#8
オレンジ色の夕日の光が差し込む誰もいない教室。
――どこ……クソっ、なんでないんだよ。
琥珀は自分の座っていた席を中心に周辺まで焦りと戦いなgらスケッチブックを探していた。
その時――
「やっと見つけた」
突然聞いたことのあるような声がしたことに琥珀は驚く。声の方向に目をむけると息を切らしながら琥珀を見つめる獅音が教室に入ってきていた。そしてよく見ると彼の左手には琥珀が探していたスケッチブックがあった。
――え、なんで。あいつが持ってる……
「これ、忘れたでしょ。」
とげのない穏やかな声だった。
――こいつ、こんな声だったんだ。こいつの声ちゃんと聴いたの初めてかもしれない。
そう思っているとは1ミリも感じさせないような言葉が琥珀の口からこぼれる。
「……勝手に中身見てないよな。」
でもその言葉は普段よりも小さく、そして少し震えているような声だった。表情では隠せても流石に声では琥珀の感情を隠すことが出来なかった。
「えっと……ごめん。授業用のノートとかなら学生課に届けないですぐに渡さなきゃとか思って中身……見ました。ごめん。でもそのこんなこと言うのは違うのは分かってるんだけど」
――あ……。見られた。見られた……また……また否定される。
「……すごく綺麗だと思った、この絵。綺麗なんだけど、背もどこか悲しいような、寂しくも感じられるような……んっと、とにかく目が離せない、そんな絵。」
絵が見られてしまったという事実から琥珀は床を見ることしかできず、当然この獅音の言葉なんか耳に入っていなかった。すると琥珀の視界に自分のスケッチブックが映り込む。
「返すよ。大事な奴なんでしょ?」
その一言とスケッチブックが返ってきたことの安心感で無意識に琥珀の表情が少し緩んでいた。その表情に獅音が驚きを隠せていなかったことを琥珀は気づいていない。
他にどんな表情をするのだろう……そんな思いがなぜか獅音の頭の中で一瞬よぎった。
「……あ、あのさ名前、琥珀って名前素敵な名前だね。」
獅音の突然の一言に琥珀は驚いたかのように顔を上げた。
獅音は笑っていた。琥珀に苛立ちを与えていた笑顔。でもなぜか今だけは目をそらせなかった。
ハッ我に返った琥珀は小さい声ながらも一言呟く。
「あ、ありがとう。」
獅音は驚くも柔らかく笑う。それは普段誰にでも見せるあの笑顔とはまた違う優しさが混ざった笑顔だった。
「じゃーさ、今度一緒にお昼でもどうかな?あ、そうだ。僕は藤田獅音、よろしくね。それで!どうかな?」
「……か、考えとく。」
そういって琥珀はスケッチブックを受け取った。そして足早にでもその足に恥ずかしさと照れくささを隠しながら教室を出ていった。