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「先生、提案があります。」
影が一歩前へ出た。
「あ?何だ?」
「これじゃちょっと物足りないと思うんです。俺みたいに順位の低い人は何のスリルも楽しみもありませんでした。これは席替えドキドキ大作戦ですよね。」
「そうだ。」
「全員が最高にドキドキするルールを付け加えてみてはどうでしょう。」
フッシンは少し考えてから言った。
「それは提案する相手が違う。こいつら全員が納得するんだったら勝手にやれ。あー、ちなみに言っとくが、」
フッシンが今度は俺達の方を向いて言った。
「俺はおもしろい席替えを見るのは大好きだ。是非とも実行してもらいたい。」
・・・残念ながらあんたの意見は聞いてない。
影は律儀に頭を下げた。
「ありがとうございます。じゃあ、ルールを説明します。」
影が教卓の向こうに回り込み、全員を見渡した。
「これは『下克上』という新ルールです。この中には狙っていた席を誰かに取られて悔しい思いをしている人がたくさんいるはずです。そんな人に一度だけ、チャンスがあるんです。」
落ち込んでいた十数人の顔がぱっと上がった。その中には俺も入っている。
「少し複雑なので例を挙げて説明します。じゃあ、A君とB君とC君がいたとしましょう。B君とC君は、A君の席を狙っています。ここで三人がくじを引きます。当たりを引いた人がその席に座れるという訳です。」
その時、数人の生徒が不満げな声を上げた。念願の席を取った奴らだ。
影が「まあまあ、最後まで聞いてください」となだめる。
「確かに。これでは実力で席を勝ち取ったA君がかわいそうです。せっかく大会で頑張ったのにあっさり誰かに席を奪われたら、努力が報われませんから。そこで、A君に特権を与えます。下克上にやって来た人数の三倍、くじを引く回数を増やせるのです。例の三人の場合、B君、C君は一回しかくじを引けませんが、A君はもともと持っていた一回に加え、下克上しにきた二人の三倍で六回もくじを引くことができるのです。A君、B君、C君の当たりくじを引く確率は7:1:1。下克上の人数が多ければ多いほどこの比率の差は大きくなります。圧倒的にA君が有利ということです。でも、B君、C君にも望みはある。」
「じゃあ、もしA君がくじで負けたらどうなるんだ?」
誰かが聞いた。
「もちろん席を譲らなければなりません。そして、当たりくじを引いた人と席を交換するんです。じゃあ、B君が当たりを引いたとしましょう。B君は念願のA君の席に、A君はB君が選んでいた席に、C君は元の席に戻るのです。下克上は一人一回だけ。箱に入れるくじは、そのくじ引きに参加する人のくじを引ける回数の合計。そのうち一枚が当たりくじです。例の三人の場合、くじの合計は7+1+1で九枚。当たり一枚、外れ八枚となります。くじを引く順番はA君が決めます。」
影は全員を見回してから言った。
「どうでしょう。このままじゃ心残りのある人がたくさんいるんじゃないですか?下克上、してみませんか?まだ希望はあるんです。」