私の話
私の初めての恋人は女の子だった。
中学二年、七月の前半。夏休みが近づいていた頃の事だった。その頃仲の良かった友達から告白され、私は驚きながらも頷いた。
そういう人もいるのだろう。
そんな漠然とした気持ちで付き合い始めた私たちの関係は一月ほど経って尚、友達とさして変わらないまま、続いた。キスをするどころか手を繋ぐ事すら一度も無いままある日突然、その関係は終わりを迎える。
「え」
言葉を失う私に彼女はあっけらかんとした調子で「ごめん、告白されちゃった」と言った。彼女の緩んだ頬には失恋の悲しみや後めたさのような気持ちは見当たらない。
聞けば、告白してきたのは男の子らしく、それがなぜだか私をよりイラつかせた。
「ありえないでしょ!」
私は初めて彼女に声を荒げた。近くにあった空のペットボトルを掴んで投げつけ、立ち上がって座っていたクッションも投げた。
怒る権利なんてものがその時の私にあったのかは分からないけれど、それでも呼んでくれた部屋をめちゃくちゃにしてから私は彼女の家から飛び出し泣きながら自宅に帰った。
普段は私より他の友達を優先し、甘えたい時にだけ甘えてきて、何かと「私のこと好き?」と聞いてくる。そんな身勝手な彼女のことがどうやら私は思っていた以上に好きだったらしい。
(今更…!)
走りながらそんな事に気が付いた私の心の波はさらに高くなってうねり私を飲み込んだ。殴られるような時間がしばらく続いた。
やっと家の玄関にたどり着いた私は靴の上に膝をつき縋るように廊下へ手を伸ばして顔を伏せながら泣いた。
友達から後で聞いた事だったのだけれど、どうやら私と付き合っている最中も頻繁に彼とは連絡を取っていたらしい。はなから私はキープだったという事だ。
「まっ、その頃の私に彼女を怒る権利なんてないと思うけど」
私が彼女と付き合いだした理由。それは私が真性のレズビアンだったからではない。最悪な言い方をすれば消去法。だって、その頃の私は男の子はある一件から苦手で、でも恋愛というものには興味があった。ちょうどそんな時に彼女が告白してきてくれたのだ。
(そういう人もいるのだろう)
私にとっても、どうやら彼女にとってもこの関係は都合が良かったらしい。
だけど、それでも一つだけ、彼女に恨み言を言わせてほしい。
「この呪いみたいな性を残していかないでよ」
それから私は無事行きたい共学の高校に入学しFJKとなった。
私の中に残ったレズという呪いは未だ健在、どころか全盛期のような勢いで私の思考を侵食していた。何かにつけて「友達として」と女の子と接するたび自分に言い聞かせる癖がついてしまっていた。
幸い、この呪いと向き合ううちに女の子にも色々な種類がいる事がわかってきた。
異性好き以外にも。
ただスキンシップが多く同性受けが良い距離感が近いだけの人。
どちらもいける人。どうでも良い人。
そして女の子が好きな人。
私は後者で多くの人は前者だった。それに後者は後者でも、対応は分かれた。それが自分のアイデンティティだとSNSでアピールする人。慎ましく二人だけの世界に沈んでいく人。何一つとして異性愛者と変わらない恋人生活を送ろうともがく人。
私にとってこの性は呪い以外の何物でもない。SNSで自慢なんて出来るわけもなく、どうして普通になれないのだろう、とため息を一つ増やすだけの重荷だ。
(これを捨てる勇気もないくせに)
「菊池さん」
突然、名前を呼ばれ私は急速に現実へ戻った。
学校の廊下をゆっくりと一人で歩いていた。移動教室で私だけ忘れ物をしたので教室へ取りに戻った後で、まだ休み時間には余裕があった。
「はい?」
声のした方向を見ると同じクラスの優気くんがいた。
「移動教室行くんでしょ。一緒に行こうよ」
「あぁうん」
「前から菊池さんと話してみたかったんだよね」
嫌な予感がして私は少し身構える。頬が軽く痙攣する。
前、の話はあまりしたくない。特に中学の頃の話は。
「昔、あいつと付き合ってたっしょ。俺もなんだよね」
そう言って彼は私の初めての恋人である彼女の名前を口にする。
私はえ、と一瞬固まり「いつ?」と思わず聞いていた。
「三年の卒業式前くらいからちょっとだけ」
「あっ、へー…そうなんだ」
時期からして優気くんが別れるきっかけとなった人ではない事に少し安堵する自分がいた。
「あいつ、元気にしてるかなーまだ連絡取ってる? 卒業して連絡先消しちゃったからさ俺、知らないんだよね」
彼のその慣れた感じに私は少しイラついた。
「連絡は取ってないけどSNSは見てるから、まーまー元気そうだよ。たまにヘラってるけど」
彼は「変わってないな」と笑っていた。
確かに彼には勇気よりも優気の名前が似合っている、と昔思った事があった。誰にでも優しく、怒っているところを見た事がないからだ。
改めて話して分かる。彼は優しいわけじゃなく無遠慮で無神経、何を言われても気にならないから、怒らない。色々と鈍いのだ。
(大雑把、男子らしい)
「あいつが生きてるなら良かったよ」
彼はそう言って移動教室の中へ先に入って行った。
やはり大雑把だ。イライラする。
(これだから、男子は…)
ささくれだった気分を潰すように私は移動教室へ一歩強く踏み出す。
それから友達の方へと真っ直ぐ歩いて行った。
(だれかいる?)
