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 俺は本当にひどい奴だ。今は自分でもそう思う。

 結果を言っておこうか。当たりくじは俺が引いた。

 確率というのは、そう滅多に外れるものではないらしい。世の中、よくできているのだ。

 しかし、こんな俺にも後ろめたさはあったようだ。あれからというもの、良心の呵責に苛まれたりしている。

 俺は本当にひどい奴だ。

 本来、大勢の下克上に対する特権として与えられた27回を別の戦いに使ってしまったんだから。そのせいでまっすぐに頑張ってきた高宮が出し抜かれることになった。

 座る席がなくなった高宮は、俺の席を勝ち取った奴が座るはずだった場所に収まった。つまり、なんの価値もない「その他」の席だ。

 待ち望み、掴み取った席に座れると思ったら、ルール違反すれすれの卑怯な手でいきなりそれを奪われた。ショックは大きかったに違いない。

 俺は本当にひどい奴だ。

 いろいろと教えてもらった恩を仇で返すなんて。

 ああ、俺は本当にひどい奴だ。

 ・・・このくらいで、許してもらえないだろうか。

 俺は十分自分を責めた。これ以上やったら自己暗示にかかって鬱になりそうだ。

 俺に謝るという選択肢はない。高宮に余計みじめな思いをさせる程、自分は図太くないはずだ。だからこうするしかなかったんだ。

 でも、そろそろやめてもいいんじゃないか?

 高宮の姿を目で探す。すると、右斜め五メートルくらい先の所にいつもの疑似笑顔を見つけた。

 さすが太陽。立ち直りが速い。俺は安心しながら感心するという妙な心境を味わった。

 高宮は、隣の席の女子と親しげに話していた。さっきまで別の席を狙っていたことなんて微塵も感じさせない、完璧な態度だ。

 隣の女子も、高宮が自分を選んだんだと信じて疑わない様子だ。もちろん女子には下克上の新ルールは説明されていないのだから仕方ないのだが、あそこまで有頂天になることもないだろうに。

 そう、高宮はよくモテる。太陽とは、ほぼ例外なくモテるものなのだ。

 おそらく、このクラスの女子の三分の一は高宮の隣を狙っているだろう。つまり、これから女子達のバトルが始まるということだ。

 そうだ。自分を責めてる場合じゃない。観察だ。これはおもしろいことになる。見逃すなんてもったいない。

 反省モードから観察モードに素早く切り替えた俺は、注意深く教室を見渡すことに意識を集中させた。

 ・・・はずなのだが。

 だめだ。どうにも落ち着かない。

 隣の藤野がいつ席の交換を申し出て、高宮の方へいってもおかしくないと思うと、気が気じゃいられない。

 せめて高宮のように、楽しい雰囲気を作り上げて、おしゃべりを始めたりできればいいのだが、もうそれどころじゃない。

 どうか藤野があっちへ行きませんように。高宮に取られて赤っ恥をかくのだけは勘弁してください。どうか、神様!

 と、心の中でお祈りすることで精一杯だ。

「ねえ、切磋琢磨君。」

「ひぎぇっ!?」

 だから俺は、いきなり声をかけてきた藤野に、失敗したしゃっくりみたいな返事をしてしまったのだ。

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