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蒼刻の彼方に  作者: ドグウサン
1章 胎動する者達
26/166

【覚悟と信念】 進化と真価

森にあって、無機質なる息吹が所々に感じられた。

疾駆していた足を止め、注意深く観察する。

案の定、人の手が入った形跡があり、罠がある事を見抜く。

暗闇にありながら、掘り返された土の色をハッキリとその双眸は捕らえていた。

高性能な聴覚が、森の息吹以外の息吹を聞き分ける。

慎重にそこへと気を持って行き、探りをいれる。

相手は1人。


(ビィーナから気配の生かし方を教えて貰わなければ、分からなかったな)


罠の種類が何なのか、それを調べる手段と知識をティアは持ち合わせていない。

罠は基本的に、場のものだ。

踏み込まない限り、作動はしない。


(つまり、踏み込まずに削除すれば)


ティアは腰を下ろすと、小石を掻き集める。

そして目測を付け、罠と思しき場所へと投擲する。

結晶化しかけている身体能力は、小石を砲弾に変えた。

石が地を抉ると、それに反応した罠が起動、爆音を轟かせる。

ティアはしかめっ面をし、次々に投擲を繰り返す。

ガサツな罠の破り方だが、これは以外に理に適っている。

爆弾の類は、大抵爆発が一番有効に働く地面に埋めるものだ。

場所さえ把握しておけば、狙撃による排除が好ましい。

そこまで頭が回った訳ではないが、ティアは爆音に恐れを抱くことなく処理をこなしていく。

1度インプットした配置を的確に打ち抜き、罠をご破算させていく。

これに対し、森の異物は驚愕の気配を発した。

爆音が消えた頃には、辺りは灰燼とも呼べる状態になっていた。

隠れる場所を失った者が、憎々しい表情を湛えて此方を見据えていた。


「キッ、サマァ、ワタシのカワイイ子供たちをォォ」


(子供達?

…もしかして、爆弾の事か)


歯軋りをしながら現れたのは、灰色一色の外装をした異様な姿の男だった。

マスクとゴーグルをしており、そこから覗く眼球は血走り殺意だけを湛えていた。


「ユルさん、ユルさん、ユルさん、ユルさん…」


怨嗟を呟き、その声音は次第に高まりをみせていく。

その様は、背筋に悪寒を覚えた。


「チッタ子供たちのように、キサマもケッ、ケしてやるッ!」


衣擦れの音、それを残しティアへと襲い掛かってくる。

手袋に纏われた掌に何かを載せ、掌底を突きつけてくる。

凛やビィーナの閃光のような動きに比べれば大した速度でない。

躱すだけなら造作もない。

だが、悪寒が異常に増し、全力で退く事を直感的に選択する。

掌底(しょうてい)を躱し、全力で跳び去る。

敵の掌が、ティアの避けた先にある木々の残骸に触れた、途端爆ぜた。

ティアは跳び去りながら、顔面を両腕で庇う。

庇う前に網膜が捉えたのは、爆発に巻き込まれるのを厭わずに嬉々としている、狂人の悦の顔だった。

衝撃に襲われ、数回地面を転がり、素早く地面を弾いて立ち上がる。


(…自爆したのか)


爆発で周りの気配が歪み、感知できなくなる。

爆心地にいた男が無事である筈もないのだが、緊張が解けないでいた。

ティアは粉塵の観察を怠らない。


「マタ、マタムダ()にさせやがったナァァァ!!」


爆心地から響く声。

粉塵の中からその男は欠片もダメージを負った様子も無く、瞳孔を大きくして現れる。

リローグドゥの狂人ネテロ ハーガス。

大和の北西に位置する、先進国リローグドゥ。

そこでテロを繰り返す、狂人がいた。

爆弾を我が子と言い、それを試す為だけに犯罪を繰り返した。

犯罪件数38件。

それに巻き込まれ死んだ人々は100を有に及ぶとされている。


凍結(テアテラ)かっ!)


