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招かれて修羅場

 何度か貴族同士のお茶会に参加して、リーリア様の信頼を得た私はついにもっと身分の高い方が出席するお茶会まで任されるようになった。


「マリア。今度王族の方々も参加されるお茶会で紅茶を振る舞わない?」

「よろしければ是非」


 リーリア様の周りは華やかで、私は少し気後れするのだけれど、優しくてよい人なのだ。だから贔屓にしてもらえてとても嬉しい。


 そうして昼食会もかねた王室公認お茶会が始まった。王室の庭を解放して行われるこの茶会は、王室参加のイベントの中ではもっともカジュアルらしいが、今まで私が参加したお茶会の中では一番格式張っている感じがした。

 王室の方々は遅れてやってくるようで、私は一番に乗り込んでお茶の準備をしている。

 どうやらこの国ではお茶会に遅れて参加するのは偉い人の特権というか風習らしい。そういえばリーリア様も最初のお茶会の時に遅れて参加してたな……。


 いつものように茶会の隅で紅茶を入れていると、ふらふらっと近づいて来る美女が一人。リーリア様も美人なんだけど、あの人は華やかでグラマラスな美女。この人は細くて華奢で儚げな感じの美女でだいぶタイプが違う。細い銀色の髪と、淡いアメジストの瞳がとても綺麗だ。そこはかとなくけだるい。


「その赤いお茶は何?」

「これは紅茶です。飲みますか?」


 好奇心に目を輝かせる美女は無言で思いっきり頷いた。けだるかった雰囲気がどこか生き生きしはじめる。私が差し出すと。おそるおそる口を付けた。


「美味しい……」

「ありがとうございます。これは紅茶という新しいお茶です」


「新しいお茶? 何か品種が違うとか? 元々赤い色の茶葉なの?」

「いいえ、品種は緑茶と変わりません。製造方法が今までと違うのです。茶葉を揉んで発酵させる事で色が赤くなり……」


「発酵して赤くなるの?」


 興味津々という感じで色々質問される。正直ここまで紅茶の製造方法を詳しく聞かれる事も無いので嬉しくなってついつい答えてしまい話が弾む。


「マリア!」


 名前を見て振り返るとリーリア様が不機嫌そうにこちらを見ていた。


「他のお客様もいるんだから、いい加減にしなさい」


 気づけば私達を遠巻きに見ている人が沢山いた。ついつい夢中で話し込んでしまったようだ。


「すみません」


 慌てて紅茶を入れ直し始めるとその謎の美女はすーっと離れて行く。その背中を睨みつけるリーリア様の顔が怖かった。


「あ……あの……。リーリア様さま?」

「ああ……ごめんなさいね。あの人はソフィア・ティモシーって言う変わり者よ。あまり関わらない方がいいわ」


 確かにこちらから勧める前から興味を持って飲みにくる人なんて初めてだ。しかも退屈な製造方法とかに目を輝かせるなんて変わり者かもしれない。


「マリア。皆様のおもてなしよろしくね」


 リーリア様に微笑みながらそう言われてはっと我に帰る。いけないいけない。今こそ売り込みのチャンス。紅茶を入れる事に専念しないと。

 紅茶を配りつつアピールしていると、急にしんとしてみんなの視線が1点に集中した。視線の先を追うと年配の夫婦とともに、若い男性2名が庭に入ってくる所だった。その若い男性の片方には見覚えがあった。


「ジェラルド!」


 私は思わず呼びかけてしまったが、ジェラルドは気づかなかったように私の言葉を無視した。どうして……ジェラルドがここに……。そう思っていたらリーリア様がさっきよりももっと恐い表情で私に近づいてきた。


「ジェラルド殿下とどういう知り合いなのかしら?」

「ジェラルド……殿下?」


 思わず聞き返したら、信じられないという言葉と共に思い切り睨まれた。


「貴方自分の国の皇子の顔さえも知らないの? とんだ田舎者ね。さあ……どこで知り合ったの言いなさい」


 リーリア様がジェラルド達に見えない所に私を引っ張って行って、恐い顔で尋ねた。その勢いに飲まれて思わず私は詳しく本当の事を言ってしまった。するとあんなに優しかったリーリア様が突然手のひらを返したように冷たくなった。


「貴方のような身分の低い貴族など相手にするべきでなかったですわ。とっとと出て行きなさい。この泥棒猫」


 ええっとなんか物語の中でしか聞かないような罵倒を初めて聞いたよ。うっかりぼうっと聞いていたら恐い剣幕で突き飛ばされた。


「わたくしの言葉を聞いてませんわね。早く出てきなさいと言ったのです。ほら、早く。早くしないと衛兵につまみ出させますわよ」


 私は慌てて立ち上がると軽くお辞儀をして立ち去った。リーリア様に怒られた事以上にジェラルドの事で頭が一杯のまま家へと帰って行く。ジェラルドが皇子? どういう事? それにあの何も知らないみたいな表情は? どうして? なんで?

 状況もよくわからぬまま次第に悲しくなってきて、気づけば泣きながら家へとたどり着いたのだった。

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