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#9

いつの間にか扉はしまっていて、気づけば彼……琥珀の姿はなかった。


「黒田琥珀……。」


ポロっと獅音は呟く。どの声はどこか薄紅色のようなそんな甘い色が含まれているようだった。それと同時に獅音の胸がぎゅっとなる感じがした。痛いけどいつも感じる胸の痛みとは違う痛さだった。名前を知ったばかりなのに、彼のことをもっと知りたくなった。


スケッチブックを渡したときのあの表情。一瞬だけど安心と嬉しさが混ざったような今まで見たことがないやわらかい表情をしるように見えた。


――また、あの表情を見れるかな。


気付けば自然とそう思う自分がいることに獅音は驚く。でもこの思いの正体を獅音はまだ言葉に表せられなかった。

しかし、確かに何かが動き出していることは分かった。


【2日後】


昼休みを知らせるチャイムが鳴る。琥珀はいつものように荷物を整理し、念入りに忘れ物をしていないか確認した後静かに席を立とうとした。

すると――


「琥珀くん!」


手を振りながら笑顔で近づいてくる獅音の姿があった。


――ふ、藤田しおん……。


無意識に琥珀は警戒態勢に体が移る。しかし気にせず獅音は琥珀に話しかけてきた。


「琥珀くんってさ、お昼なんかある?お昼、約束したやつ!」

「あ……っと。」


視線をそらしながら返事を濁そうとする琥珀の姿に獅音は思わずにやっと笑った。


「考え特って言ってくれてたからさ。そろそろ考え終わったころかな―って思ったんだけど。」


――な、なんだ。藤田しおん……なんかうぜぇ。


普段何ら口にして突き放す琥珀だが、なぜか口にはしなかった。


「別に無理にとは言わないんだけど。……あ、いやぁ。ただ一緒に食べたいなっと思っただけで……。」


獅音はあまりにも濁す琥珀に少し焦りながらそれを隠すかのように笑顔を見せそう言った。


あの時……スケッチブックを渡された時と同じとげのない声で話す獅音。そんな獅音の声に琥珀の心が明るさを帯びた淡い色に少しだけ染まっていることが琥珀には疑問に思いながら、呟くように言う。


「べ、別にいいけど。」


その言葉に獅音は一瞬目を丸くした後、まるで子犬のように笑いはしゃいだ。


「マジ!?やった!」

「ちょ、う、うるさい……そんな大声出すな。」

「え、そんな声おっきかった?でも本当に一緒に食べれるなんて思ってもなかったからさ。」


そうヘラヘラな笑顔を浮かべながら言う獅音に琥珀は呆れながら、琥珀は荷物を手に取り教室の外へと向かう。獅音はその隣を当然かのように歩く。でもそんな獅音に対し、琥珀は嫌な気はしなかった。




5限の授業を終え、帰宅した琥珀は自室に戻り乱暴にリュックを置く。そして疲れたのか、ベットへとそのまま飛び込んだ。飛びこんだことで記憶という名の本が頭の中で開いたのが分かった。


――大学に入って……いや多分両親を亡くした中学以来だろうか、身内以外の誰かと一緒に食べたのは。今日のカレー、何かすごくおいしかったな……。多分最近食べていなかったからか?


そんなことを考えながら、琥珀はそのまま目を閉じた。

この時まだ獅音という名前をどう漢字で書くのか琥珀は知らないので「藤田しおん」とひらがな表記にしています^^


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