三階にある個別指導塾は電車と学校の関係でいつも早くつきすぎてしまう。今日はそこに続く階段にポツンと座っている人を見かけた。高そうなドレス、金色の滑らかな長い髪を後ろで纏め、スマホを眺める横顔は息を呑むほど綺麗だ。艶のあるリップと力強く反ったまつ毛に思わず私は見惚れてしまう。
その二十代くらいだろう女性がしばらく突っ立ったままだった私に気がついた様子は無い。
一月だと言うのに寒そうな格好をしているな、と眺めていると…
「さむっ」
突然、独り言を呟いた。それからスマホを持っていない方の手で電子タバコを口にする。
「あの、入ります?」
私は思わず声をかけてしまっていた。
「え」
女性が顔を上げ目を丸くしながら私の方を見た。口が電子タバコを離した直後のまま固まっている。
ふと見えた陶器のような白い肌に綺麗な鎖骨、ドレスの抉れた胸元から見える胸は大きい。多分、そういう夜のお店で働く人だ。ここら辺にもよく立っている。
「ここの三階の個別指導塾なんですけど先生くるまで一時間くらいあるんです。席は空いてて暖房も効いてますよ」
なるべく平静を装い口角を上げて喋る私を女性の大きな瞳が真っ直ぐ見ている。
友達として…じゃないけど、私はあくまで善意でそうしている…筈だ。この性に振り回されての行動じゃない。そんな言い訳がましい思考が頭をよぎる。
「いいの?」
女性は電子タバコを置いて小さく首を傾げた。
私は「はい。私は自習してるんで、先生来るまでなら」と先ほどの思考を押しやりながら返す。
「ありがとう…じゃあ、ちょっと居させてもらおうかな」
ブランド物のバックを抱え立ち上がる。
改めて全身を見ると体のラインが強調されているドレスだ。
(自分に自信あるんだろうな)
私は何があっても着ることのない服だろう。少し羨ましい。
「受験生?」
階段を上がりながら、前を向いたまま女性が言った。私は女性のお団子に纏めた金髪を見上げながら「いえ、今二年で、もうすぐ三年です」と答える。
「そっか。大変な時期だ」
「大変ですね。勉強、勉強、寝ても覚めても勉強です」
「私もそうだったなー中退したから意味無くなったけど」
からからと何でも無さそうに女性は笑う。結構大変な出来事じゃないのだろうか。
「どこ中退したんですか」
「官僚よく出してるところ」
中退したからか、あくまで名前は伏せるようだ。
だけど、候補は多くない。そしてその候補どれもが難関大学だ。
「…頭良いんですね」
「良くない、良くない」
全てを信じるわけではないが、本当に受かっていたら良くない訳がなかった。謙遜、それか嘘だろう。
「あっ、お礼に勉強教えようか?」
「え」
「参考書どこの使ってるの? 見せてよ」
女性はそう言って塾の扉を開けながら振り返る。
(あ、可愛い)
女性の笑った頬に出来た笑窪を見てそう思ってしまう。いけない。この人はそもそも、そういうお店で働く私と違う世界の住人だ。
「あれ? ごめん。嫌だった?」
「違います! あの…嬉しいです」
「そう?」
席についてから女性と色々と話しながら参考書のおすすめや実際に使った勉強方法を教えてくれた。
女性の名前は恋花。源氏名は本名から一文字取ったハナ。年は二十一歳。近くのキャバで働いているらしい。
「脳が疲れない勉強は無意味。体が覚えるまで書き続けるなんて意味ないから、いつだって覚えるのは頭」
恋花さんはそう言い切った。
私はそれに気圧され頷く。なんとなくそんな気もしてくる。
「あれ? え? だれ?」
その時、先生が首を傾げながらやってきた。いつの間にか一時間経っていたらしい。
「ありがとうございました」
一度扉の外へ出てから私は頭を下げる。
「いえいえ私こそ、声をかけてくれてありがとね」
「あの、また時間ある時、教えてほしいです」
私はスマホを差し出す。
恋花さんは「いいよ」と頷きバックからスマホを取り出す。
「私用の方で登録しとくねー」
「あっ来ました」
私はスタンプを送って返す。
「来たね。じゃあまた、追って連絡するね」
「はい! ありがとうございました」
私は恋花さんが見えなくなるまで頭を下げていた。
それからというもの、私は恋花さんと頻繁に連絡をとるようになった。勉強を教わるという名目で連絡をして別のことで盛り上がる事も多々あった。
クラスでは『中学で女の子と付き合っていた人』というレッテルが私にはあって、うっすらと同性から距離を取られていた。だから、余計にそんな事を気にせず親しく話してくれる恋花さんに私は甘えてしまう。
