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ブレンドの奥深さ

 茶会が終わってしばらくはまったり休んでいたのだが、ある日突然リーリア様から呼び出された。


「マリア。貴方の使った魔法の秘密を教えなさい」

「ま……魔法って」


 開口一番詰め寄るリーリア様の目の下にはうっすらクマがあり、疲れた表情をしていた。いつも美しいリーリア様らしくない。


「この前茶会で飲んだお茶ですわ。カンネの茶葉にレリを混ぜたって言ったわよね。うちの茶師に何度も作らせたけどあの味にならないのよ。香りが死んでたり、味が薄かったり。あの時の茶葉何か秘密があるのでしょう」

「もしかして……ずっとその研究でお忙しかったのでしょうか?」


 リーリア様は無言で顔をそらしたが、この場合無言は肯定を意味する。そんなに気に入ったのに、私に相談しないで一生懸命自分で作ろうとしてたんだな……。せっかくの美貌を台無しにするくらいに。

 この人も同じお茶馬鹿と知って、なんだか嬉しくなるのと同時に可愛いなと思った。


「あのですね……混ぜると言っても配合比率が重要でして、あの時のお茶の場合は……」


 私はリーリア様に細かく説明を始めた。正直ブレンドは地球でも知識として多少勉強した程度で専門ではなかったので結構難しかった。準備期間中に何度も失敗を繰り返しながらなんとか目的にたどり着いた感じだ。


 地球の紅茶もブレンド技術に大きく影響を受けている。老舗ブランドメーカーの茶葉を買っていつも同じ味に安心している消費者は多い。

 しかし茶は農産物。年や産地で出来不出来があり、当然大きく味に差が出る。それを調整するのが各ブランドの専門技術者・ブレンダー達だ。一流ブレンダーはそのブランドの求める味・渋み・香りになるように数多くの茶葉をブレンドして計算し、安定した一品を作り出す。

 紅茶は水に大きく味を左右されるので、販売する国にあわせてブレンドを変えるとまで聞く。そこまでしてそのブランドの伝統の味を守るのだ。

 一流のブレンダーになるには、長年の経験と知識と努力が必要になる大変な仕事なのだ。

 この世界にはまだそういう専門職がいないが、今回のことでブレンドの面白さが伝われば、これから生まれてくるかもしれない。


「なるほど……。単純に混ぜるのではなく、できあがりを予測して微調整が必要なのね。難しいわ。とても創造性の必要な仕事ね」


 リーリア様は熱心に私の話に耳を傾けて目を輝かせた。やっぱりお茶に関しては話が合いそうだなと思う。一通り話して落ち着くと、リーリア様はこほんと咳払いをして、もったいぶったように言った。


「身分は低くても貴方には才能がある。それをあの方はお認めになったのね。良いでしょう、わたくしも貴方をライバルと認めますわ」


 胸を張ってびしっと指さしつつリーリア様は高らかに宣言した。ええっとそれってジェラルドに関するライバル宣言でしょうか? 正直リーリア様と争う気なんて無いんだけどな……。


「わたくしのライバルならふさわしく、堂々となさい。今度から社交界にも引きずっていきますからね。少しは貴族令嬢らしい嗜みを身につけておくこと」


 勝手にそんなこと言われても……と思う物の聞く耳を持ってくれそうにない。本当にリーリア様は様という言葉がふさわしいほど、女王様だ。


「それにどうせジェラルド殿下には当分会えそうにありませんものね。お互いに」

「ジェラルドと? 社交界には顔を出さないのですか?」


「ジェラルド殿下は社交の場がお嫌いで、滅多に顔を出さないことで評判よ。この前の茶会みたいに主催だなんて珍しすぎて、参加者に選ばれた者達が他の者達にどれだけ羨ましがられたことか」


 そんな珍事だったんだあれ……。


「社交界がだめなら、学院は?」

「そもそもジェラルド殿下はこの国でも1,2を争うほどの風魔法の使い手。もう学院で教えられることなどありませんわ。この前までなぜか学院で自主練習されてたそうですけど、気まぐれのお遊びでしょう。最近はいらっしゃらないそうですし」


 リーリア様に断言されて改めて接点の少なさに暗い気持ちになった。身分の差だけでなく、顔を合わせる機会さえもない。同じアルブムにいても果てしなく遠い存在なのだ。


「だからマリア。貴方も覚悟なさい」

「リーリア様……わたくしはジェラルドの事は何とも思ってませんから、それよりお茶の方が大切で……」


「マリア! そんな弱腰で逃げ出すなんて許しませんわよ。わたくしのライバルなら堂々としなさいと言ったでしょ」


 リーリア様に怒られてその後えんえんとジェラルドの話をされ続けた。もしかして恋愛話ができる相手と思われてるんだろうか? リーリア様って対等な友達少なさそうだし。

 生き生きと語り続けるリーリア様を止めることができず、その後もげっそりしながら話につきあうのだった。

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