爆発から無傷で生還したネテロ。

そこから相手の(ゲート)を知る。

凍結(テアテラ)

無機物を凍結させる(ゲート)

この(ゲート)を遣えば紙を硬質の刃、もしくは強靭な盾に変えることが出来る。

布の服すら防弾チョッキを越える代物へと昇華され、爆弾すら跳ね除ける。

空間に座標固定、そして凍結されるので、衝撃などは服を透過しない。

まさに最強の武器と防具となる。

隙間無く覆っているネテロのスタイルは、意外にも凍結(テアテラ)の最も有効な使用法とも言えた。

ネテロは掌に爆弾をセットし直すと、再び強襲を仕掛けてくる。

ティアは冷静さを取り戻し、木々の間をサイドステップで駆け霍乱する。

だがゴーグル越しの眼球はギョロギョロと、ティアを視界に収めている。

何たる眼球運動だろうか。

凛すら眼で追う事を断念した動きを確実に視界に捉えていた。

予測を付け、ネテロが飛び込んでくる。

ティアが見る限りでも、隙だらけの行動だった。

爆弾付きの掌底(しょうてい)をカウンターで合わせ、腹部へと拳を突き立てる。

ガキッ!

それはとても服を殴った感触ではなく、硬い鉄板を打ち付けたような鈍い感触だった。

まともに当たれば、岩すら砕く一撃は凍結(テアテラ)に干渉された服を打ち抜くことは無く、拳に軋みだけを残す形となった。

そして顔の横を通過した掌底(しょうてい)

事もあろうに、ネテロは掌を握りこもうとした。

咄嗟にそれを察知したティアは、全力で退避を試みる。

ティアを追って爆発が起こる。

小型なわりに中々凶悪な爆発が辺りに充満し、ティアを吹き飛ばした。

爆発に逆らわず、圧倒的身体能力から蹴り出された跳躍で見事爆風に乗り、微かに顔を火傷する程度で事なきを得た。


「ヒャ、ヒャヒャ、最高ダッ、この(ゲート)はよ!

カワイイ子供たちが、命チらすシュンカンまでオガめるなんて、最高だダッ!」


やはり掠り傷すら負っていないネテロは、狂気笑いを高らかにしながら煙を払う。


(冗談じゃないぞ…。

なんでこんな狂人が、こんな高精度の(ゲート)を遣えるんだよ!)


ネテロは凛に続く、第2学年(ランデベヴェ)第4位の成績を誇っていた。

常軌を違えているが、各能力、(ゲート)の実力は折り紙つき。

脳内では演算が激しくなされており、移動する衣服を凍結(テアテラ)で覆うという高度な使用方法を披露していた。

全身に衝撃を通さない鋼鉄を纏っているようなものだった。

そして、自分すらも巻き込む爆弾。

意外にも、このスタイルには攻防共に隙は無い。

ティアの脳裏に逃げるという選択肢が浮かぶ。

だが、周りの罠は強引に解除したものの、少し足を伸ばした先は未だ多くの爆弾がセットされていると想定する方が妥当だった。

攻撃されながら解除する自信はない。

この爆弾処理が終わっている一帯で勝負をする事が、生存率が高い選択と言えた。


(戦うしかないか)


選択肢から完全に逃げの一手を切り捨て、覚悟を決める。


(あの(ゲート)をどうにかしないと、こちらの攻撃は一切効かない。

どうする…)


異様な笑いが木霊し、ティアに新たにセットした爆弾を突きつける。

ティアは軽く深呼吸をし、敵のペースを乗りかけている自分を諌める。

下半身を落とし、より地面に近い体制をとる。

バスケットのディフェンスのような構えから、サイドステップを開始される。

ネテロが掌底を突き出す間に、3歩。

体制を整えたティアの速度は、ネテロの視界に収まらない。

残像だけが飛び交い、周囲をその脚力で削る。

ネテロの爆弾が虚空を突き、その間に3発もの拳がネテロへと注ぐ。

分厚い鉄板を叩いた感触だけを残し、弾かれる。


「どこダァ!!」


全身を振り回し、ネテロは握りこみ爆発させる。

その異様な行動を察知して、ティアは咄嗟に後方へと逃れる。

1度手の内を知ってしまえば、爆風とて頬を撫でる風に過ぎない。

互いにダメージを負わせる手段を持ちえてないのが、この戦闘の実情だった。


凍結(テアテラ)を破る程の威力を)


粉塵から飛び出てきたネテロへと、今度は牽制のような攻撃ではなく、先程丘で岩を貫通させたような最高の一撃を放とうとする。

素早くネテロの攻撃をいなし、瞬間で懐へと滑り込む。

その勢いを纏い、下半身から螺旋を描き渾身の拳を腹部に突きつける。

ミシッ!!


