戦場での出会い
南軍が向かう場所はキングスベリーとマンチェスターを結ぶ大きな草原といったようなところで、そこにキングスベリーの本陣が設けられている。目的地に到着すると、徴収されたウィザードたちはそれぞれ持ってきた武器を構え、出軍の準備をし始めた。まるで嵐でも訪れるような凄まじい風が草原を通り過ぎていく。フレア以外のウィザードはみな戦争を恐れていないかのように真っ直ぐ敵国の方を向いている。フレアはその雰囲気に圧倒され、何度も息を呑んだ。そして幾度となくハイルの言葉を思い出す。
ババンッ―――
大きな銃声がまた鳴り響いた。同時に軍人は大きな掛け声と共に敵国の方へ消えていった。フレアは三年前のトラウマで、足がすくんでその場に座り込んでしまった。
――しっかりしなさい、フレア。動くのよ。――
フレアは自分にそう何度も言い聞かせた。もう周りには本陣に待機する兵以外誰もいない。そして、ゆっくりと立ち上がり、大きな剣を手に、進み始めた。
とそのとき、前を見るとなにやら大群がこちらに向かって走ってくる。敵軍だ。敵が来た。何人かのウィザードが同時に戻ってきて、本陣に伝える。そしてそのまま本陣を守り始めた。フレアは少し離れたところで、それを見ていた。すると四十代くらいのおじさんが来て言った。
「何ボーっと突っ立てやがる。本陣をお守りするか戦いに行くかしねえか。ほら見ろ。敵が近づいてきた。」
フレアは剣を自分の身の前に構えた。大きな掛け声と共に人間の軍隊が迫ってくる。だんだん近づいてくる敵軍に、フレアは目を疑った。そこには、自分と同じくらいの歳だろう。少年が大人に混じって走ってきた。しかも、自分のほうに。フレアは驚く暇もなく、少年は刃を向けてきた。少年の顔は恐怖だった。フレアは剣を振りながら、少年に言った。
「やめろ!私は戦いたくない!」
フレアは必死に剣で少年の剣を避ける。少年は声を荒げながら剣を振ってくる。危険だ、とフレアは感じた。
「・・・私は人間が嫌いじゃない!お願いだからその剣を降ろして!」
少年は剣を止めない。
「・・・私は、三年前に両親を失くした!」
少年の動きが止まった。フレアはゆっくりと剣を降ろした。刹那、少年は剣を大きくフレアに振りかざした。フレアは庇えず、そのままその場に倒れた。周りでは魔法でやられる人間と、剣でやられるウィザードたちが見える。フレアはそのまま気を失った。
「・・・レア、フレア。」
フレアが目を覚ますと、そこにはハイルとティルズがいた。フレアは病院のふかふかのベッドに横たえていた。フレアは苦しそうに起き上がる。
「フレア、大丈夫?十日間、目を覚まさないから、心配したのよ。」
フレアはあの少年に切られてから一度も戦うことなく、戦争を終えた。なんてあっけないんだろう。でも、そんなことよりみんなが無事だったことが奇跡だった。
「ハイル・・・戦争は?」
「四日前に決着が付いたの。キングスベリーの勝ちよ。ニュースが言うには、マンチェスターが降参したんだって。」
「それで、戦争が和解した記念に、マンチェスターと同盟組んだらしいよ。おかげで、マンチェスターとキングスベリーの間を、自由に行き来できるようになったって話。」
ティルズは、部屋のお花の手入れをしながら口を挟む。
「人間を嫌うウィザードもいるのに、そんなことして大丈夫なのかしら。」
「こんな同盟組んだって、人間は恐れてこっちに来やしないわよ。ただ、ウィザードたちが向こうに行く可能性はあるだろうけど。」
「でも、ウィザードを恨んでる人間もいるわ。」
そう言ってフレアはあの少年のことを思い浮かべた。