特製ソースと屋台風お好み焼き
「お好み焼きには、やっぱり特製ソースが欠かせないよね」
でも、その特製ソースを作るには、どうしたらいいのか。
「ウスターソースだけじゃ物足りないし……ケチャップ、かな?」
ウスターソースのスパイス感に、ケチャップの甘みとコクが合わさると、あの味に近づく気がする。
「よし、ケチャップから作ってみよう」
頭に浮かんだ材料は、完熟トマト、玉ねぎ、ニンニク、唐辛子、砂糖、塩、赤ワインビネガー。どれも手に入るものばかりだった。
「よし、やってみるか」
***
まずはトマトの湯むきから始める。
沸騰したお湯に完熟トマトをくぐらせ、皮がめくれてきたところで冷水にとる。するりと皮が剥け、鮮やかな赤い果肉が現れた。
「きれいな色」
ざくざくと切ったトマトに、細かく刻んだ玉ねぎとニンニク、種を取った唐辛子を加えて鍋に入れる。そこへ砂糖と塩も加えて、弱火でコトコトと煮込んでいく。
最初はトマトから水分がどっと出て、少し不安になったけれど、火にかけ続けるうちにだんだんと水気が飛び、香りとともに濃厚さが増していった。
一時間ほど煮込んだところで、一度裏ごしをする。
種や皮を取り除いたペーストは、まるで宝石のような深い赤。鍋に戻してじっくり煮詰めながら、甘みと塩気のバランスを見て少しずつ整えていく。
「最後に……酢を加えて」
赤ワインビネガーをひとまわし。火を止めた瞬間、甘酸っぱい香りがふわりと広がる。
「完成!」
小さじにすくって、指先でそっと舐めてみる。トマトの濃い甘みと程よい酸味が口の中に広がった。
「うん、ケチャップの味だ」
***
次は、お好みソースづくり。
ケチャップとウスターソースを同量混ぜ、さらに少し砂糖を加えて丁寧に混ぜ合わせる。
ひと舐めすると、甘辛さの奥にトマトの風味が感じられ、複雑でやみつきになりそうな味わいに仕上がっていた。
「よし、これならいける!」
準備は整った。いよいよ、本番——お好み焼きだ。
***
薄力粉に、例の煮干し粉末を混ぜて出汁代わりに。卵を割り入れ、水を少しずつ加えて、練りすぎないよう注意しながら生地を作る。
そこへ、粗めに刻んだキャベツをたっぷり加える。
「キャベツはこれくらいの粗めのほうが、食感がしっかりと感じられて、食べごたえあるんだよね」
軽く混ぜ合わせた生地は、ほどよくもったりとしていて、いい感触だった。
フライパンを温め、油を引き、お玉で生地を流し込む。底を使って生地を丸く広げ、上からアースボアの薄切り肉をのせる。
「この厚さなら、中はふわっと、外はカリッとなるはず……」
じゅうじゅうと音を立てながら、生地が焼けていく。底がきつね色に色づき、香ばしい香りが立ちのぼる。
「そろそろ……ひっくり返すよ!」
フライ返しを差し込み、一気に返そうとした、そのとき——
「あっ」
生地の一部が崩れて、形がいびつになってしまった。
「うーん、難しいなあ……」
でも、ここで諦めるわけにはいかない。
崩れた部分をそっと寄せ集めて形を整えると、焼き色のついたお肉の面が下になり、じゅうじゅうと良い音を立て始めた。脂が生地に染み込んで、香りがいっそう豊かになっていく。
今度は慎重に——
フライ返しをゆっくりと差し入れ、そっとひっくり返すと、こんがりと焼き上がった見事な丸い形が現れた。
「よし、成功!」
両面をしっかり焼いてから火を止め、皿に盛りつける。
仕上げに、特製お好みソースをたっぷりと塗り、スプーンでマヨネーズをとろりとかける。
香ばしい香りがふわりと広がり、見た目にも楽しい一皿が出来上がった。
一口かじると、表面は香ばしくカリッと、中はふんわり柔らか。キャベツのシャキシャキ感がアクセントになっていて、思わず目を細めた。