「痛ッ!」


痺れる振動が拳から伝わり、厭な音が骨が砕けた事を教えてくる。

渾身故に、それが通じなかった反動はデカイ。

ティアは自分の渾身をそのまま返されたようなものだった。

骨だけでなく、耐え切れなくなった皮膚が破け、血の線が虚空に尾を引いていた。


「ヒァ、ヒァァ、なんだ、そのヘナチョコなコウゲキはヨォ!」


ティアは痛みの為、反応が遅れた。

それを逃さずにネテロは、何を考えているのか自分の体を狂ったように叩く。

その瞬間、これまでとは比較にならない爆発が起こり周囲を吹き飛ばす。

遅ればせながらも回避行動をと取る。

だが、爆発から逃れるには些か間は無かった。

この爆発に巻き込まれれば肉体は粉微塵となり、血煙だけを残す惨状になるだろう。


(ざけるなぁっ!)


カイルに課せられた事項。

情報管理送還装置(ライブラ)が今も肉体の情報を常に教えていた。

そう、(ゲート)を使用する体制は整っていたのだ。

全身に代謝(スルミナ)を纏えるの演算能力は、残念ながら今のティアにはない。

ならばと、この場を逃れる移動能力の確保だけと、地を蹴る前の足へと歪みを生じさせる。

それは瞬間だった。

1度だけ大地を蹴る。

それだけの身体の情報を得、代謝(スルミナ)を実行し限界を超えた脚力が脱出を図る。

揺るがす爆音と閃光。

耳に、眼にそれを客観的に捉えれる位置にいる事を実感した時、ティアは自分の試みが成功したことを知る。


(カイルの言った通りだ。

単発なら、然程被害もなく(ゲート)を扱える)


軽い頭痛だけで、いつもの発狂しそうなフィードバックは無かった。

一跳びで、相当離れた位置に着地するが、巧く足に力が入らず転倒してしまう。

初めて真っ当に遣う(ゲート)

それが齎す肉体疲労が予想以上だった。

脚部はパンパンに膨れ、発熱していた。

凛が身体加速(モメンタムブースト)を使用後に、あれだけへばっていた理由を躰で実感した。


(拙っ!

これじゃ、普通の移動にも支障がっ!)


絶命の危機は逃れたが、この後が続かない事にティアは愕然としてしまう。


「そうか、キサマの(ゲート)代謝(スルミナ)かァ!

だが、1度シヨウしちまったイマ、ポンコツのカラダだけになったちまったなァ!」


ネテロは獲物をいたぶるように、ネットリとした粘液のような視線を投げてくる。

状況が焦りを駆り立てそうになるが、不意に脳裏に孤高にも高みを目指す者の姿が浮かぶ。

あれを見た後で、泣き言が言えるかとティアは自分を叱咤する。


(アイツなら、どんな絶望的な状況でも活路を見出す!)


ふと、昨日のランニングでの事を思い出す。

洞察力を身に付け、考察すべき項目を増やす。

ランニング後に思い知らされた自分の欠点。

洞察と考察。

凛に有って自分に無いもの。


(あの(テアテラ)を攻略しない限り、俺の勝機は無い。

肉体を覆っている物が全て、強靭なる防具と化す凍結(テアテラ)

あれじゃあ、密封された缶詰…、!!)


1つの仮説が浮かび、それを事実であるか全能力を持って情報収集する。

整えた呼吸を森の息吹へと転換し、周囲の呼吸を探る。

そして情報管理送還装置(ライブラ)を使用し、最後の情報を得る。


「どうしタァ!

やっと、ハナバナしくチる気になったのかナァ!!」

「謳うな。

爆風に乗って、貴様の臭い息がここまで来そうだ。

口を塞いでろ」


ティアは自分には似つかわしくない不敵な笑みを顔に貼り付けて、挑発とする。

その挑発に、ネテロはこれまで行っていた笑いを潜め、神妙な顔付きになる。


「…イガイだなァ。

このジョウキョウ下において、ヒトミにヒカリを取りモドすとは」


これまで纏っていた狂人の顔はそこにはない。

あるのは冷静沈着なる殺し屋の顔だった。


「意外はこっちだ。

アンタ、そんな顔出来たんだな」

「グフゥゥ。

ダテに、何年もオタズネモノをしてるワケじゃないだよ、ボクも。

アブないハシは、それとなくケイケンしてきた。

そのカンがツげるんだ。

キミはユダンならないヤカラだと。

これまではそうオモえなかったけど、イマはベツジンだ」

「狂人を装っていただけか」

「別にキョウジンはヨソオっていたワケじゃないさ。

あれがホントウのボク。

命のキラメきに見えるんだ、爆発のシュンカンって。

あれがカイカンでたまならい。

トクに、チケムリっていうのはそれを強く感じさせる。

おっ立っちゃうくらいに」


マスク越しに、ニタァと笑うのが見て取れる。

本人の言う通り、これは芸ではなく本質。

ティアは怖気を覚えながら、代謝(スルミナ)の後遺症で震える足に活を入れ、臨戦態勢を取る。


「昔、面白い話があった。

金粉を全身につけて、仮装行列を参加する仕事があったらしい」

「ホォ~、で、それがどうしノォ」

「話の続きは、決着が着いてからだ」



ティアは突然始めた話をいきなり切ると、ゆっくりとネテロへと歩み出す。


(良し、足は未だ生きている!)


