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蒼刻の彼方に  作者: ドグウサン
1章 胎動する者達
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【覚悟と信念】 過程が宿しもの

昏倒しているシルーセル。

それを一瞥して、嘆息を漏らしてプレハブから外へと出る。


「ビィーナがお粗末だと言っていた意味が分かりましたよ。

それで隠れているつもりですか?」


私は水筒から水を垂らし、空中へと幾つもの水球を浮かび上がらせておく。


「返事が無いなら、攻撃に移りますよ」


私の警告はハッタリだと勘違いしているのか、敵は姿を隠したまま、無様な気配の残像を残していた。


(1、2か。

幾ら未熟な者が相手でも、2人はきついか…)


超遠距離攻撃を行わずプレハブに接近してきている様子から、この2人の中に指向(エペソ)の風遣いはいないようだ。

この血塗られた鉾(ミストルティン)での戦いで、最も重要なものは(ゲート)ではない。

どの位置から(ゲート)を展開させるかを見極める、情報管理送還装置(ライブラ)の運用こそが重要な要素となる。

肉体に歪みを及ぼせば、代謝(スルミナ)

所有している物に歪みを及ぼせば振動(ペルガモ)凍結(テアテラ)引力(サルデス)

虚空ならば指向(エペソ)空間(ヒラデルヒア)だと。

その現場を押さえることこそが、敵の情報を知り、打破への道のりとなる。

情報管理送還装置(ライブラ)の範囲は半径200メートル。

圧縮砲(ブレッドスプリッド)等の超遠距砲撃以外は、察知可能ということになる。

情報管理送還装置(ライブラ)の範囲、それは自分の間合いに他ならない。


(こちらを2人と想定し、派遣したのが2人。

なら、これは時間稼ぎか…)


戦力が分散しているならば、各個撃破こそが理想。

それを成さないで、人数分しか戦力を此方に送り込んでこないことから、これが囮であると思惟する。


(女性陣は…、心配する必要はありませんね)


真っ先に凛を安否したが、アッサリとそれを捨てる。

心配するだけ無駄だと。

寧ろ、迂闊にも凛やビィーナに手を出す愚か者を気遣いたいぐらいだった。

安否を気遣うべきは、ティアだけ。

正直、この展開の速さには舌打ちしたい気分だった。


(真逆、(うち)以外に短時間に纏めることが出来たチームがあるとは。

(いや)、私が知る限り、そんな統率力や扇動力を持った輩はいなかった。

なら、これは教員(パルチザン)が絡んでいますね)


この首謀者に該当しそうな人材を検索する。

ゴルド ブルド。

今年から教員(パルチザン)になった新任教員。

学生時代、かなり強引なやり口でのし上がって来た男。

自分の利潤になるものならば、ルールを破ることを平然と行ってきている。

恐らくこの襲撃も彼が下したものだろう。


(ルールをルールと思わない輩か。

流石に教員(パルチザン)相手となると、心配になって来ましたね)


一刻も早く、この事態を収拾する必要が出てきた。

教員(パルチザン)の実力は、第1学年(ランス)で換算するとダース単位ぐらいの実力がある。

(ゲート)を遣えるか遣えないかの狭間の第1学年(ランス)と、(ゲート)を手足のように扱える教員(パルチザン)とでは、それ程に差があるのだ。

凛やビィーナが並の第2学年(ランデベヴェ)ではないとはいえ、教員(パルチザン)は分が悪い。

心音のギア上がり、焦りが滲んでくる。

それを諌め、(ゲート)の制御と敵の情報収集に勤しむ。


「警告はしましたよ」


腕を振り上げ、2本の指を高らかに掲げる。

その指先に水球が集い、一筋の刃と化す。

それを横に払い、前方に広がる森林を薙ぎ払う。

シュ。

無音に近い音が奔る。

そして静寂に戻る。

だが、2秒後に森林に異変が起こる。

視界一杯に広がっている木々がズレ、そのまま倒れていく。

圧縮水刃(クーゼ)

