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茶師の姫君〜異世界で紅茶事業を始めました〜  作者: 斉凛
第1章 ロンドヴェルム編
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何かがおかしい、なにもかもがおかしい

 何かがおかしい。何とは言えないけどキースの様子がおかしい。


「お嬢様。たまには気分転換に海でも行きませんか?」


 私がふさぎ込んでいるから、気を使ってくれてるのは解るけど、なぜ海なの? 理由もなく何の脈絡もなく海。そして来る途中も、着いてからも無言。正直沈黙が気まずいです。

 目が合うとそらされるし、浜辺には何もなくて、話題になりそうな物がない。

 こういう時口べたな自分が嫌だ。何を言ったら良いんだろう? キースもまた居心地が悪いのかそわそわしている。


「キース?」

「はい……お嬢様……わぶ!」


 何もない砂浜で盛大に転んだよ。大丈夫か? しかも浜辺に落ちてた貝殻の破片で手を切るし。


「キースじっとしててね」


 そっと砂を傷口から払いのけ、清潔なハンカチでくるんで止血のためにしばる。簡単な応急手当だが何もしないよりマシだろう。

 ふと見上げると間近でキースと目が合う。その瞬間本能的にヤバいと思った。キースが私を抱きしめるのと、私がキースの胸を両手で突き飛ばすのがほぼ同時だった。


「……」

「……」


 沈黙が気まずい。鈍感な私でもここまでくればさすがに解るよ。これはいわゆるデートなのか? 今までキースがそんな関係になりたいだなんて、ちらりともにじませなかったから気づかなかったよ。でもどうしたらいいんだろう。


「……お嬢様すみませ……」


 キースが重い沈黙を破るべく言葉を紡ぎ始めたその時、ソレは始まった。激しい地面の縦揺れ。足場の悪い砂場で立っていられずにしゃがみ込む。次に大きな横揺れ。近くの防砂林の並木がしなって今にも折れそうだ。


「お嬢様!!」


 しゃがみ込む私を必死に支えようとキースが腕を延ばす。私はその時妙に冷静だった。


『地震……津波が来る……』


 それは日本にいた頃の経験則。これほど海の近くで大きな揺れがあったなら危険だ。


「ジシン? ツナミとはなんですか?」


 キースが怪訝な顔で問いかける。思わず日本語でしゃべってしまったからだ。でも上手く説明できなかった。この世界で地震や津波に関する単語を私は知らない。 

 それだけ滅多におこらない事なのだろう。そして無知が死を招く。地震の知識がなく引き潮で残された魚を捕っていて死亡した事例も過去にあるのだ。


「逃げて! 今すぐ海から! 大きな波がやって来る。高台に逃げないとみんな死んでしまうわ!」


 私が必死につたない言葉でそう言うと、キースは立ち上がって、私の手を引っ張り上げた。揺れは弱くなっている物のまだ続いている。


「お嬢様! 急ぎましょう」


 不安定な砂場に転びそうになりながらも、私達は海から離れて行った。水がどんどん引いて行って、恐ろしいほど静寂な海が牙を向くまであとどれくらいだろう? 気持ちばかりが焦る。

 海辺の街は悲惨な状態だった。地震で建物が倒壊したり、木が倒れて下敷きになっていたり、大騒ぎの様子だった。

 しかもまだ最初の大きな揺れの後の余震が時折続いている。

 すでに救助活動のため駆けつけた警備兵達がいたので私は言った。


「すぐにできるだけ高い所に逃げて。こういう大きな大地の揺れの後、大きな波がやってきてのみこまれてしまうわ」

「しかし瓦礫の下敷きになってる人を放っておけませんよ」


「時間がないの。大波はすぐにやってきて、建物ごと海に飲み込まれるわ」

「お嬢様! 早くお逃げ下さい」


 キースは真剣な表情で私の手を引こうとする。その手を振り払おうとしながら言った。


「でも私はこの街の人を助けたいの」


 キースはじっと私を見ると、大きくため息をついて言った。


「仕方ないですねお嬢様。俺がここに残って避難誘導を致します。お嬢様は女性や子供を連れて先に逃げて下さい」

「キース……。ありがとう」


 私は女性や子供を中心に自力で歩ける人を中心に引き連れて山道を登った。ロンドヴェルムは海沿いから急勾配で山へと繋がる土地なので、坂はきつい者の少し歩くとだいぶ高い位置まで来られる。

 高地には茶畑が段々と連なっており、避難してきた人達が、一時的に腰を降ろす程度の場所はあった。


「マリア!」


 山の上の方からジェラルドが凄い気負いで駆け下りて来る。


「無事だったんだねよかった」

「キースがいてくれたし……。でもキースはまだ港の方なんだ……このままじゃ……」


 ジェラルドはいつもより真剣な表情で言った。


「海神の怒りが訪れるね」

「海神の怒り?」


「ああいう大地の揺れの後にやって来る大きな波さ。ほらもう見えてきた」


 見渡すと海の遠くの方が色の違う波となってこちらへ押し寄せてきていた。


「キース!」


 駆け下りて行こうとした私の腕をジェラルドは掴んで放さなかった。


「だめだ。マリアは行かせない。ここで待とう」


 その時またぐらぐらと地面が揺れて、不安定な私の体はジェラルドに支えられた。周りの人々も揺れを怖がっている。

 キースの無事を願いながら海を見下ろした。

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