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茶師の姫君〜異世界で紅茶事業を始めました〜  作者: 斉凛
第1章 ロンドヴェルム編
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人の好みは色々だから

 のんびり癒やしのティータイム……のはずが、一口飲んで思わずため息をついてしまった。


「私はこのお茶結構好きなんだけどな……。味、香り、渋み、全体のバランスがよくて飲みやすいし」


 一緒にお茶していたジェラルドは私の言葉に苦笑しながら答えた。


「でもどれも個性に乏しい平凡な味とも言えるよね……最高に美味しいとは言えない」


「そうなのよ……。でもだからってこれがダメって言うのはな……」

「結局は好みの問題だね」


 好みの問題……それが今私を悩ませていた。

 公式にお墨付きを与えるのだから、『美味しい紅茶の基準』というものがなければいけない。

 しかし飲む人によってどういうお茶を好むか違うし、生産者だって香りにこだわったり、味にこだわったり、全体のバランスにこだわったり、考え方は色々だ。

 それでどういうお茶ならお墨付きを与えるかで意見が分かれ揉めている。


 いまだ紅茶は新しすぎるため、世間の評価がどうなるかわからない。

 商人達もこのお墨付きを基準に仕入れをする事になるし、一度基準が決まれば生産者は今後それに合わせたお茶を作る事になる。お茶の味の将来を決める重要事項だ。



 そもそもお茶の価値や値段を決めるのは需要であり、消費者の好みだ。地球では紅茶の産地で時期になるとオークションが開かれ、価格が決まる。

 試飲による味の評価もあるが、人気のある農園だから、中東の富裕層が好む茶葉だからなど、純粋な味の評価以外で価格がつり上がる事も多い。

 一口にダージリンといってもとれる時期によって評価が分かれる。その年の新茶である春摘みや、もっともダージリンらしい個性の味と香りのでる夏摘みは高く売れる。

 それに比べお茶としては美味しいのに、ダージリンらしい個性がないと言われ秋摘みは人気がなく価格も下がってしまう。

 私は秋摘みのダージリンも好きだが、市場が求める基準のせいで低く評価されていると思う。


 今後本格的にロンドヴェルムのお茶が市場に出回れば、消費者の好みや需要によって高値をつける茶がどういう物か決まってくるだろう。

 しかし今はどんなお茶が売れるのか判断する材料がない。だから悩むのだ。


「どういうお茶が売れるのかな……」


 私が愚痴をこぼすとジェラルドは優しく笑って言った。


「国にもよるだろうねぇ」

「国によって違うの?」


「そうだな……例えば前に食べたククルス料理は香辛料が効いてたでしょ。あの国は暑くて香辛料がたくさんとれるからね。飲み物も辛さに負けない砂糖とミルクたっぷりのお茶になる。だから紅茶の味が濃いほうがいい」

「なるほど暑い国だと暑さで体力を奪われるから栄養補給は大切よね」


「寒い国だってそうだ。北のシシリー王国では、寒さ対策に暖かい紅茶に酒を入れて飲み暖をとる。酒の香りが強いから、元の紅茶の香りはあまり重要じゃない。香りより味や渋みのバランスの方が重要だろうね」

「国によって色々な飲み方があるのね。そのままの茶の味や香りを楽しむ所はないの?」


「そんな事はないよ。暑すぎず、寒すぎず、気候に恵まれた……例えばこのガイナディアではシンプルな飲み方もするよ。特に都の貴族にとってお茶会は重要な社交場だからね。それぞれこだわりのお茶を用意して、競って飲み比べされてる。嗜好品というよりもはや政治的な道具だよね」


 なるほど国が変われば茶の楽しみ方も大きく変わる。輸送技術が低いこの世界では、茶の生産地から遠ざかるほど茶は劣化する。

 地球のように新鮮な茶葉を最高の状態で飲むのは難しいだろう。そうなれば香りが飛んだ茶に工夫して飲んだりするかもしれない。


 一口に輸出すると言ってもどこに売るかで求められる茶は変わるのだ。普段茶園主達と交流し、自分でも茶を作っていたから、今まで生産者視点でばかり考えていた。

 しかし売るのであれば消費者の需要にあわせて考えるのが重要だ。そうなるとどこに輸出するか絞りこみ、その地方の人々の嗜好にあわせた茶を選べばいい。

 ではどこに売りこむ? 茶のよさを実感してもらうには、できるだけ新鮮な方がいい。そしてより多くの人々が茶を消費してくれる所……。


「ねえ…ジェラルド。ロンドヴェルムは貿易拠点で、ここからいろんな地域に商船が向かうのよね。ここから一番近くて一番たくさんの商品が運ばれる街ってどこかしらね」


 ジェラルドはニヤリと笑って答えた。


「それはもちろんガイナディア帝国の都アルブムだろうね。世界中の物が集まる大都市だから」


 アルブム……同じ国とはいえロンドヴェルムは辺境の田舎。都など別世界のように思っていた。

 そこに住む人々はどんな茶を好むだろう。都人の好む茶を選ぶ。また難しい問題が一つ生まれた。

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