4
続きは改稿にて追加します。(追加しました)
入学式が始まる。
出席番号順で椅子に座るため美春ちゃんとは離れてしまった。
むぅ、もう少し一緒に居たかった。
入学式は特に変わったことなく進んでいく。
ただ思ったことは、どこの世界でも校長先生のお話は長いんだなということだ。
同じことを何度も、それも言い方を変えて言い続けるから疲れる。
結論だけを可能な限り短く言えよ!って叫びたくなる。
辺りを見渡すと、やっぱり退屈なのか寝てしまっている子もいる。
はぁ、早く終わんないかなぁ…。
はーい、入学式終了でーす。
もうね、何言ってんのかほとんど記憶がないよ。
寝ていたわけじゃないんだけどね。
「あ、いたいた!おーい!日陰ちゃーん!」
「美春ちゃん!」
癒しの天使降臨!
ああ、私の凍えた心に温もりが…。
「入学式は退屈だったねぇ…。一緒に教室に戻ろっか」
「うん!一緒に戻ろう!」
体育館から美春ちゃんと一緒に教室に戻る。
さっきの席はお互いに荷物を置いて確保しておいたから教室に着いてから真っ先に席に座る。
どうでもいいだろうけど、荷物とかに書いてある名前は「日陰」だけで苗字は書いていなかったりする。
同じ名前の人がこの学校にはいないだろうしね。
「きゃー!鷲宮様よ!」
「鷲宮様と一緒のクラスになれるなんて!光栄だわ!」
一人の男子が教室に入ると同時に女の子達が一斉に黄色い声をあげる。
うわぁ…、うちのクラスに攻略対象者が来るなんてなぁ…。
まぁ、あのチャラ男っじゃないだけよしとしよう。
俺様系は関わらないのが一番だ、見ないように努力しよう。
「…鷲宮様は大人気だねー」
「美春ちゃん、気になるの?」
ああそうか、美春ちゃんが好きになる可能性があるのをすっかり忘れてた。
「いや、私ああやって女子から大人気のイケメンさんは苦手だったりするんだよね…。もしかして日陰ちゃんは気になったりするの?」
「いやまったく。むしろ関わりたくないです」
「あはは!そんな気がしたよ」
そうそう、私は美春ちゃんが一番好きですからね。
あんな自己中に関わってらんないっつーの。
ってかうっさい。取り巻きの女子たちがマジうっさい。
若干イライラしながらも、美春ちゃんとのんびり会話をしていると、先生だろう大人の男性が教室に入ってくる。
「おーい、お前ら早く席につきなさーい」
先生の一声で女の子達がやっと席に座って静かになる。
窓際に座った鷲宮の隣はあの取り巻きの中で一番権力があるんだろう無駄に立派な髪飾りを付けた女の子だ。
…壁際に座ってよかった。
「えー、とりあえず入学おめでとう!お前らはこれから何年間になるかは分からないが、相当長い間この学園に通うことになる。問題とか起こすんじゃないぞ!いいな!もし何かあったら先生にしっかりと伝えるように!」
ふむ、権力が効いてしまうこの学園で教師は役に立つのか?
「あと、うちのクラスにいる鷲宮や、他の御曹司達に近づくのは構わないが、あんまりうるさくして周りに迷惑かけんなよ?そんなことしてっと厳重注意されて親に連絡がいくからな!」
先生のこの言葉で女の子たちがざわつき始める。
まぁアイツがいる時点で騒がしくはなるだろうが、先生の言葉を聞いて、少しでも問題を起こそうとする人や騒ごうとした人は少なくなったと願いたい。
「俺からは入学に関して言いたいことは以上だ!あとは机の上に配られていただろうプリント読んでくれ。んで、この後はお前らの入学を祝うパーティーがある。お前らの家族はもちろん、結構な人数の先輩たちも参加している。会場で迷ったり、警備はいるが勝手にパーティー会場から抜け出したりしないように!分かったな!」
先生は言うだけ言って足早に教室から出ていく。
きっと忙しいんだろうな…。
先生がいなくなった後、女の子たちが小声だとはいえ鷲宮に近づいて囀るのを聞きながらぼーっとしていると、美春ちゃんが私の袖を引っ張ってくる。
どうしたの?と顔を向けると爽やかな笑顔で話しかけてきてくれる。
「ねぇ、日陰ちゃん、この後のパーティーだけど一緒に行かない?」
「え、いいの?」
「うん!私も友達は日陰ちゃんしかいないからね。それと、私のお兄ちゃんも今日来てくれてるから紹介するね!お兄ちゃん、今日は私の事を祝いに来てくれてるんだ!友達が出来たって報告すればきっと喜んでくれるし」
「そうなんだ。でも、庶民の私なんかで大丈夫かな?」
「そんなことは大丈夫だって!私の家族は庶民だとか気にしないよ!それにお兄ちゃんに紹介もしたいから、ね?」
「ほんと?なら一緒に過ごしましょ」
「よっしゃ!じゃあさっそく会場に行きましょっか!ここにいてもやることもないからね!」
「うん!行こう!」
手を繋いでパーティー会場に向かう。
ああもう…、幸せすぎて泣きそうだよ!