(恋花さんは話し上手だし)
そうやって新しい友達に浮かれていたからだろう。
「何この点数」
テストの点にお母さんが目を剥いた。
それから椅子に座ったままため息を吐く。私はそのテーブルの横で立ったまま今から始まるお説教を覚悟した。
「嘘でしょ?」
独り言のように嫌味ったらしく言って、顔を手で抑えて分かりやすく呆れている。私もテストを受け取った時、同じことを思ったよ。
「正直言って失望した。あんたがこんな点数取るなんて」
「ごめん」
お母さんは大きくため息を吐く。
「ごめんって何の謝罪よ」
吐き捨てるように言う。お母さんは分かりやすくイラついている。
いつもお父さんが居れば、こうなったお母さんとの間を取りなそうとヘラヘラ笑って間に入ってくれる筈だが、まだ帰って来ていない。
「ごめん」
「かわいそ、お父さんも。ヘトヘトで帰ってきたらこんな点数見せられて」
私は何も言い返せない。
スカートの裾を掴み俯いたまま、止めどなく流れ続ける嫌味を聞く。
しばらくそうしているとお母さんのスマホに通知がきた。
「…お父さん。飲み会だって、明日の朝見てもらうから」
そう言ってお母さんは椅子を引いて髪を乱暴に掻きながら立ち上がり「飲み会ならもっと早く連絡よこしなさいよ」とぼやきながら去って行く。痩せた背中を見つめていたら突然お母さんが振り返り「ご飯まで勉強」とだけ言い残しキッチンの方へと消えた。
私は言われた通り自室に戻って机に向かい参考書を広げる。
しばらく参考書を眺めていたけれど、文字が目を滑り頭に何も入ってこない。恋花さんが言うには脳が疲れない勉強は無意味らしい。私はペンを置いてため息を吐く。
「教えてもらったのにテスト全然ダメでした…」
もはや何も勉強に関係ないけど、つい恋花さんにメッセージを送っていた。
「そっかー結果がついてこないと落ち込むよね。今、大丈夫? 私の方は暇だから通話しながら復習出来るけど」
そんなメッセージがすぐ届く。沈んでいた心が少し浮かぶ。
浮かんだ力を使ってすぐに「大丈夫です」と返事を打った。打って、項垂れ、休む。
「大丈夫ー? 落ち込んでない?」
通話に出て開口一番恋花さんはそう言った。落ち着いた口調だった。
きっと、こういう時、同級生たちだとパニックになって襟元を引っ掴んで捲し立てるように心配する。私はそれで、力を使い果たすだろう。
「ちょっと落ち込んでます。お母さんにも色々と怒られて」
私は「この点数じゃ、仕方ないですけど」と言ってからハハハハッと声に出す。恋花さんに見えていないから、口は作らない。それから下唇を強く上につけ、腹の奥から湧き上がってくるものに堪えた。
「お母さんになんて言われたの?」
堪えないといけないと分かっていたのに、私は口を開く。
「あー全然大した事じゃないので大丈夫なんですけど」
「うん」
「何この点数、嘘でしょって言われて」
「うん」
「私も前回より下がるとは思ってなくて」
「うん」
「嘘でしょって、正直言って失望したって、お父さんもこんな点数見せられて可哀想だって」
「そっか。凹むね。そう言われちゃうと…」
そう言われた途端、言葉が出なかった。
「あれ?」
恋花さんの心配そうな声が聞こえて来る。
私は唇を強く噛みしめ目を瞑る。スマホを机に置いて、手を握り鼻をすすり涙を堪えた。みっともないじゃないか。情けないじゃないか。高校生にもなってまだ泣き虫なんて。
「ありがとう…ございます」
そう言った私の声は震えていた。
(止まって)
それを皮切りに涙が流れ落ちていく。息苦しくて胸を強く掴んで捻り堪えた。慰めにもならない痛みを感じながら息をする。
欠けた堰がそこから少しずつ崩れていくように、私の涙も段々と増えていく。
泣きたくて、同情を買いたくて、注目して欲しくて、そんな理由で私は泣いているわけじゃない。ただ自分が制御出来ていないだけだ。そんな幼い自分が悔してくて、情けなくて、イラつく。
「…ごめんっ、なさい」
上手く話したいのに乱れた呼吸が邪魔をする。言葉は出ないのに私の醜くすすり泣く声だけ部屋に良く響いた。きっと恋花さんにも聞こえている事だろう。
(また、ごめんなさいって言っちゃった)
お母さんに何の謝罪よってまた言われてしまう。治さなくちゃってわかってるのに。
(こうはなりたくなかったのに)
「んーん」
そう言った恋花さんの声に違和感があった。
「泣いて、ます?」
