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・・・仕方ないか。
俺は精神力をすり減らして臨機応変に説明するしかないのだった。
「この二人も協力してくれるっていうから連れてきたんだ。俺一人じゃ大したことできそうもないし。たくさんいた方がいいかと思って。あ、でもいらないならいいよ。今すぐ追い出すから。」
ちょっと本心が出てしまったのはご愛嬌だ。決して「うん、出て行ってもらえる?私が話したいのは切磋琢磨だけだから。」なんて言われるのを期待していた訳ではない。
「え、いいよいいよ。みんなありがとう。たくさんの方が助かる。」
実際はそんなもんだった。期待していた訳ではないが、やっぱりちょっとがっかりだ。でも、めげてちゃだめだ。頑張れ、切磋琢磨。
「藤野、相談って何?」
俺が聞くと、藤野は少し俯きながら話し出した。
「あのね、私、今大学生とつきあってるんだけど、その人がね・・・」
「ちょ、ちょっと待て藤野。誰と付き合ってるって?」
「え、大学生。」
「大学生!?」
ちょっとショックが大きすぎた。ただでさえくらい資料室が更に暗くなったように感じた。ショックを隠すのにかなりの体力を費やした気がする。
横では高宮がいたって普通の顔をしていたが、心の中はぐちゃぐちゃしているに違いない。笑顔が固かった。
影だけが平常心を保っているようだった。アメリカじゃこんなこと日常的なんだろうか。
藤野が続ける。
「お姉ちゃんの彼氏なんだけどね、家に遊びに来たとき、一目惚れしましたって言われて・・・。その時は断ったの。お姉ちゃんに悪いし、大学生なんて、歳離れてるし。でもね、その後もしつこく言ってきたの。付き合って下さいって。」
「そのこと、お姉さんは知ってたの?」
影が訊ねた。
「ううん。お姉ちゃんには言ってなかった。お姉ちゃん、その人のこと好きみたいだったし、まだ付き合ってたから。そうしたら、告白もだんだんエスカレートしてきて、手紙まで届いてきたから、私、お姉ちゃんとは別れないっていうこと約束して、その人と付き合うことにしたの。」
「二股させたっていうこと?」
高宮が聞いた。
「そういうことになるわね。でも、全然楽しくなかった。いろんな所に連れて行ってもらって、いろんなものを買ってくれたんだけど、やっぱりどっかでお姉ちゃんのこと考えちゃうの。それに、そもそも私、その人のこと好きじゃないんだもん。長続きするわけなかったんだよね。」
そう言って藤野は疲れたのか、近くの机に腰掛けた。
休み時間も残り少なくなってきた。
「三日前、お姉ちゃんにバレちゃったの。買ってもらったもの全部燃やされて、ヒステリックに叫ばれた。その時になって、やっと気付いたんだ。お姉ちゃん、本当にあの人のこと好きなんだ、って。自分は本当にひどいことしてる、って。だからね、きのう、別れようって言いに行ったの。もう私のことなんか忘れて、お姉ちゃんだけ見てあげて。お姉ちゃんは本当にあなたのことが大好きなんです、ってちゃんと言ってきたわ。」
藤野が机から降りた。ちらっと時計を見てから壁に寄りかかった。