#2
鉛筆で描くたび、幸せだったあの頃の思い出を鮮明に思い出す。両親との本当の愛を感じられた誰にも壊されたくない大切な思い出を。
誰もいないこの教室で1人、こうして絵を……幸せだった思い出を絵にすることだけが琥珀にとって心が落ち着く時間であり、唯一自分が自分でいられる場所だった。だが――
”ガタンッ!!”
突然の物音に驚いた琥珀は、すぐに物音がした方向へと顔を向けた。すると知らない男が琥珀を見ていた。
「誰!?」
――しまった。突然のことすぎて声が少し上がってしまった。誰……。知らない。話したことだってない。
「……すごいなってその絵。」
その一言に琥珀の胸はざわめいた。
――まずい、見られた。
「何も見なかったことにして。」
とにかくこの場を離れたい一心で琥珀はその一言だけを残して教室を出た。
――何も……何も知らないくせに、俺のことだって知らないくせに嘘のような笑顔を浮かべながらすごいとか……簡単に口にするなよ。
ざわついた心を落ち着かせるかのように琥珀は警備員に見つからぬよう裏道を通りながら学校の門まで走り続けた。一度足を止め門を出て振り返る。あの男はついてきていなかった。琥珀は胸をなでおろし走るのをやめた。走ったおかげか冷静を取り戻した琥珀は、あの時のことを改めて思い出す。
『すごいなってその絵』
沢山何か言われた言葉の中でなぜかこの言葉を思い出すたび、焦りや恐怖といったものとはまた違ったざわめきも胸の奥底にあった。
――ほんと、何なんだよ。