特製ソースと屋台風お好み焼き
「お好み焼きには、やっぱり特製ソースが欠かせないよね」
特製ソースを作るには、どうしたらいいのか。ソースだけでは物足りない……ケチャップを加えたらどうだろうか。ソースのスパイス感に、ケチャップの甘みとコクが合わさると、あの味に近づく気がする。
「よし、ケチャップから作ってみよう」
リーナの頭に浮かんだ材料は、完熟トマト、玉ねぎ、ニンニク、唐辛子、砂糖、塩、赤ワインビネガー。どれも手に入るものばかりだった。
沸騰したお湯に完熟トマトをくぐらせると、するりと皮が剥ける。鮮やかな赤い果肉が現れた。刻んだトマトに玉ねぎとニンニク、唐辛子を加えて鍋に入れ、砂糖と塩も加えて弱火で煮込んでいく。
最初はトマトから水分がどっと出て、少し不安になった。でも火にかけ続けるうちに、だんだんと水気が飛び、香りとともに濃厚さが増していく。裏ごしをして鍋に戻してじっくり煮詰めていく。最後に赤ワインビネガーをひとまわしすると、甘酸っぱい香りが広がった。
指先で舐めてみる。トマトの濃い甘みと程よい酸味が口いっぱいに感じられた。
「うん、ケチャップの味だ」
次は、お好みソースづくり。ケチャップとソースを混ぜ、さらに少し砂糖を加えて丁寧に混ぜ合わせる。ひと舐めすると、甘辛さの奥にトマトの風味が感じられ、複雑でやみつきになりそうな味わいに仕上がっていた。
「よし、これならいける!」
準備は整った。いよいよ、お好み焼きだ。
薄力粉に煮干し粉末を混ぜ、卵と水を加えて生地を作る。そこへ、粗めに刻んだキャベツをたっぷり加えた。フライパンで生地を焼き始めると、じゅうじゅうと音を立てて底がきつね色に色づいていく。香ばしい香りが立ちのぼった。
いよいよひっくり返す時だ。フライ返しを差し込み、一気に返そうとしたが。
「あっ」
生地の一部が崩れて、形がいびつになってしまった。
「うーん、難しいなあ」
でも、ここで諦めるわけにはいかない。崩れた部分をそっと寄せ集めて形を整える。今度は慎重に。フライ返しをゆっくりと差し入れ、そっとひっくり返すと、こんがりと焼き上がった見事な丸い形が現れた。
「よし、成功!」
皿に盛りつけて、特製お好みソースをたっぷりと塗り、スプーンでマヨネーズをとろりとかける。香ばしい香りが広がり、見た目にも楽しい一皿が出来上がった。
一口かじると、表面は香ばしくカリッと、中はふんわり柔らか。キャベツのシャキシャキ感がアクセントになっていて、思わず目を細めた。このソースとマヨネーズのまろやかさが絶妙に絡み、アースボア肉の旨みを引き立てている。
「これは……売れるんじゃない?」
リーナが思わずそう呟いた時、店の扉がカランと音を立てた。
「おお、何だかすごくいい匂いがするぞ」
トムが顔を覗かせる。
「リーナちゃん、何作ってるんだ?」
「新しい料理を試してたんです。お好み焼きって言います」
「お好み焼き? なんか、パンケーキみたいな見た目だな」
「キャベツがたっぷりで、中はふわっとしてるんですよ。上には特製の甘辛ソースとマヨネーズ!」
「それ聞いたら腹減ってきた! これ、店で出したら俺、毎日通うと思うぞ?」
トムが冗談めかして笑ったとき、また扉が開いた。
「何この香ばしい匂い! 通りを歩いてたら急にお腹が鳴っちゃったわよ」
「ベラさん! 実は新しい料理を」
「また新しい料理作ったのね? 本当に次から次へと出てくるんだから!」
ベラは皿を覗き込み、目を丸くした。
「これ、何て言うの?」
「お好み焼きっていいます。小麦粉の生地にキャベツを混ぜて、焼いたものなんです。仕上げにソースをたっぷりかけて」
「へぇ、面白い形ね。厚みがあるのに、ふんわりしてそうだわ」
「焼き加減がポイントです。外はカリッと、中はふわっと」
そこへ、ソフィアも香りに誘われるようにやってきた。
「こんにちは、リーナちゃん。仕事してたら、すごく食欲をそそる匂いが……って、みんな来てたのね」
「ちょうど良かったわ。リーナちゃんが新しい料理を作ったところみたいよ」
ベラが嬉しそうに説明する。最後に、ハンスもひょっこり顔を出した。
「よう、なんだか店の前が賑やかだと思ったら。なるほど、今日は試食会か?」
「そうなっちゃいましたね。でもせっかくだし、みんなで味見してもらえたら嬉しいです」
リーナは小皿を用意して、お好み焼きを人数分に切り分ける。
「はい、できたてです。アツアツのうちにどうぞ」
「おお、ありがとよ!」
トムが真っ先に一切れを頬張り、目を見開いた。
「これは、うまい! このソース、絶妙だな」
「本当ね! このふわふわ感、クセになりそう」
ベラが嬉しそうに笑う。ソフィアも感心したように頷きながら、口を開いた。
「ソースの甘みと香ばしさがたまらないわ」
ハンスがリーナに視線を向ける。
「新商品か。これは夏至祭に出すのか?」
「はい、そのつもりです。どうでしょう、いけそうですか?」
「絶対人気出るよ」
「これは買いに行かなくちゃ」
「見た目も面白いし、若い人たちが喜びそうね」
にぎやかな声に包まれながら、リーナは胸をなで下ろした。
「ありがとうございます、みなさん。そう言ってもらえると自信がつきます!」
「リーナちゃん考案の料理、どれもすぐ売り切れちゃいそうね」
ソフィアが太鼓判を押してくれる。リーナは少し考えてから、照れくさそうに笑った。
「もし、もう少し待ってもらえたら、お昼の営業でちゃんとお出ししますよ?」
「マジで? じゃあ俺、もう並ぶわ!」
トムが勢いよく言って、みんなが笑い出す。
「店の前で昼まで立ってたら焼けちゃうぞ」
ハンスが冗談めかして突っ込み、ソフィアがくすくすと笑う。
「じゃあ、私も後で寄らせてもらうわね。今度はちゃんとお代、払わせてよ」
ベラがウィンクして言った。笑いと期待に包まれながら、リーナは特製ソースの瓶を見つめる。
「さて、明日はどんな料理を作ろうかな」
夏至祭まで、まだまだ時間はある。もっと美味しい料理を作って、みんなに喜んでもらいたい。お好み焼きの成功に満足しながら、リーナは次の料理のことを考え始めていた。




