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働く意義

 それから私はまた忙しい日々が続いた。リーリア様の茶師達にブレンドのコツを教えつつ、リーリア様の茶会を手伝ったり、他の茶会に連れられていったり、毎日茶の話ばかりしている。

 リーリア様も紅茶を気に入ってくれて茶会で積極的に宣伝してくれた。この前のジェラルドが公の場で美味しいと言ったのも大きかったようで、ロンドヴェルムの紅茶は私がアルブムに来る前より大量に売れ、それでも需要に追いつかず値段が倍につり上がった。

 今はどんどんロンドヴェルムから運ばれてくるのを待っている状態だ。

 これで最初の目的だったロンドヴェルムの復興のための、資金調達は軌道に乗りそうだ。


 お茶の仕事で忙しく、故郷にも貢献できて充実した毎日を送っているはずなのに、私の中ではぽっかり抜け落ちた穴がふさがらない。それから目を背けるようにお茶にのめり込むが、それでも欠けたものは埋まらない。


「お嬢様……少しは休んでください」

「ありがとう……キース……大丈夫。もう少しブレンドの研究してから……」


 キースの静止を振り切って背を向けたら、肩をつかまれて無理矢理振り向かされた。驚きキースの顔を見ると怖いほど真剣な表情で私を見つめていた。


「お嬢様の評判は上がり、ロンドヴェルムのお茶は売れ、すべて上手くいってるのに、まだ何が足りないのですか? これ以上お嬢様が身を削って頑張らなきゃいけない必要がどこにあるのですか」

「それは……」


 私ががむしゃらに頑張る理由。それは自分でもよくわからなかった。打ち込む物が欲しいし、どれだけ頑張ってもまだまだ足りない乾きを覚える。その理由はなんだろう。

 地球にいた頃もそうだ。何かが足りなくて、それを埋めるように仕事に打ち込んだ。仕事から得られる充実感と達成感。ワーカーホリックが癖になっている……ただそれだけじゃない気がする。

 本当は大切な物があるはずなのに、それが足りなくて、大切な物の代用品に仕事に夢中になっていた。地球の頃の私は元気だったけど、あのまま無理を続けたら、事故がなくても過労死していたかもしれない。


「俺じゃダメですか?」


 ぼんやりと考え事に浸っていた私に、キースの言葉が重くのしかかる。


「俺がお嬢様を守ります。こんなに頑張らなくても、無茶しなくても穏やかに暮らせるように何とかします。そうだ……ロンドヴェルムに帰りませんか? またのんびりお茶を摘んで、合間にお茶を飲んだり休み休みのどかな生活に戻りましょう。もう十分お茶の宣伝はできましたから、もうこれ以上お嬢様がアルブムで頑張る必要なんて……」


「辞めて! それ以上聞きたくない!」


 私は気がつけばぼろぼろに泣きながら黙ってしまった。守って欲しいわけじゃない、平和な暮らしが欲しいわけじゃない、自分が活躍して必要とされる居場所が欲しい。自分の手で道を切り開く力が欲しい。私のしている事がいらない事なんて認めたくない。

 キースが私の事を思って言ってくれるのは分かっているけど、でも私はそれを認められなかった。キースに守られるのほほんとしたお嬢様生活をするぐらいなら、倒れて死ぬくらい働いて、働いて、働いていたい。その先に何があるかまだ分からないけど、まだ私の足りない物が見つからないから。


「すみません……出過ぎたことを言いました」


 キースは困ったような表情で私の肩から手を離し、その手を宙に浮かせたまま困ったように固まった。私に触れたがってるようなその手は、しかし触れてはいけない物に手を伸ばしたように、見えない壁に阻まれて止まっている。

 私はそんな彼になんと言って良いか言葉に困った。自分でも答えはないし、ごまかせるほど口もうまくない。それに彼の好意と期待が肌で感じられて怖い。キースと一線を越える気も、また恋愛をする勇気も私にはなかった。

 でも彼が支えてくれるから今頑張って仕事ができている。突き放す覚悟も持てなかった。卑怯な女だけど彼の好意の上であぐらをかいていることしかできない。


「ごめん……。今日は疲れたから寝るね」


 そう言って半ば強引に話を打ち切ってキースを部屋から追い出した。

 ふらふらとベットに倒れ込んで枕にしがみついて号泣する。なぜ泣いてるのかもよく分からなくなるくらいに泣いて、それからたまっていた疲れを出し切るように泥のように眠った。

 起き抜けの顔はひどい有様で、キースにだって見せられた物じゃなかったから、その日一日休むと言って引きこもった。今は一人になりたかったから。

 

 しかしお昼を過ぎた頃突然慌てたようにヨハンナがやってきた。


「お嬢様! お客様です」


 せかされるようにヨハンナに身支度を調えるのを手伝ってもらい、客間に行くと見知らぬ男性がいた。


「マリア・オズウェルト嬢ですね。本日は招待状を持参させていただきました」


 恭しく渡されたその招待状には王家の刻印が押されていた。

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