でもパーティーは今日最後の試練なんだよなぁ…。
それに疲れすぎてもいけない。
パーティーの後はあのバカとの手続きがある。
考えただけで疲れちゃうんだけど…。
美春ちゃんと会場に向かいながらこれからの事を考える。
しばらく歩くと会場と思われる場所に着いたが、やっぱりまだ早いのか人は少ない。
美春ちゃんは辺りをキョロキョロするとお目当てのお兄さんを見つけたのか私を引っ張りながら先輩達の中に向かっていく。
近づいてみると美春ちゃんのお兄さんは中々のイケメンだ。
茶色い綺麗な髪に優しそうな目、全体的に見ていて安らぐような雰囲気の人だ。
ちなみに美春ちゃんは、肩まで伸ばした茶髪と若干釣り目がちな目をした元気っ子だよ。
美春ちゃんは天使、異論は認めない、潰す。
「おーい!兄ちゃん!」
「ん?ああ、美春か。どうしたんだい?」
「あのね!友達が出来たの!日陰ちゃんって言ってね、庶民だけど私の大事な友達だよ!」
大事な…、うぅ…、また泣いてしまう…。
き、気を引き締めないと…。
「初めまして、美春ちゃんのお兄さんですね?美春ちゃんとは仲良くさせてもらってます。えと、これからよろしくお願いします」
「ああうん、君が日陰ちゃんだね?そんなに畏まらなくてもいいよ、うちは家柄だとかそんなことはあんまり気にしていないからね、むしろ何かと暴走しちゃったりする妹だけど仲良くしてあげて」
「はい、喜んで!」
「ちょっ!?兄ちゃん!?私の評価をさげるのはやめてよね!もうっ!」
「大丈夫、私は何があっても美春のそばにいるから」
「日陰ちゃん愛してるよ~」
「美春ちゃ~ん、私もだよ~」
「あっはははは!仲良いようでなによりだ!入学おめでとう!パーティー楽しんでいってね!」
「「はーい」」
話し合いを終えた私たちはそれなりに目立たないような席を探して座り、パーティーまでのんびりと雑談をしながら過ごしていると、だんだんと人が集まってくる。
…そろそろ時間だな、大人たちもちらほら入り始めている。
このパーティーとパーティーの後の事は今後の学園生活に繋がるからな。
私は美春ちゃんと過ごすためにも全力を尽くさせてもらう!
======================
ほとんどの人が集まりパーティー開始の時刻となった。
美春ちゃんとの幸せな時間も終わり。
ここからは入学パーティーという名の金持ち達の戦場にもなるのだ。
それこそ政略結婚の相手探しや相手の経済状況の把握はもちろん、人によっては相手を利用や商売敵を潰すために弱み探しを行うものもいるんだろう。
子供がいるというのは相手の状況を調べるのには都合がいい。
だからこそ上を目指すお金持ち達は子供をしっかりと育て、玉の輿や会社の地位上昇、自分を支えてくれるような立派な相手探しをさせる。
もちろん子供を育て間違うとそこを付け入られてしまい、価値がなくなったと判断されれば切り捨てられてしまう。
ほら、ありきたりな悪役令嬢の取り巻きとかまさにそれだと思うよ。
あんだけわがままでも許されるのはその家に利用価値があるからで、大人になった時に「困ったことがありますの」と言って少しずつ搾り取っていく。
そして、搾り取れなくなったときには切り捨てて、完全に潰れるまで関わりを断つ。
わがままに育った人は人へ頼む事を知らないし、頼み方も知らない、頼んだところで支えてくれるような人など皆無だろう。
そうやってお金持ちの社会はものすごい速度で変わっていく。
白鳥家や鷲宮家が何故すごいのかというと、昔から変わらずに存在し続けているのが理由だ。
「この家は潰れることはないだろう」という信頼はとても大きい。
夜会やパーティーはそういった潰れることがないだろう人間との関わりを持つために行われる。
この入学パーティーもそうだ。
優秀な人間探しと相手の弱み探しが子供たちが知らない水面下で行われる。
それを学んだだろう子供は水面下に引きずり込まれないように必死で自分の価値を示し相手に弱さを見せないように努力する。
…それでも、この中で卒業までにどれだけの子が家が潰れて消えていくのかな?