このソースとマヨネーズのまろやかさが絶妙に絡み、アースボア肉の旨みを引き立てている。じんわりと口の中に広がる、満足感のある味だった。
「……これは、売れるんじゃない?」
思わずそう呟いた時、店の扉がカランと音を立てた。
「おお、何だかすごくいい匂いがするじゃないか」
トムが顔を覗かせる。
「リーナちゃん、何作ってるんだ?」
「新しい料理を試してたんです。お好み焼きって言います」
「お好み焼き?なんか……パンケーキみたいな見た目だな」
「でも、中はもっとふわっとしてて、キャベツがたっぷりなんですよ。上には特製の甘辛ソースとマヨネーズ!」
「それ聞いたら腹減ってきた!これ、店で出したら俺、毎日通っちゃうぞ?」
トムが冗談めかして笑ったとき、また扉が開いた。
「何この香ばしい匂い!通りを歩いてたら急にお腹が鳴っちゃったわよ」
「ベラさん!実は新しい料理を——」
「また新しいのね、リーナちゃん!本当に次から次へと出てくるんだから!」
ベラは皿を覗き込み、目を丸くした。
「これ、何て言うの?」
「お好み焼きっていいます。小麦粉の生地にキャベツを混ぜて、焼いたものなんですが。仕上げにソースをたっぷりかけて最高においしいですよ」
「へぇ~、面白い形ね。厚みがあるのに、ふんわりしてそう」
「焼き加減がポイントなんです。外はカリッと、中はふわっと……」
そこへ、ソフィアも香りに誘われるようにやってきた。
「こんにちは、リーナちゃん。仕事してたら、すごく食欲をそそる匂いが……って、みんな来てたのね」
「ちょうど良かったわ。リーナちゃんが新しい料理を作ったところみたいよ」
ベラが嬉しそうに説明する。
最後に、ハンスもひょっこり顔を出した。
「よう、なんだか店の前が賑やかだと思ったら……なるほど、今日は試食会か?」
「そうなっちゃいましたね。でもせっかくだし、みんなで味見してもらえたら嬉しいです」
私は小皿を用意して、お好み焼きを人数分に切り分ける。
「はい、できたてです。アツアツのうちにどうぞ」
「おお、ありがとよ!」
トムが真っ先に一切れを頬張り、目を見開いた。
「これは……うまい!このソース、絶妙だな」
「本当ね! このふわふわ感、クセになりそう」
ベラが嬉しそうに笑いながら言う。
「ソースの甘みと香ばしさがたまらないわ」
ソフィアも感心したように頷く。
「新商品か。これは夏至祭に出すのか?」
「はい、そのつもりです。どうでしょう、いけそうですか?」
「絶対人気出るよ」
ハンスがうなずきながら言った。
「これは買いに行かなくちゃ」
「見た目も面白いし、若い人たちが喜びそうね」
にぎやかな声に包まれながら、私は胸をなで下ろした。
「ありがとうございます、みなさん。そう言ってもらえると本当に嬉しいです」
「リーナちゃん考案の料理、どれもすぐ売り切れちゃいそう」
ソフィアが太鼓判を押してくれる。
私は少し考えてから、照れくさそうに笑った。
「……もし、もう少し待ってもらえたら、お昼の営業でちゃんとお出ししますよ?」
「マジで!? じゃあ俺、もう並ぶわ!」
トムが勢いよく言って、みんなが笑い出す。
「店の前で昼まで立ってたら焼けちゃうぞ」
ハンスが冗談めかして突っ込み、ソフィアがくすくすと笑う。
「じゃあ、私も後で寄らせてもらうわね。今度はちゃんとお代、払わせてよ」
ベラがウィンクして言った。
笑いと期待に包まれながら、私は特製ソースの瓶を見つめる。
「さて、明日はどんな料理を作ろうかな」
夏至祭まで、まだまだ時間はある。もっと美味しい料理を作って、みんなに喜んでもらいたい。
お好み焼きの成功に満足しながら、私は次の料理のことを考え始めていた。