ストレスを抱えた働く女子に愛の手を<一部書き下ろし、一部以前の修正版>
「このお茶は爽やかな青々しい香りが素晴らしい最上級品なんだ! だからこれこそお墨付きに相応しい!」
「青々しいって、緑茶みたいじゃないか。紅茶の個性がないお茶に魅力は無いな。見ろ!この鮮やかな赤色の紅茶を。この色こそ紅茶と呼ぶのに相応しい」
「色がついたただのお湯に価値はない。紅茶は飲み物味が一番大切なんだ……。コクがあって、ミルクにも負けない深い味わいのこれこそ一番の紅茶だ」
今にも取っ組み合いの喧嘩がおこってもおかしくないほど話し合いはヒートアップしていた。茶職人達のこだわりも価値基準も様々で、自分が一番と信じて作り上げて来たからこそそう簡単に引いてくれない。
マリアとしては、どのお茶も良い所があって素晴らしいと思うのだが、誰もがロンドヴェルム一という肩書きを求めているために、話し合いはまったく平行線のまま進まない。
「みなさん落ち着いて下さい。とりあえずそれぞれのお茶の魅力や評価できる所を書類にして提出して下さい。その時にサンプルの茶葉も一緒に添付して。サンプルと書類を元に公平に審査させて頂きます」
私が場をおさめるためにそういうと、口には出さない物の、「こんな小娘に任せておけるのか?」というような視線をひしひしと感じる。
それでもこの制度の責任者であり、領主の娘でもあるという事で、皆渋々了承してくれた。……ああ、こんな事じゃ先が思いやられる。
農園主達との激しいバトルに疲れきった私はぐったりしていた。……切実に癒しが欲しい。
「マリア〜」
気の抜けた声が近づいて来る。いつも通りのへらりとした笑顔のジェラルドの姿。なんか久しぶりに見た気がするぞコイツ。この男は仕事しないからな。仕事漬けの毎日ではあまり顔をあわせない。
「マリアの入れたお茶飲みたいよ。一緒にお茶しようよ」
「私は忙しいの! 勝手に遊んでなさいよ!」
のんきなジェラルドに思わず当たり散らすように怒った。しかしジェラルドはちっとも応えた様子を見せずに、人差し指で私の眉間をつついた。
「女の子が眉間にしわ寄せて、イライラカリカリするのは、美容によくないよ。たまには気分転換にお菓子食べながらお茶ぐらいしたら? マリアはお仕事いっぱい頑張ってるんだから、ちょっとくらい休んでもみんな許してくれるよ」
そう言いながらジェラルドは私の頭を優しく撫でた。なんか最近仕事関係でしか人と会話してなかったから、緊張しっぱなしだったけど、ジェラルド相手だと、肩の力を抜いてリラックスできた。
ああ……この男なりに心配して気を使ってくれたんだな……と思うと嬉しくなる。
「……わかった。今日だけよ」
「わーい」
ジェラルドが気楽に笑う。それを見てるだけで心が穏やかになった。ジェラルドは何もしない。ただ見てるだけ。でもコイツは私が仕事で頑張ってる事も知ってるし、それを認めてくれる。
そういう存在がいるだけで、心の負担は軽くなった。それに久しぶりにプライベートで飲んだお茶は本当に美味しくて、お茶の時間に癒されて、疲れていたはずなのに、また仕事頑張るぞと意欲がわいて来た。
うん。たまにはこういうリフレッシュも必要なのかもしれない。
「ジェラルド。また時間ができたらお茶しよう」
「うんうんその方がいいよ。僕もマリアと一緒のお茶楽しいし。それにさ聞くだけなら愚痴いくらでも聞くよ。何もしないけどね」
「いい。あんたに何も期待なんかしてないから。でも……ロンドヴェルムの街の将来を背負うプレッシャーって辛いね」
「うんうん。そうだね」
私が愚痴ってジェラルドはただ相づちをうつだけなのに、そのたびに心の重荷が軽くなった。ジェラルドが側にいてくれてよかったと、本当に思った。