眠りのくに
「眠くなるまで話していよう」
僕たちは二人同時に提案したが、既に二人とも気を抜けば意識を喪いそうなほど眠かった
白い布団は柔らかいが、少しざりざりして居る
でも、この闇に光る白さがとても綺麗で、僕は二人の躰を包むそれを恍惚と視続けて居た
「おい」
「そんなの視てると寝ちゃうだろ」
そう言って、君が僕の頬をつねる
実のところ、寒さで頬も感覚が無くなりだして居たが、君の指が僕に触れている時の、あの優しい感覚が皮膚に伝わっている
それだけは解った
「じゃあ」
「帰ったら何をするかとか……」
それはさっき話したろ、と君が言う
僕がそうだっけか、と返すと、君は僕の両肩を掴んで「おい」「しっかりしろよ」と深刻な顔で言った
「寝るなよ」
「お前は寝るな」
泣きそうな顔で君が言う
その呼吸があまりにもはあはあしていたので、僕は「お前こそ大丈夫かよ」と君に触れる
触った手のひらに汗と、汗じゃないものが沢山絡み付いてきた
それが何なのか解るから、僕は視ない
君が「寒いな……」と言った
不意に黒くて灰色な夜に、光が浮かんだ
光と一緒に車のエンジン音が近付いてくる
吹雪で視えないが、これは僕たちが助かった事を意味してる可能性が高かった
「おい」
「助かったかも知れないぞ」
寝ている人間を起こすみたいに君の肩を叩く
反応が無い
その時、僕は、君がまばたきをして居ない事に気が付いた
「そいつは、その……可哀想だが」
車から降りた援軍は、哀れみの視線を向けながら僕に言う
「早く手当てしてくれ」
「こいつ、死にそうなんだ」
僕が雪から君を掘り起こす
援軍たちが「ひっ」と気味悪がりながら、少しだけ後ずさった
「気持ちは解る」
「でも、そいつは置いていこう」
興奮で自分が早口になっているのが解る
声もきっと、自分では解らないが大声だと思う
手を尽くして説得したけど、君を連れてはいけない様だった
僕を荷台に乗せると、車は戦場を遠ざかっていく
君が離れていく
『死ぬ時だって一緒』と言った君を置いて、景色が遠ざかっていく
荷台から身を乗り出すと、何人かが取り押さえて僕を仰向けにした
『ここに僕を置いていけないなら』
『せめて、心を置いてここを去ろう』
視線の先では、真っ黒で灰色な空がすごい速さで流れている
それが不思議で、僕はいつまでも暗い空を眺め続けて居た




