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蒼刻の彼方に  作者: ドグウサン
1章 胎動する者達
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【現状と認識】 テリト リー

午前9時56分。

ドーム状の建物の前に5人は佇んでいた。

第3闘技場。

名の通り中には円形状の闘技場があり、訓練や大会などの時に使われている施設である。

闘技大会等、一般向けにも公開する施設の為か見栄えが重視されており、白さが染みる建築物だった。


「そろそろ来てもらわないと、時間の損失だわ」

「誰を待っているんだ?」


シルーセルの問いに、


「顧問よ」


と答えが返ってくる。


「顧問?

そんなのいたのか」


凛とカイルだけが認知しており、他の3名は存在すら覚えがない有様だった。


「まぁ、貴方達が知らなくても無理からぬ事ね。

本人は群がる場所を嫌って、昨日チーム分けが行われたグランドに顔を出してないもの」

「誰だ、その無責任な顧問は…」

「テリト リー。

本職は保険医で、最高と最悪の2つ名の異名を持つ治療のスペシャリストです」


カイルが補足を加えつつ紹介する。


「最高と最悪?」

「あら、貴方保健室に立ち寄ったことないの?

1度でも寄ったことのある人間なら、2度と保健室の敷居は跨がないものよ。

そこでは怪我の治療と引き換えに、人間が耐えうる限界値に近い痛みを与える特急治療を受けられるわ。

怪我人が多い筈の血塗られた(ミストルティン)で、保健室は年中閑古鳥が鳴いているわね」

「その閉店間際の保健室に入り浸っているのは、誰じゃ」


突然、背後から生まれた声に、ティアは驚嘆し振り返る。

そこには白髪の老人が温和そうな表情を讃えていた。


(全く気配を感じなかったっ!)


「怪我人が保健室へいくのは、常識だと認識しているのですけど。

リー先生は、違う認識をお持ちなのかしら?」

「…可愛げのない娘よのぅ」

「可愛げなんてもの、必要とは感じておりませんので。

それよりも、今日はキアヌ先生とご一緒ではないのですか」

「滅多な事を口にするでない!

噂をすると影じゃ」

「…影とは、あれではないでしょうか」


カイルが指す方向に、テリトは恐怖で顔を引き攣らせながら視線を向けた。


「リィィ~~~様ぁ~!」

「…逃走できなんだったわ」


リーと呼ばれた老人は諦めきった嘆息を漏らし、迫る脅威になす術なく捕まった。


「私を置いていくなんて冷たいですよ~。

これほどまでに恋焦がれているのに!」


豊満なバストとヒップ。

クビれたウエスト。

妖艶な足れた目元。

フェロモン満載に搭載した女は、タックルと称していい勢いでテリトに抱きつく。


「止めんか!」

「嫌ですっ!

折角、リー様を捕まえたのに!」


胸をこれでもかと言わんばかり押し付け、テリトを逃がさないように抱擁する。


「相変わらず仲が宜しいですね、キアヌ先生」


呆れ顔で半眼しつつ、凛はとりあえず挨拶を送った。


「あら、よく見ると常習犯じゃない。

どうしてリー様と一緒にいるの?

ま、まさか、リー様を誘惑しようと!」


キアヌは結論を脳内完結し、凛に非難を浴びせかけていた。


「…聞き飽きました、その台詞。

リー先生は、これでも私達の顧問です。

必然的(・・・)にですけど」

「必然的!

なにそれ、運命とでも言いたい訳!」

「ま、有体に言えば」

「小娘ぇ!

リー様に手を出すな!」

「出しませんし、範疇外です。

60過ぎの老人に発情している人間は、私の知る限りキアム先生ぐらいのものです。

私に気兼ねなく関係を進展させて下さい」

「まぁ~、リンちゃん!

アナタの事、誤解していたわ。

ありがとう!

生徒もあぁ言ってますし、今晩、ご夕食でもいかがですか?」


キアヌはリーをハグしながら、背丈の問題で見下ろしながら流し目を送っていた。


「行かんわ!

人を売り物にしおってからに…」

「時間が勿体ないので、弄られるのもそれくらいにしておいて下さい。

闘技場は2時間しか借りられませんでしたから、迅速に開放してください」

「弄られる方が悪いのか、お主の中では…」

「時間が惜しいですから、さっさとして下さい」


テリトを無視し、闘技場の入り口、その脇にあるカードスロットを叩きながら凛は建物の開放を促す。


「…どういった教育をされているんじゃ、この娘は」


渋々カードを取り出し、カードリーダーに通す。

ピーと認識音がするとドアはスライドし、その口をあける。

そして内部の電灯が自動で点き、内装を浮き彫りにする。

清潔感漂う白い通路が闘技の間まで続いていた。


「ねえ、ねえ。

なにを行うつもりなの?」


流れが掴めず、キアヌが好奇心に満ちた顔で質問してくる。


「ちょっとした前哨戦ですよ。

互いの実力を知り、高め合おうなんて青臭いお題目の下、命を掛けた闘技小会ってところでしょうか」


キアヌは目を細め、ここにいる者達を見渡す。


「…ふ~ん、戴した統率力ね。

チーム結成からたったの2日。

そんな短期間で、そんな話題をチームに提供できるなんて…。

普通なら正気を疑うか、堂々と殺し合いをしたいか…、ってところね。」

「なら、正気を疑ってくれて結構ですよ」


通路に足を進めながら、凛は逡巡もなくそう告げた。

テリトとキアヌが物珍しそうに、凛という女を凝視した。


「馬鹿者か大物、どちらかのう?」

「この場所、状況下ですから大物の類ではないでしょうか。

…リー様、他の女に見とれちゃダメですよ、」


リーの顔を掴み、無造作に横に捻る。

その時、グキッと音がしたのは愛嬌としておこう。


「…殺す気か、主は」

「まぁ、リー様、ご冗談を~」


コロコロ笑うキアヌに、テリトは重々しい溜息を吐き出すのだった。

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