確りとした足取りに、ネテロはこれまでの暴挙に近い攻撃方法ではなく、摺り足でジリジリと間合いを詰めていく。

いつの間にか握られた爆弾を見せ付けるように構えると、滑らかな動きで懐へと潜り込んでくる。

正直、虚を突かれた感じだったが、冷静にそれに対応して掌底を躱す。

今度も握りこみ爆発。

その前兆を把握し、強めに地面を蹴り退避。

そこへ爆炎を切り裂き、ネテロが2撃目の爆弾を突き付けてくる。

視界から情報管理送還装置(ライブラ)の情報収集を切り替えていたティアは、その一連の行動を見通していた。

半身ですれ違うように躱し、そのまま逆サイドへと逃れる。

逃れた反動で素早く切り返し、爆音轟く中へとティアは身を躍らせた。

瞬きをする、そんな間だった。

粉塵だけが満たされた空間で、悠々と呼吸するネテロ。

悟らせる訳にはいかない。

常に凍結(テアテラ)を纏い、自分の周囲にしか情報管理送還装置(ライブラ)を展開させていないネテロにとって、目こそが最大の情報収集のツール。

それも粉塵により塞がれている。

情報管理送還装置(ライブラ)でネテロの位置を把握し、そこへと潰れていない左拳を突き立てる。

拳から伝わるは、骨を砕き、肉を突き破る生々しさ。

粉塵が収まり、現れたのは胸元を拳で穿たれたネテロだった。


「馬鹿な話さ。

金粉を全身に付けた為、皮膚呼吸が出来なくなって死に掛けたっていう、お馬鹿な笑い話さ」


ネテロは常に凍結(テアテラ)で身を守っていた訳ではない。

そんな事をすれば、呼吸すら出来ずに窒息死する。

状態としては、空気ボンベのついていない潜水服を着用しているようなものだ。

必ずテアテラを解き、呼吸、そして爆弾を仕込んだ場所から取り出す瞬間があった。

それは瞬きにも満たない瞬間。

警戒している状態ならば、ティアには狙えないような隙間だった。

だが、爆風の真ん中。

敵を排除し、安全を確保した場所ならば緩みが生まれる。

ビィーナに教わった気配の消し方と呼吸のあり方、これが勝因だろう。


「アァ、ゴフッ!」


肺と心臓を貫かれたネテロ。

最早助からないと悟ったのか、ネテロは残りの力を振り絞り両袖をかち合わせようと振りかぶる。

ティアはネテロの思惑を知り、急ぎ拳を抜く。


(間に合わないッ!)


