#18
振り向くと同時に瞳孔が大きく広がった。その男と目が合う。彼も琥珀と同じく目を大きく広げていた。
「え!?琥珀!?」
まだ理性が残っていたのか、ぎりぎりを攻めた小さい声で驚きの声を発した。するとそれを追うかのように驚きをまだ消せないまま琥珀も口を開く。
「獅音……藤田。」
「ッフ、海外の人じゃないんだから……ックク」
自分の言葉に恥ずかしくなり、琥珀の頬はポッと小さな火がついたかのように赤くなった。そして驚きという感情に身を任せたことで琥珀の口から放たれた言葉は、声を必死に抑えようとする獅音を苦しめていた。そんな中、自分の隣で少し涙目になりながら笑う獅音の様子を碧音は驚きと喜びで何とも言えない表情を浮かべる。しかし二人は気づくことはなく、そのまま獅音は会話を続けた。
「え、でもなんで?バイトしてたの?」
「……お客様、申し訳ございませんがこのフロアでは私語厳禁でお願いいたします。それでは失礼します。」
従業員らしくしつつこの場から逃げるかのように早口で一言残した後、カートのある場所へと戻ろうとした。すると後ろへと持って行った琥珀の左腕が獅音がつかんだことにより前へは持ってこれなかった。
――やべ、捕まった。ってか何かこれデジャブ……。
「ハァ……」
琥珀は小さく吐き捨てるようにため息をついた後、自分の左腕の方へとゆっくり視線を回す。そしてそのまま獅音に目を合わせることはなく口を開いた。
「お客様、困りますので……失礼させていただきたいのですが。」
「まだ質問に答えていただけてないので、お答えいただければと」
逃げたいという一心で放った琥珀の言葉は、獅音の握る力を強くさせた。琥珀の左腕から獅音の逃がさないという思いが伝わってくるような気がした。琥珀は一瞬戸惑うも、すぐにイラつきへと変わった。琥珀はそのイラつきを抑えるかのように奥歯を噛むも従業員ということを意識しながら振る舞う。
「申し訳ございません、個人的なご質問は控えさせていただきます。それでは」
と同時に思いっきり左腕を前へと持ってくる。しかしまだ動かすことが出来ない。
――この……馬鹿力すぎるだろ。その顔でどんな力隠してるんだよ。
「では――」
何か思いついたか、獅音は口角を上げた。それと同時に琥珀は、すぐに1人になれ……作業はできないという予感がした。
「――料理本が置いてある場所、教えていただけませんか?」
――ハァ……昨日の困らせたくないっていう気持ちはどこにいったんだよ。なんかいつもの藤田獅音じゃなくないか……。