンだって才覚持ってるでしょ?」

「私のは、後天型なものよ。

自分の能力は自分で開発したもの。

説明出来るわよ。

才覚って、才能を覚えるってことなら、正しいかもね」

「……」


言い合いで勝てる気がしないので、ビィーナは沈黙で負けを認める。


「さて、大詰めね。

ティアが交戦にでたわ」


情報管理送還装置(ライブラ)で投影され、一陣の疾風がフィールドを駆ける情報がビィーナに通達される。


(速いっ!

自分の特色を殺すことなく、ティアくんは成長してる。

…まだ荒削りだけど)


反復横跳びの要領で機敏に動くティアに対し、標準が合わせられないシルーセル。


(大概だなっ!

基本性能が違いすぎる!

幅は狭めても、追いついていないことには変わりないっ!

だけど、これは俺の領域だっ!

負ける訳にはいかねぇ!)


シルーセルは決断を下す。

タイムリミットは3分を切っていた。

相手の土俵で戦っていては、勝機は見出せない。

判断すると、完全に足を止めてその場に立ち尽くす。


(成長しているのはオマエだけじゃないっ!

今のオレは、弾が届く距離の的ならどんな状況だと撃ち貫ける!

領域がオレのモノなら、誰も脅かせないっ!)


ティアはシルーセルの周りを発砲できない5メートル内の距離で警戒しながら、疾走している。

そんなティアに全く反応を示さないシルーセル。


(やるわね。

完全にティア踏み込みを封じた。

下手な行動をせず、自分のフィールドに持ち込んだわ)


少し前まで、駆け引きのかの字すら窺えなかった筈が、それぞれが独自に合った方法で敵を追い詰めていく。

感嘆し、凛は興味深げに終局を見守る。


「ラスト1分!」


凛の声が、ティアに行動を起こさせる。

走りながら攻撃許可距離まで退くと、そのまま銃口をシルーセルに向ける。

だが銃口はブレて、まともな標準が定まらない。

ティアの能力に技術が追いついていないのだ。

空気抵抗を無理やりに筋力で押し留め、自らの腕を限界ギリギリまで硬直させてズレを限りなく少なくしていく。

そんなティアを余所に、シルーセルは予測を立てていく。

情報管理送還装置(ライブラ)を展開させて、最も正確な未来予想を描いていく。

決戦の瞬間は直ぐに訪れる。

腕という砲身を固めたティアが、引き金を引き絞ろうとした。

その僅か0.12秒前にシルーセルが先行して引き金を絞っていた。

何と言う早業。構えて固定し、撃つティアに対し、シルーセルは構えと撃つを同時に行っていた。固定なんて項目は削除して。乱雑に見えるその工程から想像も出来ない、正確無比の精度を誇る射撃が演じられる。

続けざまに、連続される銃声。

ティアの走行しながら射撃。

放たれた銃弾が被弾したのは、銃弾だった。

ティアは眼を見張った。

ティアの動き並ではない。

それこそ野生の動物すら凌駕する速度で疾走するのだ。

その状態から放たれた銃弾。

それにシルーセルの弾丸が命中したのだ。

恐るべき離れ業。

だが、シルーセルの射撃はその上をいっていた。

ティアの弾丸に斜めにぶつかるように撃ち込まれていた。

その結果、互いの弾丸は先端が砕け、ペイントを撒き散らしながら撥ねた。

その先には走行途中のティアが。


「っ!」


予想していなかった跳弾に、ティアは上半身を仰け反らせるという、無理な体勢で避けざる得なくなってしまう。

そこに連発で来襲してくる弾の群れ。

だが、ティアの持ち前のポテンシャルで寸前に迫っていた群れを躱していく。

山道などを走り込むことで鍛えられ、培われた足腰が織り成す脅威のバランス感覚がこの回避を実現させた。


(避けるまでは計算の内だっ!)


誰も過小評価しない。

僅かでも可能性があるなら考慮する。

それがこのチームの鉄則だった。

シルーセルには、ティアならばこれを躱す可能性を思惟されていた。

連弾の隙間にある小細工が施された。

ある地点で交わるようにこっそりと計算された軌跡。

それがティアの前方50センチ。

普通に飛んでくる銃弾ならティアなら回避可能領域。

だが、2つの弾丸はその地点で交わり、指向力のままペイントを排出する。

50センチの隙間が逆にペイントが広がる時間を紡ぎだし、ティアに到達する頃には弾丸の約30倍もの赤い面積となり、ティアに降り注ぐ。

先行していた連弾がティアの移動を封じていた。

それがペイントの雨を受ける羽目となる。

掌で眼球を覆い、ペイントが眼に入らないようにする。

眼に入れば、長時間に渡り視界を塞がれ、その上痛みという枷で動きに影響を受けかねない。

ティアに敗因があるとすれば、五感による情報でこれまで行動していた為に、咄嗟に情報管理送還装置(ライブラ)を前方に展開できなかったことだろう。

次の瞬間、視界を封じられ、ペイントの幕を突き破り現われた弾丸に反応できなかった。

ティアの脳天に衝撃が生まれていた。

腕時計が、訓練終了時刻まで後2秒のところ指していた。

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