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#35

琥珀は、テーブルの前に並べられた料理から目を離せないでいた。


――す、すげぇ……旅館だこれ。旅館行った事ないけど。こいつの母さんすげぇ。


琥珀の前に並べられたのは、白米、味噌汁、ほうれん草のお浸し、生姜焼きそして卵焼き。


「サプライズ!さ、食べよ!」


手を広げ料理をアピールしたのは一瞬。

すぐに獅音は、椅子に腰を下ろしお茶を注ぎ始めた。


「さ、食べよ、食べよ!」

「お、おう。いただきます。」


琥珀は、どれから食べるべきか、手を合わせて挨拶をしたまま固まってしまった。

そんな様子を獅音は、笑みを浮かべて見ている。彼の様子はどこか上機嫌そうだった。


「な……んでそんな見てんだよ。食べにくい。」

「いつも学食で一緒に食べてるじゃん!」


食べにくさを感じながら、琥珀は卵焼きを取る。

一口、口の中に入れた瞬間、琥珀は視線を下ろしたまま固まってしまった。


「ど……うかな?もしかして甘すぎた?ごめん、砂糖多かったかも……琥珀甘い方が好きかなって思ったんだけど……あ、もし口に合わなかったら無理して食べないで!残して!あぁ、やっぱりサプライズじゃなくて、ちゃんと好み聞いてやるべき――」

「……好き。」

「へ?」


急な琥珀の返答に獅音の声が裏返ってしまう。


「好き。うますぎ、卵焼き。甘くて……うまい。」

「よ、よかった……砂糖入れちゃうと焦げやすくなっちゃうから――」

「え、これ作ったのってお母さんじゃないの?」

「俺だよ!普段、両親は仕事で、夜遅く帰ってきたり、出張とかも多いから小さい頃から料理とか、家事系は俺がやってるんだ!」

「そっか……獅音が。」


あまりの美味しさと、それを獅音が作ったという事実に衝撃を受け、ふとこぼれた自分の最後の一言に、琥珀自身気づかなかった――

が、確かに獅音は聴いていた。


「え、ちょ、待って……」


――落ち着け、僕。え、今獅音って言ったよね?急すぎて……え、言ったよね。待って、何でこんな焦ってるの?


「んだよ。」


自分の言ったことに、気づいていない琥珀は、卵焼きを食べきり、味噌汁を飲む。


「は、これもウマ。豆腐とわかめじゃん。」

「う、うん!昨日、授業が早く終わるから色々作る予定だったんだけど、買い物とか、生姜切ったり、ほうれん草の調理とかしてたら、結構時間かかっちゃって……。本当は肉じゃがとか、しじみの味噌汁にしたり、ひじきの煮物作たっりとか、借りてた本で結構想像してたんだけど、やっぱ理想通りいくのは難しいや!」


そう困った顔をしながら、獅音は笑った。


「いや作れるだけで、すげぇだろ。……てか、何で和食?あ、いや、あの悪く言いたいわけじゃなくて。その――」

「え!だって、あの時、和食って言ってたから!」

「あの時?」

「ほら、俺が前に借りたレシピ本でどういうの食べたいか訊いたら、琥珀が和食って!」


ふと、琥珀の頭の中で何週間か前の学食でのやり取りが流れ始めた。

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