「うん。なんか私も昔を思い出しちゃって」
そう言ってスマホ越しに鼻をすする音が聞こえた。
やはり恋花さんの声は少しだけ鼻声だった。
「ごめんね」
「いえ、私こそ、聞いてくれてありがとうございます」
「んーん。全然。そうだよね。辛いよね、この時期。私もそうだった」
私は「そうだったんですか?」と聞いた後、ミュートにして鼻をかむ。自分のマヌケな鼻声が鬱陶しい。
「私、二浪してるから余計辛かったよ」
「そうなんですか。え。じゃあすぐ辞めてるんですね」
「受かったからいいやってなっちゃった」
「なんで辞めちゃったんですか?」
「世界一周してみたくて、今はお金溜めてるところ」
恋花さんはそれから「失礼」と言ってから鼻をかんだ。ビーッと聞こえてから息を吸う声まで聞こえる。スマホと近い所にいるらしい。
「めっちゃ鼻水出た」
私は「えー汚い」と相手に見えないのに口を開けて自然と笑う。
当分テストの件は引きずりそうだと思ったけど、恋花さんのおかげでなんとか消化できそうだ。
「ご飯に呼ばれちゃった」
「そっか。じゃあまた今度だねー」
そこで楽しかった通話が終わる。
後に残ったのは音声通話と二時間という文字だけだ。
ご飯を食べて、勉強してからお風呂に入り、ベットに寝転んだ時だった。
「あっまずい」
脳裏に過った光景に独りごちた。
(ダメだ。私、恋花さんのこと好きになってる)
ぼんやりと浮かんでくる恋花さんの微笑む表情。さっきかけてくれた言葉の数々。
懐かしい。この胸が詰まるような昂る感じ。
(ダメなのに)
きっと、否定される。気持ち悪い、と言われる。
まるで同じ人間じゃないような目で見る。
(…昔の私みたいに)
小学生の頃、冬から春の間、グンと成長したタイミングがあった。昔からそこそこ背が高く大きめの服ばかり着ていた私の水着に向けられた初めての視線。私は震えた。
口を手で抑える。首の下辺りから迫り上がってくる物を散らさないようにしたまま、更衣室へ走り勢いよく扉を閉め膝を抱えて蹲った。
その授業は早退。それからというものプールの時間は全て欠席。その夏の間、保健室で私は一人その視線を思い出してベットの中で泣いていた。
「これは大変デリケートな問題です。他の人に言いふらしたりは決して無いように。それと、この年頃の女の子はずっと繊細なんですから、男子はもう少し自重するように。分かりましたか?」
男子は「はーい」と答える。不貞腐れている人もいれば驚いているような表情の人もいて、もちろん無関心な人もいた。
「ほら、しっかりと言ったから大丈夫。心配しないで、ね?」
先生が俯く私の顔を覗き込むようにしながら言う。
それに小さく私は頷いて答えた。
今ではわかる。彼らも自分の中にある性をまだコントロール出来なかったのだ。
傷つけるつもりは無かったのだろう。だから彼らはその後、怒った。
「言いがりだろ」
「誰が見るかよ、あんなの」
「気にしすぎだってジイシキカジョー女」
その時、彼らとは一生分かり合えないな、と思った。彼らにはあって私には無くて、それが気持ち悪くて、まるで同じ人間じゃないように思えた。わかり合おうとしてないのに。分かり合えない、と分かったフリをして決めつけた。
多分、その時の私は話してみないことには分からない事だから分かったフリをして逃げたんだと思う。
(きっと怖かったから…)
その性は私にもあったのに。
「家、泊まれるけどどうする?」
「え、泊まっていいの?」
「うん」
「嬉しー! 泊まる泊まるー」
仲良くなった友人の家で私は子供っぽくはしゃぐ、その裏で「友達としてお泊まりをする」と念を押す。何も間違わないように。
「遠回りじゃない?」
「大丈夫。一緒に帰ろ?」
「うん。あーさむ」
彼女は友人はそう言って私の腕に捕まってきた。
私は「ちょっとー」と言って嫌そうな表情を作る。
あくまで彼女は距離感が近いだけ、こないだ彼氏と別れて泣いていた。きっと寂しいだけだ、そう言い聞かせる。
(あーあ。このままずっといられたらいいのに)
そう思ったら腕に押し付けられていない方の柔らかそうな頬に手を伸ばしそうになって「友達でしょ」と自分を諌めた。
ただ、もちろん、私も誰彼構わず好きになるわけでは無い。
そこまで節操がないわけではないけど、好きになるのは同性ばかりでほんと嫌になってくる…
「結構分かるようになってきたね」
カフェで恋花さんと一緒に勉強していた時、そう褒めて貰えた。
