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お茶会の女王様

 アルブムでの生活は快適に過ぎて行った。身の回りの世話はヨハンナがしてくれたし、キースが秘書になって、スケジュール管理や他の貴族への連絡役をしてくれた。

 そうして事前に父様の紹介もあって、レディア伯爵夫人の開くお茶会に参加できる事になった。これだってロンドヴェルム出発前から打診してたのに、飛び込みに近いらしい。貴族の付き合いってつくづく面倒だ。

 お茶会というには少し遅い夕方に近い時間帯に招かれたお屋敷についた。秋の花が咲き乱れたその庭は素晴らしく、出迎えを待っている間庭を眺めているだけで幸せだった。

 

「まあ! マリア様いらっしゃいませ。ようこそ我が屋敷へ。ふふふ。お茶会は初めてですってね。ごゆっくりしていらしてね」

「お招きありがとうございます。伯爵夫人」


 私は淑女らしくお辞儀をした。なかなかにお嬢様を演じるのは大変だ。案内されて庭にしつらえた茶会の席に着く。

 テーブルセッティングから庭木の配置まで、計算し尽くされた茶会の姿は本当に美しく、仕事を忘れて思わずうっとり眺めていたくなった。


「リーリア様は遅れていらっしゃるから先にお茶会を始めましょうか」


 レディア伯爵夫人の言葉に同意して、茶会は始まった。今日の客の中で最高位はリーリア・クレメンス公爵令嬢なので、その好みに合わせたお茶とお菓子らしい。

 その場にいない人の噂話というのは盛り上がる物で、クレメンス公爵は食通でお茶にもうるさく色々な地方のお茶を取り寄せては楽しんでいるらしい。その娘であるリーリア様もお茶にはうるさい人だそうだ。

 そういう人と仲良くなっておくと販売に良いかもしれない。


「まあ……マリア様はミルクも砂糖もいれないんですの?」


 出されたお茶は緑茶であり、いつものようにストレートで飲んでいたら驚かれた。私としては当たり前だと思うのだが、やっぱりここでは特殊らしい。


「はい。紅茶ならミルクを入れる事もありますが」

「紅茶とは何かしら?」


 好奇心旺盛な淑女達の前で用意しておいた紅茶の茶葉を取り出す。


「我が領地ロンドヴェルム産のお茶です。特殊な作り方をしているので、お茶の色が赤いのです」

「まあ! 赤いお茶? それは見てみたいですわね」


「それではいれて見せましょう。お湯のご用意をよろしいですか? レディア伯爵夫人」


 私はポットと茶葉の準備をしつつ周りを伺う。皆驚きの表情でそれを見守っていた。茶は召使いの入れる物。わざわざ淑女がするなんてという視線だ。

 私はその視線を無視してお茶を淹れた。出来上がったお茶の色を見て歓声があがる。


「まあ! 本当に赤いわ」


 茶会に参加する貴婦人達は遠巻きに見つめて微笑んでいるが、誰もそれを手に取って飲んでみようとしない。早くしないと冷めて香りが飛んでしまうというのに。

 やきもきしていた所に新しい客人がやってきた。


「珍しい香りのするお茶があるわね」


 金髪碧眼でグラマラスな迫力美女がやってきた。自分の外見に自信があるのか、その自信が表情に満ちあふれてさらに美しさを引き立てている。

 私が驚いて固まっているうちに平気で紅茶に近づいて、ひょいと片手にとって口にする。周りから歓声が上がった。


「これは貴方が淹れたお茶? とても香りが良いわ。飲みやすいし、美味しいわ。これならミルクを入れてもお茶が負けないわね」

「は、はい」


 美女はにっこり微笑んで周りの淑女達にも勧める。おかげで皆が紅茶を手に取ってくれた。私はこっそりとレディア伯爵夫人に近寄って聞いた。


「あの方は?」

「リーリア様よ」


 噂の公爵令嬢か。新しい物へのチャレンジ精神と、公平で確かな舌を持つ人物。味方に付けておけば間違いないだろう。


「あの……リーリア様ありがとうございます」


 私は固いお辞儀とともに話しかけた。


「お礼を言われるまでもありませんわ。わたくし美味しくない物を美味しいとはいいませんの。もしよろしければ今度わたくし主催のお茶会がありますの。そこでこのお茶を出してみません?」

「は、はい。よろしくお願いします」


 リーリア様はなぜか機嫌良くニコニコを私を見ていた。


「こんな良いお茶に巡り会えるなんてわたくし運が良かったですわ。レディア伯爵夫人今回は御呼びいただきありがとうございます」

「まあ……リーリア様にお喜びいただけて光栄ですわ」


 レディア伯爵夫人はリーリア様に媚びたような笑みを向けた。リーリア様ってお茶好きなのだな……と思うと嬉しくなった。この人とならお友達になれそうだ。


「よろしければ今度他の紅茶もお持ちします。それに紅茶は緑茶と淹れ方が違うので、淹れ方の説明とか……」

「あら? これは紅茶というの? 確かに色は赤いわね。しかも淹れかたが違うだなんて面白いわね」


 リーリア様が興味深く食いついてきたので更に勢いよくお勧めした。


「リーリア様のお好みだとこの辺りかなと……」


 出された緑茶の味をたよりに紅茶を選んで淹れてみる。一口飲んでまたリーリア様は驚いた。


「あら? 紅茶でも色々種類があるのね。こちらの方が好みだわ」


 リーリア様の反応にガッツポーズしつつお茶の話でしばらく盛り上がったのだった。

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