水精霊
シャウトが家に帰るとハスナはもう出掛けて、ライズだけがいた。
「もう気付きましたか?」
不意にそういう。
「もちろんだよ。」
「今回はとても大きな気配です。」
「わかってる。ところでハスナは?」
「炎精霊の所に行きました。」
「またか…。大事な時にあの炎精霊は…。」
「しかたないです。」
「でも今回は難しい戦いになりそうだね。」
「そのようです。」
今回の戦いは、今まで以上に苦しいものと知らずに…
「じゃあ行くか。」
「同意。…ドルドーム。」
ドルドームの少し前。
「ついにこの時が来てしまったか。戦いたくはないが…、龍妃様のため、己の立てた忠誠のため、やらなければいけない、なんとしても。」
紅蓮の剛翼は自分自身に語りかけた。
龍界にて、
「では今から、悪魔の撲滅に行くのですね?」
「そうだよ、ハスナ。」
「では、早く用事を済ませましょう。」
「そう言うなって、二人の時間を過ごそうじゃないか。」
「遠慮しておきます。」
「もし金の輝きの野郎だったらどうした?」
「ライズはそんな事は言いません。」
「ふっ、そうかよ。」
「そうです。」
千葉県全体にドルドームが形成され、なにもない異空間には4つの影があった。シャウトとライズと、隅でひっそりとしている高川、そして…
「俺は紅蓮の剛翼だ。龍妃様の命令により、皇子を受け取りに来た。銀の煌めき、来てもらうぞ、力ずくでも。」
紅蓮の剛翼と名乗る赤と橙の混ざった髪をした、すらりとした長身の、ハンサムと言えるくらいの男は言った。
「何故ですか。」
シャウトが尋ねる。
「それは…言えない。さぁ早く来るんだ。」
「そうはさせません。」
「おまえには言ってない。おまえは何者だ?」
「金の輝きライズと言います。」
「そうか。でも皇子が来ないなら力ずくでいかせてもらう。」
そう言うと、紅蓮の剛翼は、10の巨大な火球をライズへと放つ。ライズはそれを防御の精波で防ぐ。そこにすかさずシャウトは、銀の牙を放つが、簡単に防御される。さらにライズが金光という光線を放つがそれもたやすく防御される。
「その程度か。こちらからもそろそろいかせてまらうぞ。」
そういうと、紅蓮の剛翼は手から炎を出し、ライズとシャウトへと浴びせる。シャウトは龍の頂の効果と、防御の精波を重ねてなんとかねばるが、ライズは精波だけでは支えきれず、全身を炎で焼かれる。
「うわぁー、あっ、うっ、ぐはっ。」
叫び声が響きライズはその場に倒れた。
そして、紅蓮の剛翼はシャウトへと、目をやり、それから紅蓮というのに相応しい炎を放った。
シャウトはそれを防ぎきれずまともにくらった。そして、その場に倒れたのだった。
「銀の煌めき、ついて来てもらうぞ。」
紅蓮の剛翼は、そう言って歩をすすめていく。
「そうはさせな…、ぐはっ。」
紅蓮の剛翼は、抵抗しようとするライズに、炎を浴びせ、黙らせる。
もう終わりというその瞬間、陰にいた高川が叫んだ。
「やめて。」
「…咲か。でも俺はおまえの望みを叶える事は出来ない。邪魔はしないでくれ。」
「やだ。」
しかし非力な少女は父親の精波により、身動きを封じられる。
「や…め…て…。」
「すまない。」
次こそ本当の終わりと思った時、なんと、
「こんな雑魚も一人で片付けられないのですか?六精霊なのに。」
「楽勝だよ。でも、ハスナに会う口実を作っただけだよ。」
自身の炎により、悪魔を焼き尽くした炎精霊は、ハスナへと近づく。
「変な事言わないで下さい。それにもう少し離れて下さい。」
「はいはい。わかりましたよ、お嬢様。」
「…」
沈黙で言葉を返し、
「そろそろ帰らせてもらいます。」
とだけ言い、ゆっくりと、歩をすすめた。
「俺が本気だってわかってるのにハスナは…。」
六精霊たる炎精霊はハスナが過ぎていくのを見ながらつぶやいた。
それは青く長い髪をした男の龍神だった。目付きが鋭く、睨んでいるように見える。
そんな龍神をドルドームに迎えた一同のうち、最初に傷だらけでボロボロのライズが口を開いた。
「貴様、水精霊か。」
「久しぶりだな。ところで、なんだその様は?」
「黙れ。何のために来たんだ?」
「皇子を守るのが私達、六精霊の役目だ。」
「ふっ…、そうかい。じゃあ、頼む。シャウト様のためにも。」
ライズは今は倒れているシャウトを見ながら言った。
「承知。『ライズ』様。」