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CAS二日目。
この放課後は本格的な活動ができる最終日だ。
十万まであと3万9千円。ただし、川口に渡す1万円と吉長さん、岡本さんに渡す4千円、それからクラスの男子に借金した3千円が加わるので、実質5万6千円を稼がなくてはいけなかった。
5万6千円。昨日の収入と比べれば無理のない額のようだが、二日目というのは恐ろしい。前日声をかけた人にはもう売り付けられないし、「油沢ゼミナール」のAクラス、Sクラスの人数にも限りがある。しかも、同じ条件ばかりにこだわっていると、バレるリスクも高くなる。
そこで今日は、塾のランクをある程度まで落とし、三校を選んで、それぞれの最上クラスを対象にすることにした。
「ねえ、そこのお姉さん。ちょっといい話、聞かない?」
「先輩、僕、K中の野球部に憧れてたんです!ちょっとお話、聞かせてもらえませんか?」
影も高宮も、独自のセールスでどんどん売り上げを伸ばしているようだった。
俺も加わりたいところだが、今日は別の仕事を割り当てられている。
目の前にあるのは「油沢ゼミナール」。そして俺は電柱の陰。
別に隠れる必要もないのだが、大通りの真ん中でじっと突っ立っている訳にもいかず、かといって近くのコンビニで待っていては、素速く行動を起こせない。こうするしかなかったのだ。
しかし、電柱の陰というものは、案外隠れるのに向いていないようだった。片側からは姿を隠しているつもりでも、反対側からは丸見えなのだ。
こんなことに気付かなかったなんて。探偵なるという将来の道が一つ消えた瞬間だった。
横を通り過ぎていく小中学生の視線を痛い程に浴びながら、俺はただひたすらに待っていた。