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 藤野が机から降りた。ちらっと時計を見てから壁に寄りかかった。

「あの人、何て言ったと思う?十万用意しろ、だって。俺を一目惚れさせたお前が悪いんだ、慰謝料くらい払え、だって。もう訳わかんない。ほんと、ふざけてるわ。こんな人のどこがいいのってお姉ちゃんに聞きたくなった。」

 そう言ってから「あー、もうっ。」と壁を蹴りつけた。相当なストレスが溜まっているらしい。

「もちろん、そんな大金払えないって言ったよ。でも、払わないなら別れないって言われて、姉ちゃんと別れるって言われて、殴られそうになった。ねぇ、私、どうしたらいい?中学生じゃバイトもできないし、親は神経質だから、こんなこと言ったらパニックになっちゃう。ってゆーかもう、私がパニックになりそうだよ。」

 藤野は本当に悩んでいるようだった。

 誰にもそうだんできずにずっと抱え込んで、何とか頑張ってみても全然解決しなくて。きっと、ぎりぎりのところで、やっと持ちこたえていたんだろう。

 俺がこう言うのを止めるストッパーはもう何もなかった。

「藤野、少しだけ待ってくれ。そうだ、二週間。その間に俺が何とかするから。」

「え、でも・・・そんな、悪いよ。」

「大丈夫だから。どうせやることなくてヒマなんだし。」

「何言ってるんだ切磋琢磨。『俺が』何とかする、じゃない。『俺達が』だろう?」

 横から高宮が割って入ってきた。

「そうだ。俺達、仲間でしょ。」

 影も加わる。

 ・・・仲間、ねぇ。

 下心見え見えの協力に涙が出そうだ。いや、俺だって下心がないと言えば嘘になるが。

「・・・みんな、本当にいいの?」

 藤野が不安そうに聞いてきた。

「ああ。だから心配すんな。安心してテスト勉強にでも集中してたらいい。」

 俺が言うと、もう藤野は目を潤ませていた。

「みんな、本当にありがとう。」

 やっぱり極上の笑顔だ。これが見られれば俺は何だってするさ。

 十万が何だ。大学生が何だ。そんなの足の小指の爪くらい、小さな問題だね。

 

 しかし、この時はまだ、気付いていなかった。足の小指の爪ほど、ぶつけた時痛いところはないということを。


昨日、家のドアに挟みました。足の小指の爪。

一人で涙目になってました。

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