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茶師の姫君〜異世界で紅茶事業を始めました〜  作者: 斉凛
第1章 ロンドヴェルム編
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紅茶らしき物を作ったら、なんだか大変な事になった

 それから私はまず、この世界での茶摘みから製茶までの流れを学び、自分一人で出来るまで習得した。それから前世の記憶を頼りに製茶方法を研究したのだ。


 緑茶は茶葉を発酵させずに作る非発酵茶。紅茶は茶葉を発酵させる発酵茶。葉を発酵させるために、日の当たらない室内に、大きな箱に茶葉を敷き詰め乾燥させ、水分が減ってきた所で手や足で揉んで発酵を促す。

 スリランカではほとんど工業化されていたけれど、茶園を見て回った時に古典的な作り方を教わった記憶がある。

 といってもただの見よう見まね。なかなか上手く行かないし、周りも何をやってるのかと首を傾げていた。


 それでも私はひたすら研究して作り続けた。出来上がった物を味見し、作り直し、を繰り返し、なんとか紅茶らしいものが出来上がるまでに3年の月日が流れた。


 味としてはまだまだ納得いかなかったが、それでもやっと紅茶と呼べる物ができた。嬉しくて私は両親とキースにそのお茶を淹れる事にした。

 その頃にはキースは私の従者というより、紅茶研究の助手のような事もしていて、やっと出来上がった紅茶に私と同じように喜んでくれたのだ。


「まあ今日はマリアの作ったお茶なのね。なかなか飲ませてくれなかったから、楽しみにしていたのよ」

「今までに嗅いだ事のないような、不思議な香りがするなぁ。だがいい香りだ」


 両親ともにニコニコと私の作ったお茶が出てくるのを待っていた。しかし私が紅茶を淹れて差し出すと、突然無言になった。


「……父様?……母様?」

「す、すまない。初めて見る色だったからびっくりしたのだよ」

「で、でも綺麗な赤い色ですわね。どうして緑の葉から作るお茶がこんな色になるのかしら?」


 まあ、緑茶しか知らなかったら、この色見て引くよね。でも早く飲まないと冷めちゃうし香りも飛んじゃうのにもったいない。私がじりじり焦っているとキースが気を聞かせてくれた。


「旦那様、奥様。俺もそのお茶を飲みましたが、今まで飲んだ事のない美味しさでした」


 キースが真面目に言う言葉は説得力があった。父と母は覚悟を決めて紅茶に口を付けた。


「……まあ、美味しいわ。初めて飲む味わいだけど、とってもいい香り」


 母はとびきりの笑顔を浮かべて、私のお茶を誉めてくれた。それに安心した物の、ふと父の方を見ると驚いた表情のまま固まっている。まるで信じられない物をみたかのように。そして厳しい表情をした。


「父様……美味しくないですか?」


 父は我に帰って慌てて笑顔になった。


「すごい。うちの娘は天才だ!」


 親バカ炸裂? とにかく両親に自分のしてきた努力が認められた……のはいいのだけれど。その後が大変な事になった。

 父様が私の作り出した紅茶製造法を他の茶職人にもやらせて、さらに研究開発を進め、量産化を図る事にしたらしい。

 私の紅茶らしき物より、もっと美味しく、個性豊かな様々な茶が競って作られ、ロンドヴェルムで空前の紅茶ブームが巻き起こった。


「他の茶の産地にない独自のお茶ができたなら、より高値で売れるぞ。それにこの紅茶というのはミルクと砂糖によく合う。絶対に他の貴族達にも流行る」


 父よ。商魂逞しいですね。嫌いじゃないです。むしろ尊敬します。

 初めは自分が飲みたいからだけだったけど、こうやって広まって色んな人に飲んでもらえるようになると嬉しくなった。それにお茶を作るのは楽しいし、それが売り物になって誰かが幸せになるならもっと嬉しい。


 ロンドヴェルムの城下で紅茶の普及が広まり、庶民までもが紅茶を飲めるようになったが、私は自分の小さな茶園でお茶を摘むのがあいかわらずの日課だった。



「夏も近づく八十八夜♪ 野にも山にも若葉が繁る♪ あれに見えるは茶摘みじゃないか♪ 茜襷に菅の傘♪」


 今日も朝から機嫌良く茶畑で茶摘みをしていた。

 茶畑のある山の中腹から、ロンドヴェルムの街全体が一望できる。

 白と赤のレンガで作られた建物が並ぶ住宅街と、人の往来が激しい活気ある市場。船がいくつも並ぶ港の先は、海が広がっていてとても見晴らしがいいのだ。そんな風光明媚な景色を眺めつつ茶摘みが出来るのはとても気分がいい。つい思い出して口ずさむ日本の歌。


「お嬢様。それはどこの国の歌ですか? 初めて聞きますがどこでそんな歌を」


 近くで一緒に茶摘みをしていたキースが不思議そうに聞いて来る。しまった。つい日本語で歌ってしまった。こちらの人間には通用しない見知らぬ言葉よね。


「さあ? 旅芸人がこんな歌を歌ってたような……」


 キースもそれ以上詮索せずに、茶摘みへと戻って行った。ふう……。危ない危ない。転生とかそんな事、誰にも話してないから、こういう事すると変な子だと思われちゃうのよね。

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