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茶師の姫君〜異世界で紅茶事業を始めました〜  作者: 斉凛
第1章 ロンドヴェルム編
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夢見る少女じゃいられない

 情報は能動的に動かなければ手に入らない物なのだ。情報化社会で、情報があふれすぎた日本で生きていた私はその事に気づいていなかった。

 自分から調べてみればこの世界は実に色んな面であふれていた。一番気になったのが、やっぱりお茶の事。ジェラルドの言う通り、ロンドヴェルムは茶の産地としての歴史は浅く、もっと古い伝統を持つ地域や国は沢山あった。

 もちろん紅茶はどこにもなかったけど、茶の産地があるのならロンドヴェルム以外でも紅茶は作れる。茶はその土地の気候や土壌に大きく左右されるから、他の場所で作ったらどんな味になるのか……。想像しただけで胸がときめく。

 それにお茶の上級品はお金のある所に集まる。先進国の首都には極上のお茶が集まっているようだ。ロンドヴェルムがある、ガイナディア帝国の首都にも世界中から茶が集まっている。

 それを知って私は行ってみたいと思った。作るだけじゃない。色んなお茶を飲み比べて楽しみたい。そして緑茶中心のこの世界で紅茶はどう受け止められるか見てみたい。

 今はロンドヴェルムでしか消費されていない紅茶を輸出したら……どんな反応が待っているだろう。想像しただけでワクワクして来た。


 それでつい食事の時に父に聞いてしまったのだ。ロンドヴェルムの紅茶を都に輸出できないかと。


「今はまだ無理だな」


 ばっさり切られました。人生終了しました。そうでした。父はやり手なはずなのです。出来るなら私が言いだす前からすでにやっていたのです。やらないからには理由があるのです。

 それでも諦めきれずについ食い下がってしまった。


「どうして無理なのですか?」

「ロンドヴェルムの茶の生産が始まって歴史が浅い。紅茶などはつい最近だ。都では伝統ある茶の生産地の方が、名品としてもてはやされる。新興地域はなかなか入って行けない。それに私は田舎貴族だ。この土地では影響力があるかもしれないが、都に商品を売り込むほどの人脈はない」


 なるほど……派閥とか利権とか……色々大人の事情がありそうですね。この世界の常識を知らない私には何も出来そうにありません。

 あまりに落ち込んで食が進まず、途中で中断して部屋に戻ってしまった。先ほどまでワクワク期待してた分落ち込みは激しい。


 落ち込みながら私は思った。なんだかんだ言って私は前世の記憶を引きずってるのかもしれない。生まれ変わったのに私はお茶を作る事にしか興味を持てなかった。

 無知だと知った今も興味を持って調べようとするのはお茶の事だけ。

 お茶に関わる事をしていれば、まだ前世と繋がっていられる気がしてるのだろうか。もう戻れない過去なのに……。16年住んでいるのに、いまだにロンドヴェルムを故郷だと思えない。長い旅行をしてる気分だ。

 生まれ変わるなら地球のどこかが良かったというのはわがままだろうか。



 翌日日課の朝の茶摘みに出かけた。でも茶畑に着いてもやる気が起きない。自分はこの世界に生まれ変わった。それなのに何をしてるんだろう。一生ここでお茶を作って生きて行くのだろうか?

 将来の自分の姿が思い浮かばない。

 ふと顔を上げて辺りを見渡した。山の斜面に段々畑の茶畑。霧がかった景色は美しい。もう見慣れたはずの景色が新鮮に見えた。ゆっくり見渡しているとジェラルドの存在に気づく。木の下の木陰で私の方を見ながらぼんやりしている。

 毎日毎日ああしているけれど、あいつは何がしたいのだろう。あんなだらけた生活飽きないのだろうか?ジェラルドの方に吸い寄せられるように歩いて行く。


「今日は茶摘みしないの?」

「そっちこそ毎日見てて飽きない?」


「飽きるよ。でもいいんだ。朝の濃い霧が少しづつ晴れていって、朝焼けの空の色が変わるのを眺めながら、君がそこで茶摘みをする。すごい平和でいい風景だよね。永遠にこうしていたい」


 ジェラルドがしみじみ言う言葉は嘘だとは思えなかった。ただなんだか自分と同じ気がした。今を生きてない。何かから逃げている。

 私はジェラルドの隣に腰を降ろし茶畑を見つめる。いつも一生懸命茶摘みをしているから気づかなかったが、少しづつ変わって行く空の色がため息をつくほど綺麗だ。


「ジェラルドはここに来る前何をしてたの?」

「僕? 僕は旅人だからね。色んな所を旅したよ」


「こんな田舎よりももっと楽しい所、素敵な場所いっぱいあったんじゃない?」


 ジェラルドは目を細めて綺麗に笑った。


「確かにいい所はいっぱいあったけど、ロンドヴェルムが一番好きだよ。マリアやマリアのお父さんが凄く良い人で、街の人も良い人ばかりで、のどかで穏やかで癒される」


 この世界の事はロンドヴェルムしか知らない。それでもここを誉めてもらえて嬉しかった。そして今まで曇っていた心のもやもやが少し晴れた気がした。ここは私の第二の故郷なんだ。

 だったら……この街のために出来る事をしたい。そう強く願った。そしてそれが私の新しい目標になった。

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