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鉄板の力

 翌朝、リーナは職人組合を訪れた。


「おはよう、リーナ」


 ガードルートが作業場の奥から声をかける。


「おはようございます。昨日お話された鉄板、見に来ました」

「ああ、ちょうど良い。移動式かまどと一緒に試してみよう」


 作業場の一角に、車輪のついた移動式かまどが置かれていた。夏至祭でも使われる予定のものだ。


「これなら実際の環境に近い状態でテストできるな」


 ガードルートが鉄板を移動式かまどの上に載せる。昨日完成したばかりの鉄板は、かまどのサイズにぴったりと合っていた。


「サイズもちゃんと計算して作ったからな」


 炭火を起こして、じっくりと鉄板に熱を入れる。作業場の他の職人たちも、興味深そうに様子を見ていた。


「何を作るんだ?」

「まずは簡単なものから」


 リーナは材料を持参していた。まず、卵を温まった鉄板に割り落とす。ジュウッと食欲をそそる良い音を立てて、卵が焼け始めた。


「うおっ、いい音出してんな!」


 近くで作業していた職人が振り返った。


「熱の伝わり方も均等ですね」


 白身がぷくりと膨らみ、香ばしい匂いが立ちのぼる。黄身の周りににじむ油が、鉄板の熱でしっかりと焼き固められていく。移動式かまどでも、十分な火力があることがわかった。


「次はお好み焼きを試してみます」


 リーナは鉄板の表面をさっと拭い、次の材料を手に取る。生地の粘りを確かめながら、丁寧に四箇所に流し込んだ。一度に四枚のお好み焼きが同時に焼き始める。


「これは便利だ」

「一枚ずつ作るより、ずっと効率が良い」


 職人たちがざわめいた。夏至祭でこれを使えば、大勢のお客さんにも対応できるだろうと、誰もが思った。リーナは頷き、目標の調理時間達成を見通した。


 ひっくり返すタイミングも、鉄板が広いおかげで余裕を持って作業できた。


「火力の調整はどうだ?」


 ガードルートが移動式かまどの炭を調整しながら尋ねる。


「問題ありません。むしろ、火力が安定していて作業しやすいです」


 焼きパスタも試してみる。茹で上がった麺を鉄板全体に広げ、一気に炒めていく。鉄板の上にパスタを広げた瞬間、ソースと肉の香ばしい香りが作業場いっぱいに広がり食欲をそそる。


「すげぇな、一度にこんなに作れるのか」


 若い職人が感心している。


「肉巻きおにぎり串もやってみましょう」


 今度は十本ほどの串を鉄板に並べて焼いてみた。今まで少しずつ焼いていたが、これなら一度に大量調理が可能だ。


 焼き上がった串を見た職人の一人が、思わず声を上げた。


「焼きムラもないし、見た目もきれいに仕上がるな」


 職人たちも試食してみて、満足そうに頷いた。


「俺たちが作った鉄板が、こんなふうに使われるのを見ると嬉しいもんだな」


 ベテランの職人が顔をほころばせると、リーナの表情がぱっと輝いた。


「本当に素晴らしい仕上がりです。ありがとうございます」

「移動式かまども、安定していて使いやすいですね」

「屋外でも問題なく使えるように作ってあるからな」


 風の影響も少なく、火力の調整もしやすいとガードルートが胸を張る。


 一通りのテストを終えて、リーナは手応えを感じていた。


「夏至祭では、これで十分対応できそうです」

「よし、それじゃあ他の移動式かまども準備しないとな」


 ガードルートが他の職人たちと相談を始めると、作業場の空気が一段と熱を帯びた。


「分かった。急いで作らせよう」


 職人たちは意欲的に話し合っている。自分たちの技術が祭りで活用されることに、誇りを感じているようだった。鉄板も、もう何枚か作った方が良いかもしれない。ガードルートも同意し、予備を含めて余裕を持って準備しようと提案した。


 作業場全体が、夏至祭に向けた活気に包まれている。


「ありがとうございます。皆さんのおかげで、良い祭りになりそうです」


 リーナが深々と頭を下げると、職人たちも嬉しそうに笑った。


「こちらこそ、良い経験をさせてもらってる」

「料理の世界も、奥が深いもんだ」


 職人組合を後にしながら、リーナは満足していた。移動式かまどと鉄板の組み合わせは完璧で、夏至祭での大量調理が現実的に見えてきた。

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