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茶師の姫君〜異世界で紅茶事業を始めました〜  作者: 斉凛
第1章 ロンドヴェルム編
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拾った男はヒモだった

 ギーコ、ギーコ。


「マリアちゃんお腹空いた」

「ちゃん付けしないで気持ち悪い」


 ギーコ、ギーコ。


「じゃあマリアお腹空いた」

「さっき昼ご飯食べたばかりでしょ」


 カン、カン、カン。


「疲れて小腹が空いてきたんだよ。お茶にしようよ」

「……」


 カン、カン、カン。


「マリアは仕事熱心だよね。何作ってるの?」

「新しい製茶器具の試作品」


 私はのこぎりと金槌を駆使しながら、一生懸命大工仕事の真っ最中だった。


「それお嬢様のする事? だれか召使いにやらせればいいんじゃない?」

「今日ふと思いついたのよ。人に説明して作らせるより、自分で作った方が早い」


 カン、カン、カン。


「マリア疲れた〜お腹すいた〜」

「何に疲れたって言うの? 食べて寝る以外の事を何一つやってないのに」


 切れ気味にそう聞き返すとジェラルドはにやりと笑った。


「何にもしてないね。働いたら負けだと思ってる」


 堂々と言い切る姿はいっそ清々しいが、内容は殺意が芽生えるほど腹立たしい。


 なぜかジェラルドはうちに居候している。とても不本意だが、父が許可したので仕方がない。娘バカな父ならこんな怪しい男追い払ってくれると思っていたのに、なぜかあっさり滞在を認めた。

 私も父に養われてる身の上、父の決めた事に文句は言えなかった。

 しかもこの男ただで居候しているのに、一切働かない。食事の合間に昼寝したり、私の作業を見ながら茶々入れたり、ぼーっと空を眺めたり。

 仕事どころか勉強も、何もかもやる気がないという感じでだらけきっている。私に甘えるのだけは妙に上手い。最初はいらっときてたのに、段々可愛げを感じ始めてる。

 ヤバい……。これはいわゆるヒモっていうやつじゃなかろうか。この年にして顔だけが取り柄のヒモ男に憑かれるとは……。

 少しはこの男も働かせないと。


「できた。運ぶの手伝って」

「え? 僕が? 嫌だよそんな重労働」


 思わずげんこつで殴った。良い音した。殴った私も痛い。


「働かざるもの食うべからずよ」

「何それ嫌な言葉」


「いいからそっちもって、私も持つから。これ終わったらお茶にするわ」


 ジェラルドはお茶に釣られて嫌々製茶器具を運ぶのを手伝った。


「ふー。働いた後のお茶は格別だね」

「ちょっと運んだだけでしょう。もうちょっとまともに働けっつーの」


「お嬢様。少々言葉が下品でございます。お気持ちはわかりますがお静まり下さい」


 キースに突っ込まれて渋々口を閉じる。まだ前世の記憶の方が長いから、お嬢様暮らしになれないのよね。お嬢様ってこういうとき不便だ。


「それからお嬢様、ダンスの授業をさぼりましたね」


 ぎくっとしながら平然と茶をすする。


「こんな田舎育ちの社交界に縁のない暮らしでダンスなんて役にたたない……」

「それでも貴族の令嬢の嗜みです。これはお嬢様に課せられた義務であり仕事とお考え下さい」


 仕事と言われると私は弱い。キースはそういう私の性格を知っててわざとこういう言い方をしてくるんだよね。結構いい性格していると思う。


「ダンスの勉強? 僕教えてあげようか? ダンス得意だよ」


 ジェラルドが自分から何かやると言い出すのは珍しかった。私は珍しく感心したが、キースがそれに噛み付いた。


「結構です。ダンスの先生がいらっしゃいます。ジェラルド様は大人しく休んでて下さい」

「ええ〜、相手役がいた方が勉強になると思うけどな」


「はっきり邪魔者だと言ってるんです、大人しく引っ込んでて下さい」


 うわー。キースキツいなぁ。ジェラルドは一応父の客人扱いだから、キースの身分なら敬わなきゃ行けないはずだし、いつものキースなら真面目に礼儀正しく接するんだけど……。なんかキースはジェラルドの事嫌いみたいなのよね。

 まあ性格的にあわなさそうだけど。ここまで敵意をむき出しにするキースって初めて見たよ。


「別に私はジェラルドがダンスの授業手伝ってもかまわないけど」

「お嬢様!」


 キースの叫び声が聴こえるがこの際無視。


「わあ、マリアは僕の味方だね」

「穀潰しでも少しは役に立つ所を見せたら?」


「穀潰し?」

「餌を食べるだけで何もしない役に立たない虫けらの事よ」


 ジェラルドの体が固まって、真面目なキースが後ろで吹き出して笑いをこらえてた。

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