素人っぽさを減らす、小さいけれど意外と便利な小説技法 そのにっ!
みなさんお久しぶりです。素人っぽさを減らす何とかかんとかの第二弾です! タイトルが長すぎてちゃんと覚えてません! 誰だこんなタイトルにした奴は!
さて、なぜこんなにも第一弾から時間が開いてしまったのか。それは「どうせ反響もないだろうし終わろうかな」と思っていたからとかそうでないとか。元々、気が向いたときに書いていくスタイルで連載する気もないので短編読み切り形式でやらせてもらっているんですが、読者の声があれば『そのさんっ!』は案外近いかもしれません。――と言いたいですが私もそんなに技法を持ってないんだよなぁ……
初見の方にお伝えしておくと、このシリーズは『上手くなる』技法を教える訳ではありません。『下手から抜け出す』技法をお伝えしていくものです。ちゃんと出来ている人もいると思いますが、まだそこに気付き切れていなかった人の手助けをしていくものです。これを読んで、更に自分なりの『上手い』技法に昇華させてくれることを願っています。
さてさて、ではさっそく今回のテーマに行きましょう。今回のテーマはこちら!
『伏線と布石を間違えるな。ちゃんと伏線を張れ!』
です。
どちらも同義だと思われている方がいるかもしれませんが、この二つは別物です。
伏線は文字の通り伏せられているものであり、つまり隠蔽性が問われます。
対して布石は、元々以後の用語であったように終盤を見越して序盤に置いておくもので、隠蔽性は必要とされません。
具体的にどのような違いがあるのか、相も変わらず適当な例を使って説明していきたいと思います。
まずは伏線から行きましょうか。正直、私もこれ難しいんだけど……。
*(伏線を張った個所)
「私が殺した」
何もかもが崩れ落ちていく。
奪った。
彼女が、俺の全てを奪った。
ただそれだけの事実が決定的な矛盾を孕んでいるかのように、俺の頭ではまるで理解できちゃいなかった。
「王族狩りは、私のことだよ」
淡々とした声で、葵は告げる。
降る雪がやけに鮮明に映った。彼女の目元に舞い降り、迦具土神の熱で溶けていく。
*(伏線を回収した個所)
「殺してなんかいない!!」
大地を震わせるほどの怒号だった。
何か、柔らかい木片か何かで殴られたように柊哉の視界がぐらりと揺れた。
(中略)
今だから、気付く。
あのとき葵の目元に降りた雪は、本当は雪なんかではなく、彼女が流したたった一雫の涙なのだと。
*
全くと言っていいほど綺麗に張れていない上に回収も途方もなく雑なのですが、拙作『雷鳴ノ誓イ』より引用させていただきました。
葵と言う少女が柊哉(俺)の父を殺したと思われていたが、実は違ったと言うことが判明するシーンです。詳しく読みたい方はぜひあとで(唐突な宣伝)
さてさて、この伏線の箇所が『彼女の目元に舞い降り、迦具土神の熱で溶けていく』という部分です。ちなみに迦具土神って言うのは炎を操る感じの武器です。詳しく読みたい方(以下略)
情景としては頬を滴が伝っているのですが、それを露骨に書くと「泣いてるんじゃ?」と読者に思わせてしまうので、雪と勘違いした、ということで隠蔽している訳です。
この隠蔽こそが、伏線である証です。
ちなみに回収する際に、きっちりその部分を明言しておくかはケースバイケースです。「あぁ、あの時の!」と読者が思わないと意味がありませんが、「実はあれが涙だったのだ」みたいに簡潔にやるとこの上なくチープに見えてしまうので、語彙や言い回しには注意が必要です。
さて少しばかり話がそれましたが、これが『布石』だとどうなるか。ちょっとやってみましょう。
*
「王族狩りは、私のことだよ」
淡々とした声で、葵は告げる。
彼女の頬に涙が伝う。その理由がさっぱり分からなかったけれど、俺には問う気力さえもなかった。
*
こんな感じですかね。回収の仕方は同じです。
読者にあからさまに疑問を投げかけて、しかししばらく放置する。これが布石です。隠蔽性は全くありませんね。
しかしこの例では『涙』と明言されてしまったことで、果たして彼女は本当に悪なのかと読者が早々に疑問に思ってしまう為、回収した際のインパクトは半減してしまうでしょう。
