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 静寂の中、

「ふざけてるわ。」

 いきなり隣から小さな呟きが聞こえた。

 俺はぎょっとしてそっちへ顔を向けた。

 声の主は藤野だった。いつものように窓の外を見つめながら頬杖をついていた。しかしその目は、飛んで行くカラスも校庭に迷い込んできた野良犬も追いかけてはいない。じっと一点を見つめたままで、目を開けたまま眠っているようにさえ見えた。

 周りには聞こえていなかったようだ。みんな黙々と手を動かしている。

 俺はさっきの言葉の意味を考え、考えたけど分かるわけもなかったので、まさかとは思ったが、自分が心の中で思っていたことを実は口でしゃべっていた可能性がないことを確認した上で、小声で彼女に話しかけた。

「藤野・・・藤野、どうしたんだよ。自習、しなくていいのか?」

 藤野はゆっくりとこちらを振り向き、俺が持っていた本を一瞥した。

「人の心配する前に、そのおもしろそうな本を参考書に変えたら?」

「・・・ああ、これ?いいよ。今度貸してやるから。」

「・・・・・・。」

 一瞬の間が空いて、

「そんなこと頼んでないでしょ。・・・でも、そうね、貸してもらおうかな。テスト終わるまでには読み終わっといてね。」

 さらっと人のテスト勉強を妨害するようなことを言ってから、また窓の方を向いてしまった。

 しばらくの間、静かなときが流れた。誰かのわずかな貧乏揺すりの音がずっと聞こえていた。

 ちらっと横目で隣をうかがう。

 藤野はやっぱりどこか虚ろな目で窓の外を眺めたままだった。

 しかし突然、その瞳がほんの少し揺れた。

 そして彼女がこっちを向こうとしてきたので、俺は慌てて視線を本に戻さなくてはならなかった。

「ねぇ、相談があるんだけど・・・。」

「え?相談?俺に?」

 何事もなかったかのように顔を上げる。

 と、そこには「藁にもすがる思い」を絶妙に表した藤野の不安げな表情があったのだ。

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