あの泣いた日から私の呪いとは裏腹に恋花さんとの関係は順風満帆に続いている。あくまで友達として、と唱える事を忘れずにだけど。
「そうなんです。最近個別指導塾の先生にも褒めてもらえて」
「そうなんだ。良かったね」
恋花さんの微笑む顔がカッコ良すぎて私は目を細めた。カフェの雰囲気といい、私服といい、恋花さんの良さがここに詰まっていた。
そう思えば思うほど、後から苦しくなるのに。
(思わずにはいられない)
そんな事を考えていたせいだろう。
突然、頭に鈍い痛みが走った。私は仰け反り、そのまま後ろへ倒れそうになって、階段の壁に手をついた。どうやら目の前にある天井の角を包んだ黄色いクッションに頭をぶつけたらしい。
「大丈夫?」
「大丈夫です」
アハハと照れ隠しに私は笑っておく。
クッションのおかげでもう痛く無い。きっと傷にもなっていないだろう。
「ほんとに? 結構ガッツリぶつけてなかった?」
前髪を指で避けて恋花さんが私のおでこを見ていた。
その視線で赤くなりそうになる自分に友達でしょ、と強く律して正す。
「大丈夫そうだね。赤くなってないよ」
恋花さんが前髪を触り、整え、私よりも大きな手で前髪全体に触れて撫でる。
香水だろうか、恋花さんの香りが間近でしてクラッと来て、正直、その瞬間はぶつけた時より倒れそうだった。もちろんこれ以上心配はかけられないので堪えたけど。
「すいません。ご馳走になっちゃって」
「本当に気にしないで、私働いてるし。家にいても暇なだけだし。誘ってくれて良かった」
去っていく恋花さんの背中を見ながら私は思う。
(私の気持ちを知ったらきっと気持ち悪いだろうな)
分かり合えないだろうな。
「もちろん、告白なんて出来ないですけど」
家に帰った私はベットに飛び込み、枕に顔を埋める。
(苦しい…)
ベットで足をバタつかせ暴れる。
私ばかりどんどん好きになっていく。
(何かの間違いで好きになってくれないかな)
偶然でも、勘違いでも、魔法でも…呪いでも。私が男の子に生まれ変わるとか、もう本当に何でもいい。ただ恋花さんと話すたび裂けてしまいそうになる心をどうにかしてほしい。
(あぁもう、本当に呪いだ…)
もういっそ全部、私の過去も気持ちも全て洗いざらい吐いてしまおうか、なんて出来るわけもない妄想をする。
(苦しい)
そう思ってから一月ほど経った。
私と恋花さんの仲はさらに深くなってしまっていた。一緒に出掛けて、ご飯を食べて、遊んで。最近お家に泊らせてもらった。
「その布団、妹が泊まりに来た時に買ったやつなんだけど、あっ、もちろん洗濯はしてあるよ。だけど布団それしかなくて、ほんと無理だったら言って。どうにかするから」
「全然、大丈夫です! 寝れます」
吸い込む空気は全て恋花さんの部屋の匂いがして、それだけで心臓の鼓動が早まっていく。だから、もちろん、私はその日まともに眠れなかった。私はどんどん溺れていく。
(息をするのもままならない)
通話をして「おやすみ」と切った後に残る通話時間の長さ、スマホの暖かさ、今日もくれた優しい言葉たちを思い出し噛み締める。
(…辛い)
誰にも相談できない。共感されない。
でも、一人で抱えるには大きくなりすぎている。
『恋花さんをブロックしますか?』
目を瞑りスマホをおでこに当てる。暖かい。一粒の涙が頬を撫でて落ちる。
ブロックなんて出来るわけが無かった。
離れる事も先に進む事も出来ない私はただこの性の重さで沈んでいく。
「あぁ、もうどうしようもないくらい、好き」
そうだ。私はどうしようもないくらい恋花さんの事が好きで、その気持ちはどうしても変えられそうにもなくて…濡れた目元を指で拭う。
「恋花さんにも私を好きになってほしい」
ああ、そうだ。私が変われないのなら、初めからそうするしか無かったのだ。
今更かもしれないが、やってみないことには始まらない。
(恋花さんに友達として、という言い訳はもう、しない)
そう私は心に決めた。
その瞬間からあの日、あの扉を開ける恋花さんを見た時から抑え込んでいた心の昂りが再び、起こる。湧き上がる熱が私の脳を支配して行く。
(あぁ、私はこんなにも好きで好きで好きで仕方なかったらしい)
昨日までの私に戻る事はもう出来ない。そのつもりも元から無いけど。
(あれ…)
何か進もうとすると、いつも不安に襲われる。なのに、今こんなにも清々しい気分なのは何故だろう。
まるで、あぁそうか。これが落ちると言う事なんだ。
