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お茶の時間〜追想〜3

 ソフィアが工作室で何かを楽しそうに作っている。それをラルゴは見つめながら、のんびりとお茶を飲んでいた。


「できた。少し削ったから軽量化できたかな。後は強度の問題ね」

「お疲れさま。少し休んだら? お茶用意しておいたよ。冷めてしまったけどね」


「ありがとう」


 工作用の軍手を脱いで、手を洗ってからソフィアは戻って来る。受け取ったカップを両手で持ってごくりと飲む。


「渋い……。ラルゴお茶好きだよね。私甘い果実水の方がいいな」

「渋いと眠気が覚めていいよ。作業に集中できるんじゃない?」


 ソフィアは文句を言いつつも、作業で喉が乾いたためか、ちびりちびりとお茶を飲む。


「ラルゴ、いつもこの時間、自習してるじゃない。こんな所にいていいの?」

「少し気分転換に来てるだけだよ。少ししたら戻ってまた勉強する。ずっと一人でやってたら煮詰まっちゃって」


 ソフィアは不思議そうにこてりと首を傾げた。その姿は愛らしく、ラルゴはつい目をそらした。


「でも息抜きなら、なんでここに来てるの? のんびりお茶したり、お散歩したりしても良いのに」

「一人でお茶しててもつまらないし。ソフィアが一緒に飲んでくれる方が良い」


「そっか。一人より二人の方が良いよね」


 無邪気に納得するソフィアの姿にため息をつきつつ、ラルゴはソフィアの作ってる物をみた。


「あれは何を作ってるんだ?」

「馬車の土台。軽い方が馬の引く負担が軽くなるけど、強度に不安が残る。だから強度を保ちつつ、どこまで軽量化できるかの実験」


「それは凄いな。馬車本体が軽くなれば、より多く荷物をつんでも、馬への負担は軽くなる。強度がしっかりしてれば、より多くの物をつめるって事だな」

「そうそうそうなの」


 ソフィアは理解してもらえた事が嬉しそうだった。しかしラルゴがにやっと笑って付け足した。


「それでまた刃物をつけるのか」

「つけたい。でもつけると重くなるから、今回は我慢」


 本気で悔しそうなソフィアの姿に、ラルゴは思わず吹き出した。こうしてソフィアと過ごす時間は、ラルゴが一番好きな時間だった。


「ラルゴは今何を勉強してるの?」

「軍事戦略における、補給の重要性と兵站の確保について」


「難しそう。すごいな。ラルゴは」

「凄くないよ。今日も授業中に答えられなくて……。ジェラルドはすぐにわかったのに……。だから復習。ジェラルドに負けたくないんだ」


「偉いね。ラルゴは。ラルゴのそう言う所好きだよ」

「え? す、好きって」


 慌ててラルゴは顔を赤くしながら、ちらっとソフィアの顔を見る。無邪気な子供のように笑っていた。


「ジェラルドはさ、数学とか私の得意分野で負けてもちっとも悔しくなさそうなの。負けても仕方ないって諦めちゃってる所があるんだ。でもラルゴはちゃんと勉強して来る。今じゃきっと数学では、アンネやジェラルドよりラルゴの方が凄いんじゃないかな?」


「そ、そうかな……」

「こうして物を作ってても、一番理解してくれるのラルゴだもん」


「ジェラルドより俺の方が凄いか?」

「うん。凄い」


「ジェラルドより好きか?」

「うん、好き」


 ソフィアの好きという言葉を、ラルゴは真に受けていなかった。ソフィアは年より子供っぽく、恋愛という物に、あまり興味が無いようだった。子供が懐くように、ラルゴにただ懐いていた。

 それでもラルゴにとって、それは大切な事だった。

 何かに付けてジェラルドと比較され、いつも弟に負けている。母親も優秀なジェラルドの方ばかり可愛がっていた。皆がジェラルドの方が凄いと褒める中、本気でラルゴの方がいいと言ってくれるのは、ソフィアだけだったからだ。


「ごちそうさま」


 ちびちびと飲んでいた、ソフィアのカップは空になっている。本当はソフィアはお茶が苦手だった。でもラルゴにつきあって一生懸命飲んでいる。それがラルゴは嬉しい。


「じゃあ俺は勉強に戻るよ」

「うん。頑張ってね。私も頑張る」


 そう言って思い切り馬車の土台にジャンプして飛び降りた。


「ちょっと待てソフィア!」


 ばきっと音がして、車輪の片側が壊れた、傾いた馬車の土台からソフィアが落ちそうになる。慌ててラルゴが駆け寄って、ソフィアを抱きとめた。


「こら! 無茶して。こんな危ない方法駄目だろ」

「ちぇー。これくらい大丈夫なくらい、強度あるかと思ったのに。これじゃ重い荷物を運べないわ。これは強度補強から練り直しね」


 起き上がってぶつぶつと何かいいつつ、机に向かって図面を見始めた。こうなると何を言ってもソフィアは聞かない。

 ラルゴはため息をつきつつ工作室を出て行く。彼女のぬくもりがわずかに残る腕に微笑みながら。

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