和解
「マリア何を言ってるんだい」
ジェラルドが困惑気味に問いかける。私は堂々と胸を張って凛と答えた。
「リーリア様は誇り高いお方。人を傷つけて、その罪を他の人間になすりつけたりなどするとは思えません。だから私はリーリア様の言葉を信じます」
被害者の私がきっぱり言い切った事で、場の空気が変わっていった。リーリア様に向ける視線はぐっと柔らかくなる。
「リーリア様お茶の知識、社交界の知識色々教えてくださってありがとうございました。これからもよろしくお願いします」
リーリア様は目を見開いて驚いた後、わずかに嬉しそうに微笑んだ。その姿がとても愛らしくて思わず守って上げたい気分になった。
「マリア……」
リーリア様が柔らかな微笑みを浮かべて私を見ていると、その様子を見ていたジェラルドも心を決めたようだ。茶会出席者全体に向けてよく通る声で宣言した。
「と言う事は、今回の傷害事件はレディア伯爵夫人単独犯行という事だね。被害者のマリアが断言するなら信じるよ」
その宣言を見ていたレディア伯爵夫人は慌てて悪あがきを言い始める。
「わたくしはマリア嬢がいなくなれば、喜ぶと思ってリーリア様のためにしたのに、見捨てるんですか。ひどい」
「卑劣な行動をしても嬉しくも何ともありませんわ」
リーリア様は冷たくばっさりと切り捨てた。つまりレディア伯爵夫人が余計な事をしただけって事か。リーリア様への点数稼ぎのつもりだったんだろうけど、そんな物騒な事勝手にされてもリーリア様にはいい迷惑だよね。
その後連行されていくレディア伯爵夫人を見守りつつジェラルドに言った。
「事前に調べてだいたい目星ついてたでしょ。こんな茶番をする必要なんてあったのかな?」
「本人の自白がないとしらを切られるかもしれないし、黒幕がいた場合トカゲのしっぽ切りで終わったかもしれないからね。公の場で明らかにする必要があったんだよ」
しれっと答えるジェラルドが結構怖い。いつもの軽い笑顔じゃなくて、真顔なんだもん。リーリア様は私とジェラルドが話をしているのを不満げに見つつ、私にむかってこう言った。
「今回は借りを作りましたが、いずれ必ず返しますからね」
そこで意志の強い瞳できっと睨み付けて言葉を続けた。
「それに負けませんわよ」
ジェラルドの事で争う気はないんだけどな……と思いつつ、素直になれないリーリア様を好ましく思えた。これでちょっとは和解できたかな。
「じゃあそろそろ僕は帰るね」
ジェラルドの背中を見送りつつ、少しだけ感傷に浸っていたが、引きずっても仕方が無い。
リーリア様もドレスの裾を翻して毅然と帰っていく。他の客達もまばらに帰って行き、茶会の後片付けに入った頃、ソフィア様がやってきた。
「まあこれでマリアに手出ししたら、大変な事になるって知れ渡ったからもう大丈夫かな?かな?」
「ソフィア様……。ご心配をおかけしてすみません」
「んー……私何もしてないし、気にしないで。まあまた学院に遊びにきなよ。色々見せたい物あるからさ」
目を輝かせて言うソフィア様だが、また碌でもない物を作っているのだろう。苦笑しつつ憎めないこの人の存在に心が和んだ。
今日の茶会で私のお茶に関する評判も上がったし、リーリア様とも和解できたし、これからは社交界でまた紅茶の普及もできるだろう。
仕事は順調に回り始めていい事づくめ。プライベートはアレだけど、私仕事に生きると決めました。だからソフィア様に余計な嫉妬など持たないように、仲良くしていきたい。
「ソフィア様これからもよろしくお願いします」
「ん〜よろしく」
午後の茶会が終わりそろそろ日が傾いてきた。紅茶色の夕日を眺めつつ今日の一日を振り返る。色々あって疲れたけど、充実した1日だったな。
「よし、明日からも頑張るぞ」
「お嬢様少しはお休みください。働き過ぎで倒れますよ」
気遣わしげにキースが声をかけてくれた。いつも側にいてくれるキースに甘えすぎたかもしれない。過保護なキースに苦笑しつつも答えた。
「ありがとう。大丈夫。もう無茶はしないから」
私にはこうやって側で気遣ってくれる人がいる。幸せをかみしめながら茶会の片付けを終え、私は家路へと向かった。




