カルロの意思とフレアとの共通点
フレアの傷もすっかり良くなって、いつも通りの一日が始まる。
「ティルー、私ちょっと街まで買い物に行くけど、一緒に行くー?」
「いい!学校の課題があるから!」
フレアは靴を履き、玄関をでた。ほうきに乗って、この辺で一番の大都市、シウダに向かう。行くのは、戦争が終わってから初めてだ。
「うわー・・・」
フレアはほうきに乗ったまま、シウダを見下ろして驚いた。戦争で結んだ同盟により人間たちが移住し、戦前とは見違えるほどにぎやかな街になっていた。
「すごいわ・・・」
フレアは感動で胸がいっぱいになった。そのままほうきから降りて、商店街を歩く。そこには、ウィザードが商う店、人間が商う店、共同で商う店で溢れていた。
――人間とウィザードが仲良くしてる・・・――
フレアは嬉しかった。商店街を通り抜け、行き着けの生活店に行き、
「こんにちは、おばさん。いつもの頂戴。」
「あいよ。」
フレアは現地のお金で米と野菜とベーコンを買うと、それを袋に詰めた。
「随分とにぎやかになったのね。」
「ああ。良い事ばかりじゃないみたいだがね。」
「え?」
「あんたに関わることじゃないさ。さあ、帰った帰った。」
おばさんに背中を押され、店を出ると、目の前に見覚えのある少年がいた。二人は少しお見合いになり、フレアがごめんなさい、と一言言って、逃げた。
――前に一度会ったかしら――
振り向くと、さっきの店のおばさんとあの少年がなにやら話している。フレアは気を取り直して商店街に戻った。反対側から商店街を抜けると、そこにはハイルがいた。
「あら、フレア。来てたの。」
「ちょっと買い物。ハイルこそ何してるの?」
「ほら、同盟で人間たちもこっちに来られるようになったでしょ。それで、私の人間の知り合いがこっちに越してきたのよ。それで、挨拶をしに来たの。」
「人間に知り合いがいたの?」
「あら、フレアも知ってるはずよ。着いて来て。」
そういわれてハイルに着いて行くと、立派な石でつくられた家が現れた。フレアが関心していると、
「おじーさーん。お友達を連れてきたのー。」
ハイルが大声で呼ぶと、中からがたいの良いおじいさんが出てきた。フレアには、見覚えが無かった。フレアはハイルに小声で、
「ハイル・・・」
「あら?分からない?彼、アルドって言うの。アルドおじいさん。一級建築士で、私の家を建ててくれた人なの。」
「知らないわよ。そんなの。」
フレアは飽きれた。
「あれ?会ったことあると思ってたのに。」
フレアはため息をついて、おじいさんに近づいてペコッっと挨拶した。
「はじめまして、アルドさん。」
「やあ、はじめまして。」
アルドはにこやかに笑っている。フレアは少し笑って、
「フレアと言います。」
「ちょっと中で座って話さない?アルドにフレアのこと紹介したいし。」
「ええ、良いわ。」
三人は家の中に入った。
「暖かいミルクを出そうね。」
「ありがとう。」
話をしていると、やはり戦争の話になった。
「アルドは、戦争に行ったことはあるの?」
「いや、無いよ。僕の国では、戦争に行くのは兵士たちだからね。自衛隊とかが行くんだよ。自衛隊には十歳から入隊出来るんだけどね、孫二人が自衛隊を夢見ていて、二人とも十歳で入隊したんだ。そして、今回の戦争に行ったんだ。」
フレアは戦った少年のことを思い浮かべた。フレアは下を向いた。
「・・・私、男の子と戦ったわ。それで、十日間意識を失ったの。」
ハイルがすかさずアルドに問う。
「ねえアルド、マンチェスターの軍隊には少年は何人いたの?」
「詳しくは分からんが、何だったっけなあ、南軍と戦う中では、僕だけとかなんとか言ってたような気がするがなあ・・・」
――南軍・・・・・・――