轟音が響き渡り、積み重なるように大量の木々が鋭利な刃に斬られたように、綺麗な断面の下部を残し倒れていく。

そして、木々の一部から大量の液体が吹き上がった。

それも木々に押しつぶされるようにして、埋没する。


「うぁぁっ!!」


しゃがみ、薙ぎ払った部分よりも下の部分に構えていた1人が、突然倒れだした木々と相棒たる隣の男の首が刎ねたことに、恐々の声をあげながら森林から飛び出してきた。

その正常な思考が働いていない状態を逃す程甘くない。

瞬間で距離をゼロにし、凍りついた表情をしている敵の眼前へと飛び込む。

先程振り払った指先に水の刃を形成すると、首元にぶら下っているペンダントの鎖を断ち、宙へと投げ出された情報管理送還装置(ライブラ)を掴む。

これにより、敵の(ゲート)を完全に封じた。

情報管理送還装置(ライブラ)無しに(ゲート)を行使することは自殺行為に他ならない。

情報誤差によるフィードバックに脳が耐え切れずに発狂するだろう。

情報管理送還装置(ライブラ)を敵から引き剥がした地点で、敵は切り札たる(ゲート)を失ったのだ。

呆然自失している相手の腕を取り捻りあげて、もう片手で後ろから首を押さえる。


「さて、勝負は付きましたね。

折角生かしておいたのですから、貴方に2択与えましょう。

1つは、このまま首を折られて肉塊になるか。

1つは、リスクの高さをゴルド教員に伝えるか。

10秒与えましょう。

経っても選択が無い場合、前者とさせて貰います。

1、2…」


相手に言葉を与えないで、自分の要求だけを進めていく。

この手口は萎縮してしまった相手には有効。

最早、一欠けらしか残っていない反骨心は千切れてしまっているだろう。

そして確実に減るカウントは、一片の理性さえ奪う。


「5、6、7、8」

「まっ、まってくれ!

つたえる、つたえるから見逃してくれ!」

「なら、10秒以内に去りなさい。

そして2度目は無いと知ることです」


完全に言葉と顔色を失った敵対者は、脱兎の如く逃げ出していく。

カウントダウンする間もなく、情報管理送還装置(ライブラ)の範囲を超えて逃げ去った。


(これが私か)


凛の会う前とは比べ物にならない実力。

同学年の者を寄せ付けない能力差に、凛への畏敬と見せられない感情が高まるのを覚える。

そこまで巡らせ、思考を閉じる。


(今は、そこに考えを差し挟んでる暇はないですね)


プレハブを離れようとして、シルーセルの事を思い出す。

このまま放置する訳にはいかない。

それは凛への裏切り行為に他ならない。

焦燥が躰を突き動かしそうになるが、二の腕を服の上から爪で抉り、想いを押し殺す。

抉った肉が、迷彩色の衣服を汚す。

滲んでいく様子は、兄の黒い召し物を汚していく様に似ていた。

キュッと唇を結ぶと、プレハブへと帰還する。


(心配するまでもない。

どんな状況に陥ろうとも、凛に打破出来ぬものは無い)


それは私が一番知っていると自分を諌め、シルーセルの護衛へと戻る。

何事も無かったかのように、不敵な笑みを湛えた相棒が戻ることを確信して。




昨日の地点で偵察は終了した。

直ぐにでも実行しなければ、2度と敵はこの場所を訪れないかもしれない。

そう思案したからこそ、急性ながら狩りを実行に移された。

相手は第2学年(ランデベヴェ)で最底辺の脱落寸前の者。

3人もの人員を用意すれば容易なミッションだった。

今日一日この場に陣地を取り、獲物を待った。

夜も更け諦めが過ぎる頃、やっと獲物がこの丘へと姿を現した。

(チーム)の手足たる人数を剥ぎ、戦力を削いでいく。

確実に1つ1つ潰していけば良い。

第2学年(ランデベヴェ)に成り立ての自分らの実力は、五十歩百歩。

ならば、数が勝る方が勝つ。

理屈的にも作戦的にも間違いはない。

それを実行するにはチームという枠組みが完成する前でなければならない。

そうしなければ敵も数という力を手にする。

そう顧問に説明され、異論を挟む者はいなかった。

闇に乗じ、息を殺して獲物が罠に引っ掛かるのを待ったのだ。


「ごめんなさい、アナタ方にティアを殺させる訳にはいかない」


突然掛けられた声。

ハッとし、其方に顔を向けるとブロンドの髪の少女が隣にいた。

こんな場所なのに、スカートという異様ないでたちで。

警戒を怠った覚えは無い。

獲物が作戦領域に侵入してからは余分に気を遣い、警戒網を敷いた。

瞳には確かに移っている筈の少女。

だが、警戒心が沸かない。

その理由は存在感だ。

この少女には存在感が皆無だった。

ブロンドの髪が揺れ、少女は瞼を閉じ、涙を零した。


「ごめんなさい、最後の神無(カンナ)…、いえあの子を失う訳にはいかないの」


もう1度謝罪すると、トンッと胸に掌を当てられる。

それだけだった。

それだけで、緊張して高まっていた心音が消えた。

何事かと思考しようとして、それが已んでいく。

思考だけでなく、全身を循環すら已んでいく。

明日の朝、この近くで2つの死体が発見された。

その両方共、無傷だった。

唯、もう何週間も経過したかのような、白骨寸前の奇妙な死体が山中に転がっていた。

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