JOKERは冷たく笑う
音無 無音さんのお題小説「ジョーカー」に参加させて戴きました。
...そしたら、こんなことになりました。
好き勝手やらせて戴いて、音無さんには感謝してもしきれません!!
...ので、許して下さい...。
平凡な日常に、ばらまかれた不穏のカード。
十三人のジョーカーが、冷たく笑う...。
一通の手紙が届けられた。
不気味な程、真っ白な封筒が、俺の家のポストへと放り込まれていたのである。
仲野由縁は、その"差出人不明"の封筒を不思議そうに眺めていた。
しばらく外見だけを観察していたが、中身を確認しないことには、何も解決しない。
俺は封を開けた。
"一月四日水曜日、午後六時に××高校体育館裏にて待つ"
「...何だこりゃ?」
俺はメッセージの書かれた厚みのある紙を、裏返す。
それは、俺の友人:鹿江桃の写真だった。
「桃...?」
そして、もう一つ。
封筒の中には、トランプが一枚。
スペードのエース。
ミスプリで、裏にジョーカーの印刷された、スペードのエースだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
俺は指定されていた、自分の在籍する高校の体育館裏にいた。
午後六時となると、学校の門は、完全に閉ざされる。
俺は用務員に見つからないよう、こっそりと忍び込んでいた。
そこには、十一人の男女がすでに来ていた。
その中に桃もいた。
「桃...」
「由縁君!?」桃は振り返り、驚きの声を上げた。
「どうして、由縁君が此処に...」「いや、この手紙を出したの、お前じゃないの?」
俺は桃の言葉を遮り、封筒を見せた。
途端に、青ざめる桃。
「嘘、嘘よ...何で由縁君まで...そんな...」
桃は"信じられない"とでも言うかのように頭を振った。
桃は、何か知っているのだろうか。
その時。
「あれっ!? ...由縁?」
呼ばれた声に振り返ると、そこには友人の山口誠也の姿が。
「お前、何の用だよ?」と誠也。
彼の台詞の真意を読み解けずにいると、桃はあっ、と声を上げた。
彼の手には、俺の写真とスペードの十三。
え...一体、どう言うことだ?
不意に、スピーカーが入った。
「皆様、ご足労戴き、誠にありがとうございます。それぞれ、"JOKER"がミスプリントされたトランプをお持ちですね?」
その声に、何と無く皆が札を掲げる。
それぞれ、スペードの三から十二の札だった。
俺が一で、誠也が十三。
と言うことは...。
隣を見ると、桃は震える手の平で"スペードの二"を握り締めていた。
「初めまして。私は...強いて言うなら、そうですね。"元・JOKER"とでも名乗りましょうか」
何なんだ、この人。
だが、その疑問を考えるより先に、俺は耳を疑うことになる。
「皆様には、これから"JOKER"となることを賭けて、殺し合いをして戴きます」
...は?
一文字の気持ちを口に出す前に、頭上から黒光りする十三の何かが。
「ゴキブリっ!?」
誠也は飛び退く。
...いや、黒光り=ゴキブリって...。
俺は、よく見ようとして近付いた。
...拳銃だった。
「私が本気だと、ご理解戴けましたか?」
スピーカーの声。
「まさか、こんなの...偽物だろ?」
"スペードの四"を持つ男が、適当に銃を拾い、これまた適当に引き金を引いた。
ぱん。
乾いた音と共に、たまたま銃口の向いていた"スペードの六"の女が倒れた。
その頭から、血を吹き出して。
...静寂。
「うわああぁ!!!!!本物だあぁ!!!!!!??????」
引き金を引いた男が叫ぶ。
「当たり前じゃないですか。"JOKER"を決める儀式なんですから。全て殺し終えたら、最後の一人は体育館のステージまで登って来て下さいね。表彰式がありますから」
それを最後に、スピーカーはスイッチを切られたようだ。
「...てめぇ、ふざけんな!! 俺の女、殺しやがって...!!」
わなわなと怒りに震えるのは、"スペードの五"の男。
"五"は"四"に銃口を向けた。
「え、ちょ、待ってくれよ。俺達、親友だろ?」
"四"は命乞いをする。
「もう関係ねぇよ、そんなこと。さっさと死ね」
ぱん、と言う銃声と共に、"四"は倒れた。
"四"の持つ写真が、手の平から滑る。
そこには"五"の男の顔写真が。
...成る程ね。
次の数字の人間の、しかも知り合いの顔写真って訳だ。
だから"十三"である誠也には"一"の俺の写真。
"一"である俺には"二"の桃の写真が、届いた。
...なんて回想をしている間に、俺達の目の前は惨劇と化した。
返り血が、俺達の方にも飛んでくる。
深紅の雨か。
いや、これはその状況を遥かに上回っていると思う。
そうだな...例えるのなら"鮮血の霧"だ。
初めに十三人もいたはずなのに、いつの間にか、残り五人となっていた。
「危ないっ!!」
誠也は俺を庇うように飛び出す。
...鉛玉は、流れ弾は、
俺の友人を絶命させた。
残り四人。
俺達以外の二人は同時に撃ち合い、互いに"肉片"と呼ばれるべきかどうか分からない"何か"となった。
残されたのは、俺達二人。
たった二人だけ。
...どうしよう。
俺、一体俺は、どうすれば良い?