高い空から手を広げ私は地球の重力に従って、まだ見えない地上にいる恋花さんの元へ向かう。ここで暴れても、悩んでも、どうにもならなくて、だったらもう、真っ直ぐ行くしかない。
(恋に落ちていく…)
文字じゃなく、映像でもない。その日、恋は私の頭に実感を伴って刻まれた。
「これすごく美味しいです!」
あの日から恋花さんといると自然と声のトーンが上がってしまうようになっていた。ついつい浮かれた調子になって、いつもなら出来ないようなことでも出来てしまう。
幸い、少し遅めのランチという事もあり周りに他のお客さんは見当たらない。
「そうなの?良かった」
「食べます?」
「え、うん」
「はい。あーん」
耳に髪をかけ、艶やかに光る桃色の唇が私の差し出したフォークに近づく。
「うん。確かに美味しい」
「ですよね!」
「最近さー色々頑張ってるよね。髪もさらに綺麗になってるし、ネイルも変えてる。勉強も順調だし」
「凄いね。しっかりしてるよ」と褒めてくれた。
ちゃんと見られていたらしい。嬉しいような恥ずかしいような、次第に顔が火照ってくる。
「あっありがとうございます」
確かに最近、告白される事が増えた。
少し前まで同性しか好きにならない変わり者と距離を置いていた人たちが手のひらを返してあるはずも無いワンチャンを掴みに来る。
「明るくなった」
「良く笑うようになった」
「可愛くなった」
色々と褒められることも最近、多い。
(だって、好きだから)
どうしようも無いほどに好きで、振り向いて欲しくて。
「あの、帰りに恋花さんが好きって言ってたメロンパンの美味しいお店あるので買って帰りませんか?」
「ここら辺に? そうなんだ」
「はい。偶然、動画流れてきて、あっ恋花さんにおすすめしようって、目星つけてました」
「へーありがとう。嬉しい」
楽しみ、と私の方を見ながら微笑む。
あぁ、その一言でどれだけ私が報われるか。
(私の体も顔も髪もメイクも服も、心も時間もお金も全て)
恋花さんに振り向いてもらう為にあるのだから。
私もきっと彼らと同じで、あるはずのないワンチャンを掴もうとしているのだろう。
(だからちょっとだけ、君たちの気持ちもわかるよ)
受け入れはしない。でも、無碍にもしない。
どこか彼方遠くで私たちは同じ性を抱えているから。溺れる苦しさから逃れるためにもがいた結果、こうなった。
(もう少し落ち着いて行動してほしいけど)
分かる事が増えるたび、少しずつ対応も慣れて来る。
分からない事は怖い。小学生の頃も中学生の頃も結局、根幹は分からない、理解出来ないから怖かったのだ、と今なら分かる。
ちゃんと脳に刻まないと分かったフリをした所で、その怖さから逃れる事は出来ないのだ。
「たまに疲れるけど」
脳の疲れない勉強は無意味、という事だろう。
疲れたら休憩をすれば良い。それだけだ。
それから私たちの関係は私が三年生に進級しても尚、続いた。
「じゃあおやすみー」
私は隣にいる恋花さんへ「おやすみなさい」と返す。
胸の苦しさは相変わらずだったけど、その苦しさに慣れている自分もいて、たまにすごく苦しくなる時もあるけれど、何とか日々を過ごしている。
(恋花さんは相変わらず振り向いてくれない)
それでも良かった、なんて口が裂けても言えないし、言いたくもない。早く振り向いてほしいけど、どこかうっすらと諦めている自分もいるのは分かる。
(仕方ない。こればっかりは)
性は生まれもってのものだ。そう易々と変えることは難しい、というのは私が一番分かっていた。
「大好き」
私は寝ている恋花さんに近づき頬へ口づけをして眠りについた。
「仕事やめたんだよねーお金貯まったから、これからは世界一周旅行の準備するんだー」
翌朝、サラリと恋花さんはそう言った。
私は「え」と持っていたトーストを落とす。幸い持ち上げたばかりだったのでお皿にそのまま落ちる。
「突然、ですね」
「そうかな? まだもう少し先だけど」
恋花さんはそう言ってくぁ、とあくびをしながらお腹を掻く。寝癖が跳ねて髪が大変なことになっている。
「いつなんですか?」
「四月の終わり、飛行機だけとりあえずもう取っちゃってるから」
後二週間ほどだ。あまりに唐突な終わり。
「突然すぎますよ」
あっという間に私の視界はぐちゃぐちゃになった。目頭が熱く、拭っても拭ってもこぼれ落ちて行く涙も熱い。
「え?ごめん。タオル、タオル」
ドタバタと足音が聞こえた後、私の背中を撫でながらキッチンから取ってきたであろうタオルを差し出した。
