#36
“でも別にこの本は別だよ!これは、その……ある人にお礼として振る舞いたくて……。
でも普段どんなもの食べてるか、どんなモノ好きかとかよく分からなくてこの本に頼ってた”
ーーあの時の真剣な理由が、これだったのか。お礼……そんなことをされるような覚えないのに。そう言えば、俺あの時……
“料理を振る舞う奴にもそんな顔すんのかな。”
あの時の感情は、羨ましさなのか、それとも嫉妬なのか…。
ふと、感じた感情が、頭によぎる。
それと同時に、自分の頬が淡いピンクへと染まっていくように感じた。
「あ、ごめん。もしかして、味噌汁熱くしすぎた?」
「なんか……うん……暑い。」
――お前のせいで。
最後の一言を琥珀は、声にしなかった。
なぜだろう……苛立っているこの感情に任せて言うことなんてできたはずなのに……声にすることがでなかった。
胸の奥に、何かが潜んでいるような違和感を感じる。
試験管がジワジワと熱くなるような……そんな違和感が。
獅音の謝る一言が、耳に入ることはないまま、琥珀はこの違和感をさらに奥へと隠すかのように味噌汁と共に飲み込んだ。
「ねぇ、お昼食べた後何する?」
獅音は、そう言ってご飯を一口、口に入れた。
「何するって?」
「ほら、ゲームとかさ!」
「いや、勉強しかないだろ。勉強会なんだから。……てゆか、ゲームとかやるんだ。」
琥珀は、辺りを見渡す――が、それっぽいものが置いてある気配もない。
教室でも、周りがゲームしているところを見ている印象が強かった。
「誰が?」
何かを期待しているかのような顔を浮かべながら、琥珀に問いかける。
「いや、おま……藤田が。」
「はぁ……。言ってくれなかったかぁ〜」
「何をだよ。」
「いや別に〜。ゲームとかあまりしたことないけど、なんか勉強会の息抜き?とかお家で集まる時とかの定番みたいな感じじゃん?だから、今こうして家にいるってことを味わいたいというか……」
「毎日この家にいるだろ。とにかく、勉強。じゃなかったら俺は、お暇する。」
そう言いながら、琥珀は満足そうに卵焼きを口にした。
「ぬぇ〜。あ゙、分かった!」
「どっから、その声出してんだよ。」
「じゃあさ、ご褒美ちょうだい?」
「ご褒美?」
「そう!ご褒美あれば頑張れる!」
「何言って……んなものなくたって、どうせ頑張るだろうし、成績だって取るだろ。」
「いや、頑張れない……ご褒美ないと頑張れない!」
小さなため息をつきながら、獅音の言うご褒美について考える。
――ご褒美って言ったってどうせ、お菓子渡すとか、またあのカフェ行くとかだろ。
結局、目を輝かせながらこちらを見る獅音の瞳に負け、話を聞くことにした。
「例えば?」
「まじ、いいの!?じゃあさ、俺に1日ちょうだい!」
「へ?」
急な獅音の返答に、今度は琥珀の声が裏返った。