ティアは血に塗れた左腕に(ゲート)を展開させ、運動加速を行う。

引き抜かれたばかりに拳を開き、掌底を作る。

そこから空気を切り裂き、掌底がネテロの腹部へと吸い込まれる。

ネテロの躰はゴミ屑のように吹っ飛び、遥か彼方の木々へと激突する。

袖口が木へとぶつかった瞬間、森は震撼した。

袖口に仕込まれていた爆弾を初めとして、体中に仕込まれていた爆弾が誘発し、恐ろしいまでの衝撃が生まれる。

これまでは凍結(テアテラ)で、誘発を防いでいたものが一斉に引火した。

ネテロを吹き飛ばした後、ティアは悪寒が消えずその場から力の限り離脱した。

それは正解だった。

未だ解除されていない罠。

この爆発に引火させられ、連鎖的に破壊を振り撒いていく。

ティアは最後の気力で身を宙へと躍らせる。

背中越しに爆発を感じ、そのままかなりの距離吹き飛ばされる。

意識が白みそうになるが喰いしばり、耐える。

地面へと落ちると暫く転がって木の根にぶつかり、首を支点に逆さになっていた。

ひっくり返ったまま、自分が飛んできた道のりを確認する。

とても、一対一で戦闘を繰り広げたように見えない。

まるで戦争の跡のようだった。

乱雑に消し飛ばされた木々。

爆弾で抉られた地面。

直径3キロに亘り、こんな感じが続いていた。


「い、生き延びた…、のか?」

「ええ、貴方の勝ちよ、ティア」


その声に反応し、手をついて起き上がろうとする。

砕けている右手から激痛がし、左へと切り替える。

左手も加速の影響か、物凄い疲労感に見舞われ、地べたに伏してしまう。


「なにしてんの、ティアくん」


先程した厳かな声音とは別に、気の抜ける声音が逆からしてくる。

どうやら情けない姿を見せたくない2人に挟まれて、情けない姿を晒されているらしい。

起き上がるだけの気力が得られないので、ぶつかった木を背もたれにして、座り込む。


「その口ぶりだと、傍観してやがったな」

「心外ね。

こっちも襲撃を受けて、足止めされていたのよ。

まぁ、ビィーナのお陰で短縮して駆けつけれたのだけど、必要なかったみたいね」

「本当にそう見えるのか?

この満身創痍が」


服は殆どが焼け落ちており、そこから覗く皮膚に所々火傷の跡がある。

右手は未だ出血しており、骨は粉々。

左腕、両足は疲労困憊で身じろぎするのも億劫だった。


「その程度で済めば、たいしたものよ。

何しろ貴方が相手にしたのは、ネテロ ハーガス。

第2学年(ランデベヴェ)第4位の男だったのよ。

実力から言って、貴方が勝てる見込みなんて10パーセントも有りはしなかった。

それを計算に入れれば、この程度よ」

「…あ、あっそう」

「でも残念ね。

折角ポイント換算のチャンスだったのに、これじゃ」


力なく項垂れているティアに、凛は哀れな視線を送ってくる。

殺しにより、ポイントの換算。

殺伐としたルールに則り、最下位であるティアは浮上できる筈だった。


「どういう意味だ?」

「殺しのルールだけど、あれは証拠として魔晶石(デモノデバイス)を提出しなければならないの。

…で、肝心の魔晶石(デモノデバイス)はどうなったのかしらね」


(ゲート)を開く為に必要なデバイス、魔晶石(デモノデバイス)

それは首の後ろに埋め込まれている。

この爆発では魔晶石(デモノデバイス)おろか、ネテロの肉片一つすら残っている可能性は無いだろう。


「ティアくん、最下位のままだね。

カワイソウに」


そんな事欠片の想っていないような朗らかなビィーナの慰め。

酷い疲労が増す気がした。


「まぁ、悲観する事はないわ。

この襲撃が明日にでも学園中に広まるわ。

(うち)のチームに手を出すことが、如何にリスクが高いか伝わる筈よ。

そうすれば、訓練にもっと意識を集中できるようになるわ」

「…シルーセルを昏倒させておいて、更に訓練を過酷にするつもりか」

「何?

真逆、忘れた訳じゃないでしょうね。

2ヶ月で社員(パチスターニャ)まで高めて貰うと」

「…了解」

「まぁ、今日のご褒美として、半日だけ休憩させてあげるわ」

「わ~、嬉しいな」


ティアの抑揚にない声が、虚しく響く。

有るか無いか分からない休息を手にするのに、死に掛けたのでは割に合わない。

嘆息をつきながら、凛の横顔を覗く。


(やっぱり似ている。あの女に)


心のフィルムに焼きついて消えない、凛と同じく緑の黒髪が似合う女。


(苦手な訳だ。

こいつの態度、口調がアイツを彷彿とさせる。

…もう、迷う事無く言える。

俺はあの女を捜しに此処に来たんだ。

ティア、お前を理由に逃げるのはもう仕舞いだ)


憧憬を覚えた光景を新たにフィルムへと焼付け、ティアはこの覚悟を確かにする為に、覚束ない足取りで立ち上がる。

今、誰かに左右されたものではない、自分の意思で此処に立っている証拠として。


「戻りましょう。

とその前に、貴方をテリト先生の処へと放り込む必要があるわね」


凛は悪魔の笑みを浮かべる。

それはテリトをキアヌに売り渡した時と同じ表情だった。


「い、いやだぁ!」


その言葉を昼頃、シルーセルも言ったことをティアは知らない。

やっとのことで立ち上がったティアには、逃げるだけに余力は残されていない。

それを見越したように、凛は番えた棒を、ビィーナは抜刀し刃を返して、嶺を構える。

その晩、山々に幸薄い少年の悲鳴が木霊した。

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