受け取り、それに顔を押し当て啜り泣く私の背中を恋花さんは撫でてくれる。
あぁ、恋花さんには何も伝わっていないのだ。私の気持ちなんて。
(知ってたけど)
こう想われている事だって想像した事も無いのだろう。
俯いて、唇を噛み、またやってきたこの苦しさを堪えた。
それから恋花さんが旅立つまでのニ週間、私は基礎学力テストの勉強、恋花さんは世界一周旅行の準備とそれぞれお互い忙しい日々を送っていた。
連絡は頻繁に取りあっていたものの恋花さんと会えるのは最終日以外無くてその二週間、私はずっと不機嫌だった。友達からは「お怒りモード」と呼ばれる始末だ。別に怒っているつもりはない。
(あぁ、伝えなくちゃ)
世界一周旅行はゆっくりと三から四年かけて色んな国を周り、そこで良い人がいれば結婚も視野、と言っていた。
お式いけますかねー、とその時は笑って答えたものの通話を切ってからメソメソと泣いた。
好きです、とメッセージに書いては消しを繰り返し、通話中、少し間が開くたび「好きです」と口にしそうになる。
でも、結局、最終日まで私は伝えることが出来なかった。
恋花さんは最後日、飛行場近くのカフェで待っていた。
少し骨張った腕、小さな時計。カフェの大きなガラス窓から光が端正な横顔へ差し込んでいる。
「恋花さん」
「あっ座って座って、久しぶり、先に二人分飲み物頼んでるから」
「ありがとうございます」
「結局、忙しくて全然、会えなかったねー。ちょっと前までは週一で遊んでたのに」
その話し方が懐かしくて、もう泣いてしまいそうで、私はここにいる本命の理由を急いだ。
「恋花さん」
「ん? なに?」
首を傾げる恋花さんの丸い目が私を見つめる。体の中から熱くなり心臓の鼓動が乱れ出す。
パニックになりそうになる自分を必死に腹の奥へと押し込み、絞り出すように私は言う。
「好きです。恋愛的な意味でずっと前から恋花さんの事が好きです」
恋花さんは目を丸くし「そうなんだ」と答えた。
それから
「ありがとう。好いてくれてたのは分かってたけど、まさか恋愛的なものだとは思ってなかったな。あっ引いたとかじゃ無いんだけど。そう思うのも失礼かなって」
ぎこちなく言葉を選びながら話す恋花さんを私は初めて見た。
恋花さんがくれる「ありがとう」はいつだって舞い上がってしまうほど嬉しかったのに。この瞬間だけは嬉しくない。
「でも、私が同性を好きになることは無いからさ。ごめんね。もっと早めに気がついてあげられなくて」
「分かってました」
私は頷く。そうだろう。
「恋花さん。ありがとうございました」
私は頭を下げる。
恋花さんのために時間をかけて準備した髪が大きく暴れた。
「私に恋をさせてくれて。私、こんなに自分の中にエネルギーがある事、恋花さんに恋をして初めて知りました」
それから顔をあげ恋花さんの目を真っ直ぐ見つめる。フラれても、これだけは絶対に伝えたかった事。
「恋花さんに恋が出来て私は良かったです!」
「そっか。良かったね」
恋花さんは目を細め屈託のない笑みを浮かべる。あぁ、やっと言えた。どこか憑き物が落ちたようなスッキリとした感覚だ。フラれても恋花さんの笑窪は相変わらず愛おしい。
「私もこんな私を好きでいてくれてありがとう。嬉しいです」
そう言われて思わず涙が溢れた。とめどなく溢れてくる涙を拭う私に恋花さんは言う。
「妹にさ。これだけはお願いって事、伝えてるから。その時は会いに来てよ」
「はい…」
恋花さんはそれから泣きじゃくる私の頭を飛行機の搭乗時間ギリギリまで撫でてくれていた。
(最後まで恋花さんの前だと私は不甲斐なかったなー)
ハァと小さく息を吐き出しながらガラス越しに空を見上げる。白い点のような飛行機が青い空の中を進んでいた。
ーーーーーーーーそれから一年後、私はとある人と再開した。
「菊池さん?」
大学の通路を歩いていた時に突然、名前を呼ばれて私は振り返る。どこかデジャブを感じる流れだった。
「あー、優気くんもここ受かったんだ。久しぶり」
久々に会った優気くんは垢抜けた感じはしなかったけれど、それでも服装は清潔感があって髪も黒色のままだけど整っていて、あの頃から順当に大人になったような感じがした。良い意味で変わってない。
「え、うん。久しぶり。ちゃんと話すの高二の時以来だよね」
「そうだねー」
高校二年生か、と私は遠い地に行った恋花さんの事を思い出す。
