表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
茶師の姫君〜異世界で紅茶事業を始めました〜  作者: 斉凛
第4章 新たな旅立ち編
87/124

告白

 風に吹かれて茶葉を摘んでいると、無心になる。体を動かして働いてるとすっきりするな。

 父は私が作ったお茶をかなり昔から保管していたらしい。保管状態が良いから初期の頃のお茶もまだ飲める。さすがに味は落ちているけれど、治癒効果は衰えてないようだ。だからこうして私が作ったお茶が無駄になる事はなく、いずれ誰かの為になる。生産的な現実逃避って気分が良いな……。


 お茶を作るだけなら、今でも、マリアとして国に働かされていても、できる事。ただ作るだけなら……。

 初めはただ紅茶が飲みたいだけだった。より美味しいお茶を作りたくて、美味しいお茶ができたら人に飲んでもらいたくて、より多くの人に飲んでもらいたくなったから売って……。どんどん広がって行った私のお茶への情熱は止まらなかった。

 アルブムでのお茶会の仕組みも面白かったし、人にあわせて選ぶ事も、色んな国にあるお茶を知れたのも勉強になった。あの刺激的な日々に比べると、こうしてお茶を作るだけの日々が退屈に感じる。


 結局私はお茶が好きで、お茶から離れられなくて、でもお茶で何がしたいのか……いまだに良く解らないのよね。だからいまだに迷ってる。


「ヴィーダ様」


 遠くからキースの呼び声か聞こえてきた。茶摘み用の籠を持って、作業着を着て。


「手伝ってくれるの? 仕事忙しいんじゃない?」

「たまには息抜きに……こうして一緒に茶摘みをしてれば、昔を思い出す」


「そうね……変わらないわね」

「この景色は変わらないよ。マリア」


 ぼそりと呟いたキースの声にどきりとした。2人でお茶を摘んで、製茶して、ずっと2人で一緒だったけど、気がついたら変わってた。

 キースは使用人じゃなくなって、こうして私の名前を呼んで、ため口で話す。なんだか不思議な気分だ。


「キースは……変わったわよね。最近前よりしっかりして大人っぽくなったというか……」


 最近の気負ったキースじゃなく、こうしてリラックスして茶摘みをしてるキースはかっこいいな……と思える。茶畑の斜面から落ちた時に受け止められる様に、いつも下側にいてくれて、何も言わなくても絶対に護ってくれる。そういう安心感は昔と変わらないのに……何が変わったのかな?


「マリアも変わったよね」

「え……どこが?」


「お茶が好きな事は変わらないけど、昔はあまりおしゃべりじゃなかった。内気で人見知りで……でもあのアルブムで王族相手に一歩も引かずに話し続けた……あの時のお茶会は凄かった……」


 その後キースは俯いて何かを呟いた気がするけど、私には聞こえなかった。ただ……なんとなく心がざわざわして聞きかえすのが怖い気がした。


 内気で人見知り……そんな風にキースに見えてたのか……私は。紅茶を作る事に熱中してた頃は、人に興味がなかったし、元々口が上手い方ではないと思っていたから、自分から主張しなかった頃はあった。

 紅茶を売り始めて人と関わり、ジェラルド達の問題を知ってなんとかしたいと思った。がむしゃらに色々やってるうちに、自分で気づかない成長をしてたのかもしれない。


「遠くに行ってないわ。ここにいるでしょう?」


 キースはそんな私の顔を眩しそうに見つめて、「そうだね」と呟いた。その後しばらく雑談をしながらお茶を摘み続ける。


「そろそろ休憩しよう。この茶葉は加工場に持って行けばいい?」

「うん。職人さんに渡したら加工してくれるわ。私が摘む事が重要みたいだから、任せても大丈夫みたい」


 キースはひょいっと私の分の籠まで持って過工場まで歩き始めた。二つも籠を持って重いだろうに涼しい顔だ。


「マリア……この後時間いいかな? 話したい事があるんだ」

「……? ……いいけど」


 そもそも茶を摘む以外に他にする事もない。下手に人と話しすぎて正体がばれるのも困るし……いつも散歩するか本を読むか、お茶を飲むかくらいだ。

 加工場にお茶を預け私達は街が見渡せる場所に向かった。津波で一度削られた街は、立て替えられ新しく作り替える途中だ。皆が一生懸命で活気があって……私はこの街が好きだな……と見ていてしみじみ思う。


「俺はこの街が好きだ」

「私も……」


「だったら……2人でこの街を護って行かないか?」

「……え?」


 その言葉に一瞬戸惑ってキースの顔を見た。とても真剣な顔で緊張してるのがわかった。ああ……これってプロポーズ。


「俺はマリアがどんな姿になっても、名前が変わっても、何も気にしないし今までと同じだ。マリアがお茶を作りたいなら応援する。俺が領主になってマリアがその側にいて、こうして毎日マリアはお茶を作ってすごす。そういう未来でもいいだろう?」


 昔と何も変わらないずっと続く平和な日常。私がお茶を作る事に理解のある夫と、故郷でのんびり暮らす……悪くはない未来なのだけど、何かが……私の中で引っかかった。


「マリア……」


 キースの声が切なげに響いて私の体を抱き寄せた。私は俯いて大人しく抱きしめられる。でも顔を上げない。あげれない。口づけを受け入れたらそれはプロポーズに同意した事になってしまう気がして……。何かが引っかかったままの気持ちで流されたくなかった。


「少し考えさせて」


 私がそう呟くのをキースは黙って受け入れた。ジェラルドを好きだと思った事はあった。でも……ずっと側にいるキースにそういう気持を抱いた事はなかった。一緒にいて当たり前みたいな家族になってしまったからドキドキしないんだろうか?

 そうではないと思う。こうして抱きしめられると、力強い腕や胸板にドキドキする。キースを男として意識する。でも……何かがひっかかって気持ちがブレーキをかける。それが何かをもう少しだけゆっくり考えたい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