お茶の時間〜幕間〜1
ラルゴがソファにくつろぎながら、お茶を飲んでいるのを立ってみていた。昔話を聞いているとずいぶん微笑ましい関係に感じる。
実際ソフィアから聞いた話でも、昔はラルゴの事が好きで、よく一緒に話したと聞いている。ぼんやり思い出していると突然ラルゴが言った。
「落ち着かないな、座ってお茶を飲んだら」
「私、今は侍女ですが、いいんですか?」
「一人で飲むのもつまらないと思えてきた。どうせ他に誰もいないしいいだろう」
「ありがとうございます」
ラルゴの向かいに座り、ティーコジーをとってポットから予備のカップに注ぐ。ティーコジーを被せていても少しお茶は冷めていた。かなり濃くなっていたので、ミルクを多めに入れる。砂糖はいれないのが好みだ。
今度から二人分入れようと思いつつ、少しづつ飲む。自分で入れててなんだが美味しい。
少しリラックスしていると、ラルゴが俯きながらおそるおそるという感じで切り出した。
「ソフィアはなんと言っていた」
「昔は殿下の事が好きだったと」
「昔はか……今は?」
そこで思わず言葉につまる。二人の関係がどこまでの物で、ソフィアがどう思っていたのかわからない。ソフィアの話もそこは曖昧で、あまり語りたがらなかった。
「今の事は……わかりません。ソフィア様も迷っておられるのでしょうね」
「迷っている?」
「ラルゴ殿下の事を、信じたいけど信じられないと言っていました」
「ソフィアがそう言ったのか?」
「はい」
ラルゴはそれを聞いて、小さくため息をついた。
「ずいぶんと前から、まともに顔もあわせてなかったからな。避けられてた。信用されてないと思ってた。でも信じたいという気持ちが、まだあったのか」
微笑ましかった4人の関係。それが崩れてしまった事が、自分の事のように苦しく思える。ジェラルドも、ソフィアも、ラルゴもみんな痛みを抱えているのだ。
ラルゴが最後の一口を、ぐいっと飲み干した。
「時間切れだ。この続きはまた今度だな。仕事に戻るから片付けておいて」
お茶を飲みつつ休んでも、ラルゴの顔には疲労の後が感じられた。顔色もあまり良くない。やつれていると言ってもいいかもしれない。
無理に時間を作らせてしまったかと思うが、本人も聞きたがってる事だし、3人の関係が改善されなければ、相当ストレス状態だろう。
茶器を片付けつつ、他の使用人達に話を聞いてみようと思った。
まずはラルゴの料理を作る料理長。
「最近料理を残すのが多くなっていますね。量も少なめに、軽くさっぱりして、食べやすい物を考えて作っているのですが……。前は残さずきちんと食べていただけたのに、食事量が減っているのが気がかりで……」
料理長の話を聞いてると、本当に心配してるのがわかる。料理長はラルゴと直接会う事はないので余計に心配なのだろう。
古参の侍女に聞いてみるとこんな答えが返ってきた。
「前よりもだいぶお痩せになったように見受けられます。茶会や夜会には出席されますが、帰って来るとひどく疲れてらっしゃって、すぐにお休みになります」
この前の舞踏会では疲れてる顔など見せなかった。ダンスも普通に踊ってたし、皇帝、皇后両陛下と話す姿は楽しそうだった。
あれは無理をしてたのだろうか?
「この前の舞踏会の時は、服も着替えずにソファに倒れていらっしゃいました。慌てて可能な範囲で着替えさせて、ベットにお運びしましたが……。いつもお疲れのようですね。心配で医者に見てもらった方がよいのでは、と一度申し上げたのですが、差し出がましい事だと怒られました。めったに怒らない方なのに……」
ますます心配になってきた。他の人達にも聞いて回ったが、皆ラルゴの事を心配しているようだった。今まで両陛下が不在だったので、ラルゴを止められる物はいなかったようだ。
話を聞いてる間に、夕食の時間が近づいてきた。食後のお茶の準備をして、食後のタイミングに合わせて持っていく。少し早くついてラルゴの食べ残しを確認。ほとんど口をつけてないという感じだった。
「食べずにお茶も、お酒も胃に悪いですよ」
「……」
お説教されてすねる子供のような表情をしていた。そんな表情を見て、思わず頬が緩む。
「今日の食後のお茶は、胃に優しい花茶を用意しました」
「花茶か……どうもあの甘い香りが、苦手なのだが……飲まなきゃいけないのか?」
困った表情がまた可愛くて、母性本能がくすぐられる。ラルゴの母親になった気分がした。
「主人の体調を見て、お茶を選ぶのも茶師の仕事です。これが嫌なら茶はだしません」
ラルゴは不満そうにすねたが、私は無視してラルゴの前にお茶を差し出した。ラルゴは仕方なくという感じに、カップに口をつけた。
一口飲むとびっくりした表情でお茶を見つめる。
「色々な茶を混ぜているのか」
「疲労回復、食欲増進、安眠効果、色々な薬草を混ぜつつ、味に問題がないようにしあげました。今日は寝酒を飲まなくても寝れますよ」
ラルゴは無言でそのまま飲み続けた。どうやら味は合格点だったらしい。
「明日の朝はあの紅茶をいれてくれ。とびきり濃くな」
「かしこまりました」
そう言いつつ、翌日の朝も薄めの紅茶を入れた。また怒られたが気にしない。ラルゴの舌は確かなので、不味いお茶は淹れられない。ぎりぎりの線でお茶の種類や淹れ方を選ぶのがだんだん楽しくなって来た。
こういう仕事も良いかもしれない。