「由縁君...」
不意に、桃が言った。
「私を、殺して」
俺は、脳の"フリーズ"と言う現象を理解した、気がする。
「...え?」
「"JOKER"は、たった一人。本当は、私が"JOKER"になるはずだった。けど、私...由縁君を殺せないよ...」
泣きじゃくる桃。
「そんな...そんな! 馬鹿馬鹿しいこと考えるな!!」
空元気が、空回りする。
それでも俺は、言わなきゃいけない。
「二人で、何処かへ逃げようぜ。警察に通報して、あのスピーカー男を捕まえて貰おう」
「駄目だよ...例え私達が助かっても、"意味がない"の」
桃は意味深なことを言う。
「だから、私達のどちらかが"JOKER"にならなきゃ。そのためには、どちらかが死ななきゃいけないの」
分からない。
分からないよ、桃。
混乱する俺に、桃は言った。
「大丈夫、私、自分で死ねるから」
そう言って、桃は自分のこめかみに銃を突き付ける。
微笑んでいた。
優しい笑顔だった。
「私...由縁君が友達で良かったよ」
何故だろう、俺はフリーズしていたくせに。
その言葉にだけは、答えなきゃいけない気がした。
「ありがとう。...俺もだ」
そう言うと、彼女は嬉しそうに少しはにかんだ。
「桃...」
「ばいばい、ありがとう」
彼女は引き金に人差し指を掛ける。
「...桃、やっぱり死ぬな!!」
俺は彼女を抱き締めて、銃口を彼女から反らした。
ぱん。
また、この音だ。
非日常なくせに、今日一日で聞き過ぎた音。
飽きる位に。
そして、銃弾は俺の胸を貫いた。
いとも簡単に、貫いた。
ははは、何だ。
簡単なことじゃないか。
彼女を殺したくなければ、
彼女を生かしてあげたければ、
...始めから、こうするべきだったんじゃないか。
俺は嫌に満足した。
自分が最期に、導き出した解答に。
「ゆ...由縁君...っ!!」
桃の声。
彼女が泣いている顔、霞んでいく。
「由縁君、ごめんね...っ」
何故か彼女が、謝ってる気がした。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
桃は指定されていた、自分の在籍する高校の体育館のステージ上にいた。
そう、今回の"JOKER"として。
「おめでとうございます、流石は"鹿江桃"様ですね」
先程のスピーカーと全く同じ声で、トランプの"JOKER"の格好をした彼が笑っていた。
まるで道化のように。
「全く、何が"おめでとう"よ。由縁君を殺させておいて...」
「でも、私は貴女が来ると信じておりました」
"元・JOKER"は冷たく笑う。
「貴女の恋人は、私が殺したんですから。復讐は果たさなくては」
「でも...由縁君を失ってまで、する復讐じゃなかった」
桃は袖で、涙を拭い取る。
そして、事の顛末を語り始めた。
「半年前、貴方は高瀬君と一緒に、この"JOKER"の選抜会に選ばれた」
「おや、もう半年も経つのですか」
彼は笑う。冷たく笑う。
「あの時のカードは"ダイヤ"でしたね。だから一番金持ちだった彼は狙われ、真っ先に殺された」
過去を振り返る遠い目で、彼は言った。
「貴方が、高瀬君を殺したの?」
「いいえ、直接は手を下してはいません。強いて言うのなら"見殺しにした"ですよ」
「同じじゃない!!」
桃は彼を思いっ切り殴った。
「はは...人間、傍観者が一番得をするんですよ。あの時もそうでした。彼を殺した人間達が、金品を奪う。そして他の奴らに殺される。その繰り返し...そして最後の一人だけ、僕が始末する。何がおかしいんです? 現に貴女も、今回、全く同じだったでしょう」
「あんたなんかと...一緒にしないで!!」桃は泣き叫んだ。「由縁君を、返してよっ!!」
「強いて言うなら、皆、この"しきたり"に殺された。皆が皆、憐れなる"JOKER"ってことさ」
「...何、"上手いこと言った"って顔してるのよ!!」
「桃さん...私の顔、見えるんですか?」
「下の名前で、呼ばないでよっ!!」
呼んで良いのは、高瀬君と由縁君だけ。
なのに...。
「まぁ、話はそれ位にしましょうよ」彼は桃を、下の名前で呼んだことをごまかす。
「貴女は"JOKER"となる代わりに、"元・JOKER"を殺し、更に願いが一つ叶うんですから」