突然だが、お金持ちの社会は情報が命だ、この中には私の事を事前に調べて近づこうとする者もいるのだろう。
そういった人間を退けて白鳥家へ気付かぬように評価を下げるのが私だ。
ただ、評価が下がるのは白鳥家にいる人間の人柄であり、白鳥家自体の評価ではない。
私程度に白鳥家という大きな存在を落とすことは出来ないし、白鳥家が私を切り捨てている以上、私には利用価値もないと判断して無視する人が増えるだけだろう。
人によっては仲直りの仲介として気に入られようとしたり等、私を利用して白鳥家に干渉しようとする人もいるだろうが、そんな一歩間違えば白鳥家を敵に回すかもしれない危ない橋を渡ろうとする人など、賢いものならばいないだろう。
白鳥家に関わろうとするならば、まずは私とクソ家族の情報収集を開始し始めるのが正しい判断だ。
その時に私は白鳥家の恨みを買わぬように、相手に存在に価値がないと判断されないようにするだけだ。
私は今まで部屋に押し込まれていたから白鳥家に関する情報はなにも手に入れていない。
親族やその親族がどういう人なのか、などの情報も一切覚えていない。
いや、日陰はたぶん会っていたり話したりもしたのだろうが理解していないのだろう。
だからこそ無難に動き、私自身もゆっくりと情報を集めなければならない。
別に復讐がしたいわけじゃないし、恨みはあるがこれから卒業までの私の生活費が支払われる以上は白鳥家に金を出さないと言われてしまうほど恨まれては困る。
私はただ白鳥家との関係を完全に抹消して自由に生きたいだけだ。
その際に気を付けなければならないのが祖父母やクソ家族の存在だ。
私を白鳥家から切り捨てて初めて祖父母は異常に気が付きクソ家族は風評被害を体感することになるだろう。
そうなった場合、私の存在が邪魔だと消すか、私を白鳥家に戻して政略結婚の道具として使うか、二度と出れない様に閉じ込めてしまうか。
想像するだけでも最悪なレパートリーだ。
残念ながら祖父母の事は分からない、ゲームでは出なかったし、日陰の記憶は私の記憶にほとんど塗り潰されてしまった。
だが、祖父母だって白鳥家と孫娘どっちを取るかと言われたら普通は白鳥家を取るだろう。
もし運よく祖父母に気に入られとしてクソ家族を潰せたとしよう。
だが、その場合、白鳥家や私はどうなる?
私が経営していくのか?経営させるために政略結婚をするのか?
冗談じゃない、どのみち碌なことがないのは分かりきっている。
潰すからにはその後の責任を背負う覚悟を決めなければならない。
どううまくやったとしても、潰したという事実が信用を失うことに繋がる可能性だってあるし、騒ぎを起こした後にクソ家族を処分なんて後ろ暗い事は弱みとして突かれてしまえば面倒なことになる。
だからといって追い出しただけじゃ復讐されてしまうことになる。
そうやって白鳥家は中で潰しあって崩れていくだろう。
ああ、巻き込まれたくないね。
パーティーは全員が集まったのか扉が閉められ理事長が登壇する。
ついに始まるのか…、改めて周りの気配のようなものに集中すると何人かの視線を感じる。
クソ家族は…、私と離れた場所にいるな。
陽向はやっぱりイケメンだからかハーレム状態だ。
あいつと卒業まで同じクラスにならないようにしなきゃなー…。
「これから入学パーティーを始める!新入生よ!入学おめでとう!パーティーを存分に楽しんでいってくれ!」
さぁ、戦いのゴングが鳴り響いた。
ゆっくりと私に近づく人たちの気配を感じて冷や汗を流しながら気合を入れる。
こんな地獄のような時間がダンスがないとはいえ2時間も予定されているなんて、考えるだけで鬱になりそうだ。
はぁ…、早く一人になりたい。