これが『伏線のつもりが布石』になっていたという状況です。
素人と呼ばれてしまう方の作品では、やはりこのような『伏線のつもりが布石』になっている場合がほとんどです。起承転結の『転』でのインパクトを出したいのであれば、やはりきっちりとした『伏線』を張る必要があります。
僅かな言い回しだけで、隠すことは容易に出来ます。あるいは他に重大な情報を織り交ぜ印象を薄くするなど、手法は様々です。それを完璧に身に付けられれば『素人っぽさ』を減らすどころか『上手い』文章に仕上がるでしょう。ご自身の力で頑張ってください。
あ、決して私にその技法を教える気がない訳ではありませんよ。そんなケチではないのです。――ではなぜそこまで面倒を見ないのか。
それは、私には教えるほど上手い伏線を張れたことがないからだ!(ドヤ顔)
あぁ、何と悲しい事実なのか……。
閑話休題。
ここで勘違いしてほしくないのは、全ての情報を隠せと言っている訳ではないということです。伏線と布石は別物であり、つまり布石が有用な場面も存在するからです。
では即興で作った例でそれをお見せしましょう。
*(布石を置いた個所)
死を悟った瞬間だった。
俺の右手から、黒い炎が噴き出した。
「な、何だそれは!?」
目の前の悪魔が、戦きその動きを止めた。それは、俺もまた同様だった。
不思議と、俺は熱さを感じなかった。しかし、それは確かな熱量を持っていた。目の前の悪魔の皮膚を掠めた瞬間、黒い煙が上がったのだから。
「貴様、その力は――!?」
何かを言い終えるよりも先に。
俺の意志を介さずに、その黒煙はまるで竜の顎のようにうねり、巨大化し、眼前の悪魔を丸のみにした。
やがて炎は役目を果たしたと言わんばかりに、すぅっと虚空へ消えていった。
後に残ったのは、風に浚われる黒い煤だけ。
あの悪魔の姿も、俺の心の臓まで掴んでいた確かな『死の気配』も、どこにもありはしない。
「何なんだ、今の力は……」
俺はただ、呆然とそう呟いた。
*(回収する箇所)
「今、分かったよ」
黒い炎を従えて、俺は言う。
「これは超能力なんかじゃない」
眼前の悪魔の大群を見据えて、拳を握る。
それに呼応するように、黒い業火は唸りを上げる。
それは、目の前から聞こえる幾多の咆哮にも似ていた。
「これはお前らと同じ――悪魔の力だ」
*
おい何だこの中二病全開の例文は(苦笑)
それはともかく、これがいわゆる『布石』です。隠す気はありませんが、まだ読者に正体を教える気はない、しかしこれが今後重大な展開に繋がっていく。そんな時に用いるのが布石ですね。
まぁ基本的に『伏線にすべき場所を布石にしてしまう』ことはあっても『布石にすべき場所を伏線にしてしまう』ことを私は見たことないので、あまり気にする必要はないと思います。このエッセイ(?)を変な風に理解してしまわないように、という注意ですね。
実のところ、『布石』を『伏線』にする技法についてはあまりお教えしていません。「詐欺だ!」と思われるかもしれませんが、その必要性がないからなのです。
『伏線』と『布石』の違いを知り、間違えないように注意することさえ出来れば、自然と『伏線』として隠さなければいけない情報を隠せるようになると私は思います。
最初はぎこちないかもしれませんが、『布石』と勘違いしていた頃よりはよほど『素人臭さ』は抜けているはずです。そこまで導くのが私の役目、それより先へ行きたいのであれば、他の小説技法サイトであったり、あなたの好きな数多の小説だったりが役に立つことでしょう。
『伏線』と『布石』に注意してそれらを読むだけで、ただ読むよりもかなり力の付き方に差が出ると思います。そのきっかけにこのエッセイがなってくれることを願っています。
ではでは、今回はこの辺で! ……え? 次回はいつだって? ふふふ、それはこのエッセイの中に伏線を張っておいたから自分で考えるんだな! ――あ、嘘ですごめんなさい。伏線を張っていないどころか次回の予定さえ立っていないです。
続編希望の方はそれとなく感想とかで私をせっつきながら、気長にお待ちくださいませ。それでは、さようなら!