「そうね...じゃあ、このゲームを終わらせてくれる?」
だが、その願いは聞き入れられなかった。
「"これ以上、悲劇を生みたくない"って偽善ですか。でも駄目なんです。止まりません。"JOKER"が次の"JOKER"に殺されるのを恐れていると見なされるので」
「死ぬのなんて、怖くないわ。由縁君が、目の前で死ぬことに比べたら...」
「...そうですか。では、代わりに私めの正体を」
彼は冷たく笑う、"JOKER"の仮面を外す。
その顔は、高瀬君の親友の顔。
いや、親友だった、顔。
「...やっぱり、貴方だったの。葬式でも涙一つ見せないなんて」
その問いには答えず、
「はい、これはもう、貴女の物ですよ」
彼は"JOKER"の仮面を桃へと被せた。
「最初は、婆抜きで"JOKER"を引いた人が、他の人達を殺した所から始まったらしいですよ。私怨って怖いですね」
仮面を外した後も、彼は薄気味悪い笑みを浮かべる。
「そして後悔と戒めのために、彼は儀式を行った。十三人に、"JOKER"のトランプを配ってね」
"JOKER"の時は、騙し合い。
そして勝者が、彼を殺した。
「勝者は"最も愛する人間なら、心優しいから次でしきたりが終わる"と考えていたそうです」
そして十三枚の、ハートと"JOKER"が裏表のカードが配られた。
そしたら、残ったカップルの二人は狂ってた。
...正確には、選抜の"殺し合い"の果てに狂った。
「最後はちょうど、貴女達のようでした。違うのは、彼女の方が本当に自殺したことで」
残された彼氏は"最も幸せな人間なら、幸せだから次でしきたりが終わる"と思った。
そして十三枚の、クラブと"JOKER"が裏表のカード。
"幸福"を象徴する、クラブのカードだった。
ところが、何故か一人の男と十二人の女。
しかも最悪なことに、男は性欲が強かった。
性欲を満たすことが、その男の中で唯一の、幸せだと思っていた。
「十二人、全ての女子生徒を無理矢理犯して、全員自殺に追いやった。あいつこそが本物の"JOKER"じゃ...」
言いかけて、止めた。
桃が恐ろしく睨んでる。
冷たく笑う、"JOKER"の仮面の中から。
「...そして、その男は"金で何でも解決しよう"と、ダイヤのカードを十三枚作った。それが私達の代でございます」
とち狂った男でも、一応"解決しよう"とは思ったのか。
"金"と言う、安直な結論だが。
「ちなみに...何で今回、スペードを選んだの?」
桃は仮面越しに聞いた。
冷たく笑う、仮面越しに。
「四つの中で、残ってたから。理由は色々あっても、結局は殺し合いですし。それなら、スペードは元々"死"のカードですから。シンプルでしょう? ...それに、もう"このしきたりを止める"なんて不可能ですよ」
彼は一気にまくし立てた。
「では、預金通帳がそこにありますから。"JOKER"の経費はそこからお願いします。私のように拳銃を調達したりして、無駄遣いしないで下さいね?」
「...あんたに言われたくないわよ」
「確かに」彼は苦笑い。
「では、次の"JOKER"としての仕事、全うして下さいね」
「当たり前よ」仮面の彼女は、言った。
「では、私の仕事はお終いですね」
「楽には、死なせないから。これが私の、せめてもの復讐」
ぱん、と肺を撃ち抜かれる音。
彼はきっと、三十分程死ねずに苦しむだろう。
終始笑いっぱなしの仮面の彼女は、そんな彼に背を向けた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「さて、と」
思案した挙げ句、何も思い付かなかったので。
「最初に戻ったわね...」苦笑する桃。
その手には、十三枚の"JOKER"のカードが。
しばし、郵便ポストの前に佇む。
これで、次の"JOKER"が決まる。
そしたら、私は殺される。
「高瀬君、由縁君...待っててね。もう少しで、会えるから」
桃は可愛らしい、笑みを浮かべた。
そして、十三通の封筒を郵便ポストへ。
「うふふふふ」
彼女は笑う。冷たく笑う。
まるで、道化のように。
平凡な日常に、ばらまかれた不穏のカード。
十三人のジョーカーが、冷たく笑う...。
次の"JOKER"は、貴方の番ですよ?
作者(江角 稚)は笑う。冷たく笑う。
まるで道化のように。




