表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/48

23




マラソンウィークというものがある。

 これもまた、我が校が誇る訳の分からない伝統の一つなのだが、俺は自信を持ってこう言おう。こんな事をさせる学校は狂っている。

 冬休み前の適当な一週間を決めて、そこをマラソンウィークとする。哀れな生徒達は週に三回ある体育の授業を全部持久走に変えられ、ブーブー文句を吐きながら必死になって走らなければならないのだ。

 だが、中学生というのは滅多なことがない限り必死になったりしない生き物だ。俺達が全力で走るのには訳がある。

 俺が右手に持っているこれ。走るのに邪魔でしょうがないこれこそが、その原因なのだった。

「おい切磋琢磨、トランシーバーの調子は大丈夫かぁ?途中で落として壊したりすんなよ。」

「うるさい黙れ余計な体力を使いたくない。」

「何だよ怒るなって。じゃあな。俺は教室の窓から見守っててやるから。」

 ケタケタと笑いながら横を走り去っていくクラスメイトはこれで何人目か。

 この忌々しいトランシーバーのせいで俺は格好のからかいの的となっている。涙が出そうだ。

 昨日、初めての持久走が行われた。内容を聞かされて目の前が真っ暗になった。

 男子は学校周辺全長7.8キロ、女子は4.8キロのコースを体育の授業時間内に走りきって戻ってこいという過酷なものだったのだ。

 性質上、根性とかやる気とか、そういういうものとは対極に位置する俺は、もうずいぶん前からマラソンというものに苦手意識を抱き、自分に最も向いていないスポーツだと悟ってさえいた。

 今までの人生において経験したことのない7.8キロという距離に意識が遠のいた。

 さらに追い打ちを掛けるように恐ろしいことを聞かされた。

 なんと、授業時間内に戻って来ることができなかった者には、次回から安全確認のためにトランシーバーを携帯させるというのだ。

 時間内に戻ってこられないのは体育の次の授業に間に合わないということであり、どうにかして次の授業の担当教師と連絡を取らなくてはならなくなる。

 そこで考え出されたのがトランシーバーだ。このおかしな行事が始まって以来ずっとこの機械を使ってきたというのだから、マラソンウィークの歴史がいかに長いものであるか分かっていただけるだろう。

 教卓の隅にトランシーバーがセットされ、教師の声が教室に響く。

「こちら国語の斉藤。山田君、現在地点と予想到着時間は?」

「・・・はぁ、はぁ・・・田んぼ道を9割ほど通過しました。あと5分はかかる模様です・・・ゲホッ、ゴホッ」

 こんなバカバカしいやり取りが我が校における冬の風物詩となっているらしいのだ。

 こんなの恥さらし以外のなにものでもない。だからみんな頑張った。俺も頑張った。

 でもだめだった。

 恐れていた通り、俺は初回の持久走で最後尾となり、荒い息のまま静まり返った教室になだれ込んだ瞬間、クラスメイトの好奇の視線を浴びながら、この一週間は体力と精神力を大幅に削られるであろうことを覚悟したのだった。

 みんなは、からかいと哀れみの思いを込め、俺を「トランサー」と呼んだ。

 ちょっとかっこいいのが癪にさわる。


先週学校でマラソン大会がありました。

来年からこの行事がなくなるらしいと聞いていたので、晴れやかな気分で完走することができました。

終わった後、それがガセネタだったことを知った時の気分は最悪です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