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茶師の姫君〜異世界で紅茶事業を始めました〜  作者: 斉凛
第1章 ロンドヴェルム編
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旅立ちは突然に

 それは茶の輸送船を探すために、商人達に話を聞いてた時に知った話だった。茶を運ぶ船が一斉にスタートして、茶の産地から誰が一番早くアルブムに到着するかレースを行っているらしい。

 そういえば地球でも昔はインドからヨーロッパまで早さ勝負の、ティークリッパーレースが行われていた。異世界のこの地でも同じような文化があるのだと知り面白いと思った。

 しかも航路の途中にロンドヴェルムもあるらしい。このティークリッパーに参加する船に乗れないだろうか?

 実際の商品は輸送手段のめどがついてから後から送って、サンプルだけを持って一足先に私がアルブムへ向かって商談を進めてみるのも良い。


 さっそくハンスに相談して、レースに参加する商人と交渉してもらった所、かなりの強行軍でも構わないなら船に乗せてくれるという話になった。


「旦那様を出し抜いて密航されるつもりですか?」


 キースの心配そうな表情に私は笑って答えた。


「密航だなんて。ただアルブムへの最短ルートをとるだけよ。それにティークリッパーレースで1番になるとアルブムでも大きな話題になるそうよ。その船に乗ってきたとなれば売り込みしやすくなるわ」

「しかしお嬢様。一刻を争う競技の船に乗るなど、大変なご苦労なさらずとも……」


「嫌ならキースは着いて来なくてもいい」

「そんな事は言ってません。お嬢様が行くならお共します」


 あの日、地震が起こる直前の気まずい空気などなかったように、キースはずっと今まで通りに接していた。だから私も見ない振りをする事に決めた。

 キースの事を恋愛対象としてみる事は出来ないし、それ以上に今恋愛をする気分になれなかったのだ。父から結婚話がだされ、いずれ政略結婚しなければいけないという覚悟だけは出来たが、それと恋愛は別物だ。

 恋愛と考えただけで、じくりと古傷が痛みだす。生まれ変わる前の地球時代の記憶をどこまで引きずる気だと思うが、仕事に理解あると思っていた恋人に裏切られた思いは忘れられない。

 今は協力的なキースがいつ考えを変えるかも解らない。男の気持ちなんて解らないと思う。


 解らないといえばもう一人よく解らない男がいる。


「へえ……ティークリッパーレースか……。もうちょっとここでのんびりだらだらしてたかったな」

「お父様のつけた条件だから、ジェラルドにも来てもらうわよ」


「解ってるよ。あ〜長い休暇も終わりか……」

「休暇? もしかしてジェラルドって元々アルブムに住んでたの?」


「あれ? 知らなかった? 僕アルブムの出身だよ。世界を巡って放浪してたけどね」


 初耳である。というよりこの男、過去を聞き出そうとしてものらりくらりとかわすし、私も特別知りたいと思わなかったから無理に聞き出さなかったし。

 でも思えば心当たりはいくつもあった。父がアルブムの事はジェラルドに聞けと言ったり、アルブムに行くなら一緒に行けと言ったのも、土地勘のあるものだからだろう。そしてジェラルドの身なりや仕草から考えて、身分の高い貴族だという事は簡単に推測できた。


「ジェラルド……貴方は何者?」

「僕はただの旅人だよ。旅を終えるまでね」


「旅を終えたら? その先は?」

「現実が待ってる」


 なるほど……。アルブムで何があったのか知らないけれど、何かから逃げるために旅を続けて自堕落な旅を続けていた訳だ。


 私はティークリッパーの船がいつ到着しても良いように急ぎ旅の準備を進めた。売り込む茶葉の選定や、アルブムの流行にあわせたドレスの新調など。田舎者と舐められては行けない。仕事の勝負服は重要よね。

 礼儀作法やマナーの再確認も必要だし、アルブムの基礎知識としてガイナディア帝国の現状も重要だ。


「……では現皇帝には2人の皇子がいるのですね」


 感心しながら聞いていると、家庭教師が飽きれたようにため息をついた。


「これぐらいの知識、この国では勉強してない子供ですら知ってますよ。姫君は今までどうやって過ごしてきたのですか?」


 どうやら私の世間知らずぶりに飽きれたようだ。私は自分に関係ないもの、興味ない者はどうでもいいと考えてついおろそかにしてしまう悪い癖があるので、それも改めなければいけないな……と思った。


 それから出発の時まで瞬くように過ぎて行った。長年住み慣れたロンドヴェルムを出て、初めてこの世界の外の街に出る。それは想像以上に楽しみな出来事だ。

 学べば学ぶほど外の世界へ旅立つのが楽しみになる。そして絶対にロンドヴェルムの茶を売ってみせるという意気込みでいっぱいになるのだった。

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