#4
授業の終了を伝えるチャイムが鳴ると同時に、教室は椅子を引く音や話し声などまた騒がしさを取り戻す。そんな中、琥珀はすぐに鞄を手に教室から出た。
――ちょ、行くのはやっ!
そう思いながら獅音も琥珀を追いかけるように急いで教室を出た。
獅音が追いかけてきていることに気づいたのか、琥珀の歩くスピードが変わる。
「ねぇ……ちょっ……待って。」
獅音がそう声をかけながら近づこうとするも琥珀は振り返ることなくあの時……あの初めて会った日の時と同じスピードで歩き続ける。
人目が離れた場所でようやく琥珀は足を止めた。琥珀は息を切らせながら言う。
「ハァ、ハァ……ここまでついてきて何のつもり?」
琥珀は警戒するように獅音を見ていた。
「そうだよね、ごめん。ただ……その話してみたかっただけなんだ。ほ、ほらなんかさあの時途中で話が――」
「……立つ。」
「ん?」
「……その笑顔、腹立つ。」
琥珀から出てきたその言葉は刃物化して獅音の心に深く刺さった。一瞬獅音の時が止まったかのように琥珀の目には見え、少し言い過ぎたかと気まずさを琥珀は感じた。しかしそれはただの見間違いだったのか、獅音は変わらずの笑顔で話を続けようとする。その姿が余計に琥珀にとって腹立たしく感じた。
「腹立つ。その笑顔。誰にでもいい顔してなんか全部受けいれますよって勝手に相手の聖域に入ってこようとする感じ。それ、全部作り物でしょ?仮面かぶってるみたいでなんか……見てて、イラっとする。俺、そういうの嫌いだらから。じゃぁ。」
琥珀はすべての思いを言葉にして吐き捨てるように言った後、再び背を向けてその場を去った。獅音は、ただ黙ったままその場を立ち尽くしていた。
そんな獅音を背に歩く琥珀は、とっさに出てしまった『嫌い』という言葉に対し一瞬獅音が表情をかえたことに引っかかっていた。
怒りでも傷ついた顔でもない…どこか切ない顔。
「…なんだよ、あの顔」
獅音から離れるために強く言い放とうと咄嗟に出た『嫌い』という言葉が、あの時の彼の顔が何故かずっと琥珀の頭の中に残っていた。