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春の章最終話です。
その日からだ。高宮の中で俺の存在が浮かび上がってきたのは。
高宮が、作り話に花を咲かせるため集まってくる連中の中に俺を無理矢理引き込むようになったのだ。「なあ、切磋琢磨、君も知ってるだろ、この話。」という風に、半ば強引に太陽の隣に据え付けられる。
周りの奴はそんなこと気にもしない。太陽だけを見ているからだ。いつの間にか、高宮の隣が俺の特等席になってしまっていても、あいつらにはそんなこと関係ないらしい。「あれ?あの二人、あんなに仲良かったっけ。」くらいにしか思われない。
そのくらい、太陽の側にある俺の輝きは少ないのだ。目にも見えないほどに。
高宮は自分の周りに俺という緩衝材を置いたようだ。それはまるで太陽を覆う見えないガス、コロナのように。
正直、こういうのは嫌いだ。
偽りの笑顔で固められた空間に、騙されていることにすら気付かず集まる人。そうして出来上がった世界に組み込まれる自分。居心地が悪くてしょうがない。
ただ、この現状を変えようとは思わない。居心地の悪さと引き替えに、俺は絶好の観察環境を手に入れたからだ。
クラスの誰よりも太陽を近くで見られる特権。手放すのはもったいない。少しの我慢くらい、喜んでするさ。
こうして俺と高宮は、世間一般に親友と呼ばれる関係を作り上げたかのように見せかけていた。
そんなある日、俺は滅多にしない大失敗をしでかした。
重いバッグを背中で背負って、桜並木を歩く。俺の隣にはもれなく付いてくる高宮瞬。もちろん、バッグはちゃんと肩に掛けている。 何を話すでもない。並んで歩くだけの帰り道。
そう、いつもと同じ。全く変わらない日常。 もしかしたら、春の陽気で頭の働きがおかしくなっていたのかもしれない。だから、あんなことを言ったんだ。
遅咲きの桜ももう散り際で、道路には薄桃色の斑点が描かれていた。
きれいな模様を踏まないように避けながら歩く。
この時、初めて帰り道の日常を壊した。
「なあ、高宮。俺と一緒にいて、楽しいか?」
どうしてこんなことを言ったのか、今でも分からない。それはごく自然に口から出てきた言葉だったのだ。誰かに会ったら「こんにちは」食べる前には「いただきます」を無意識のうちに言うように。
後悔は大きかった。言い終わってから立ち止まってしまったほどだ。でも、ひどく焦っているというこの状況を高宮に悟られたくなかったし、実際気になってはいたことだったので、俺は答えをそのまま待つことにした。
高宮も歩みを止め、俺の方を振り向いて言った。
「どうしたんだよ、急に。いきなり話しかけてきたと思ったら。」
「別にいいだろ。」
完全にふて腐れていた。
高宮が続ける。
「楽しいか、楽しくないかって聞かれたら、楽しくない。」
「・・・あんた、本当はひどい奴だったんだな。」
「今頃気付いたのか。でも、一つわかったことがある。」
高宮が歩き始めたので俺も後に続く。一メートル先にある足は俺と同じように、上手に斑点を避けていた。
誰かに聞かせるには小さいけれど、独り言にしては大きい声が聞こえてきた。
「一緒にいても、楽しくはない。でも・・・君の隣が一番、楽だ。」
強い風が吹き、無数の花弁が視界を染めた。 再び立ち止まった俺達の間を、薄桃色が流れていった。
ニヤリ、と笑う。
どうやら、大失敗をしでかしたのは俺一人ではなかったらしい。