今はどうやらベトナムにいるらしく、沢山のバイクの写真がSNSに上がっていた。本当にどこでも行くらしい。逞しいな、という憧れとやっぱり寂しいな、という気持ちが心の中で半々くらいに揺れている、と言う事はどうやら私の中であの呪いみたいな性はまだ生きているらしい。しぶといが以前よりはだいぶマシだった。多分、燃えカスのような状態なのだろう。
「なんかっいや、失礼かもだけど。菊池さん、可愛くなった?」
「はぁ?」
突然、何を言い出すのだろう。昼間から酔っぱらっているのだろうか。それとも冗談か何かだろうか。
見ると優気くんは顔を赤くしながら指で頬を掻いて宙に視線を彷徨わせていた。
どうやら、彼は本気らしい。
(あぁ…そういえば)
優気くんは無遠慮で無神経、色々と鈍く、そして優しい人だ。だから、きっと、その言葉に今はそれ以上の意味はない。そう信じることにした。
「優気くんも、あれだね。ちゃんと真っ直ぐ進化したって感じ」
優気くんが目を丸くして、何度か瞬きを繰り返す。
ちょっと馬鹿っぽい顔が面白かった。
「え…俺って、菊池さんの中でポ○モンなの?」
「なにそれ。人間だよ。人間。ねぇ、それより優気くんはどの授業取ったの? 楽な授業とか知らない?」
それから優気くんが紹介してくれた授業を取って、一緒の講義を受けるようになった。
楽な授業を教えてもらったつもりだったのに、実際は野外調査と課題ばかりで大変だったり色々彼に言いたいことがあって、本当にそれをそのまま伝えているうちに彼とは仲良くなっていた。
疲れた、足が痛いとグチグチ文句を言う私の話を優気くんはうんうんと頷いていた。ずっと彼は怒らなかった。
ある時、優気くんと一緒に飲みに行った私は二軒目に友達がこの辺に新しく出来たと話していたお店に行ってみた。
「何あの店、最悪じゃん。接客態度ヤバいし、料理出てくるの遅いし」
あの店のおかげですっかり酔いも覚めた私に優気くんはいつも通り「うん。そうだね」と頷いていた。
「もう二度と行かない。あの店は、覚えとこう」
淡々とした口調だった。見ると頬が赤い。優気くんはまだ酔いが残っているのだろう。
「怒るんだね。優気くんも」
「いや? 怒っては無いよ。飲食のバイトした事あるし、大変なんだろうなって思う。それはそれとして、行かないっていう選択は取るけど」
私は頭からなんとか言葉を絞り出した。
「あれだね。あはっ、優気くんの頭には飲食の大変さが刻み込まれてるんだね」
「うーん。そうなのかもな」
多分、優気くんは色々な事を経験して人生の大変さが頭に刻まれてるからみんなに優しいのだろう。
優しすぎるのも大変そうだ、と勝手に優気くんを見ながら考えたりしている私はそう思った。
「うん。あれだね。今日の事で私ももう少し優気くんの事を知ってみようと思った」
怖がらず。遠くから見ているだけじゃなくて。
せっかく手を伸ばせば届く距離にいるのだから。
「なっ何。急に、告白みたいなこと言いだして」
「告白? 宣言だよ」
それに、と私は続ける。私もまだ酔っているのか、声が少し大きくなっていた。
「告白だったら、フラれると分かっていたとしても私はちゃんというから」
「え? そうなんだ。なんで?」
僕なら言わないけどな、と優気くんは言う。
「フラれたとしてもちゃんと言う方が気持ちいいって、私の頭に刻み込まれてるから」
自分の頭に銃を突きつけるみたいに指をつけて私は優気くんの目を見て言い切った。
「さては、あれだな…」
「ん?」
「全然まだ、酔ってるな?」
そうなのかな、と首を傾ける。
頭が重く、そういえばさっきから言葉が上手くまとまらない。
何度か瞬きをしていると「ほら」とペットボトルに入った水を差し出された。
私はそれをグイッと勢いよく飲んでから、進んできた道を戻るように歩き出す。
「よしっ! 三軒目、行こうよ。いつもの店で飲み直ししてさ。色々話を聞かせてよ」
「良いけど、僕も飲む前提なのかよ」
優気くんもごねながら、その後、なんだかんだで付き合ってくれて、そんな関係がそれからずっと、大学生を終えても続いた。
友達のように綺麗なままでは無かったし、恋人のように言葉にして繋がっているわけでも無かった。
ただ隣にいる。それは心もそんな感じで。曖昧なまま、たまにそれで勝手に不安になったりしたけれど、それでも私たちは互いに隣にいつ続けた。
そんな日々が終わったのは、恋花さんが世界旅行へ旅立ったあの日に言っていた妹さんへのお願い、その話が本当に私の元へやってきたからだった。