「南軍・・・・・・それフレアがいた軍だわ!フレア、その少年、アルドのお孫さんだったのよ!」
アルドは驚きを隠せないようだ。
「なんという偶然・・・それなら、フレア、僕の孫に会うかい?」
フレアは勢いよく椅子から立ち上がり、
「来てるの?!」
「あぁ、僕と一緒に住んでる。」
すぐに落胆したように椅子に座った。
アルドは静かにフレアの手を取り、
「フレア、僕の孫が申し訳ないことをしたね。」
「ううん。アルドは何もしてないわ。」
すると、ガタンと物音がしたので、フレアが顔を上げると、
「・・・あ・・・」
そこには、あのおばさんの店の前であった少年がいた。
「・・・さっきの・・・」
アルドはフレアの手を離し、少年の傍に行った。
「やあおかえり。ちょうど良かった。事情をはなすと長くなるんだが・・・」
「いいよ、おじいちゃん。分かってるから。」
そういうと、少年はゆっくりフレアの元に来た。
近くで顔を見て、フレアは思い出した。
――あのとき、戦った少年だわ!――
フレアは、少年の目を見ながら言った。
「ハイル、あなたの言った通りだわ。」
「ええ。」
「ちょっと話さないか?」
そういって少年はフレアの手首を取ろうとした。
「触らないで。」
フレアはすばやく振り払った。
「おじいちゃん。ちょっと出てくる。」
「ちょっと少年!フレアに何かしたら、許さないからね!」
そうして二人は、すぐ傍の煉瓦の建物の裏側に入った。
「こんなとこに連れてきて、何のつもり?」
「・・・すまなかった。殺すつもりじゃなかったんだ。」
フレアは下を向いた。
「じゃあ、どうして・・・」
「僕は十歳で自衛隊に入った。」
「それはさっきアルドから聞いたわ。」
「実はこれより前にも一度戦争に行ったことがある。そのときは僕の弟が十一歳で僕が十三歳だった。弟はそれが始めての戦争だった。まだ兵士として未熟すぎたのに、僕は自分を守ることに必死で弟を見殺しにしてしまった。」
――私だって、同じだわ。両親を失くしたわ。――
「・・・弟の仇を討つために、今回は戦ったの?」
「いや、違う。」
「じゃあどうしてあんな顔して私を殺そうとしてたの?」
「・・・・・・殺したくなかったからだ。殺したくない。でも殺さなきゃいけない。僕は葛藤してたんだ。」
フレアは顔を上げた。
「僕はもう戦いにはうんざりだと思った。それなのに、僕は自衛隊だ。人を殺す立場だ。もう考えれば考えるほど分からなくなるんだ。」
「・・・私も、三年前の戦争で両親を失くした。この国の法で、戦争には国民が兵士として出なければいけない。私は親をなくした戦争に今度は親なしで行くのが怖くて、うまく戦えないと思った。だから、あなたが来るまで誰とも剣を合わせなかった。」
二人の間にしばらくの沈黙が続いた。沈黙を破ったのは少年のほうだった。
「君、名前は?」
「フレアよ。フレア=チェーン。」
「良い名前だね。僕はカルロ。カルロ=オ=デッセイ。」
「ミドルネームまであるのね。」
「ああ。」
「私は、人間とウィザードが仲良く暮らせる時代が来てほしいと思ってる。今のような世の中は嫌なの。今回の戦争で人間もウィザードも自由に行き来できるようになったけど、きっと悪いこともこれからどんどん起きるはずよ。まだ十分恨み合ってるから。」
「争うことで解決できてしまうと、また争いを産んでしまう。僕は、争いなんかよりもっと他に良い解決方法があると思ってる。」
「きっと、たくさんあるわ。」
カルロは、フレアに向きなおして言った。
「良かった。許してもらえなかったらどうしようと思ってた。」
「私はそんなに小さくないわ。でも、まさかこんな風に再会するとは思ってなかったけど。」
そういって二人はアルドとハイルのもとに帰っていった。